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交流会2
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廊下を進んでいき、人気のない場所までやって来たところでサディアスはアニュエラを解放した。
「まあ。突然どうしましたの?」
腕を擦りながらアニュエラが尋ねる。質問というよりも、確認といったような口調だ。何故会場から連れ出されたのか、分かっているのだろう。
「……君は私の側妃だろう。にも拘わらず、私から離れて他の招待客と談笑しているのはどういうことだ?」
「はい?」
「側妃は側妃らしく、私とミリアの補佐をしていろと言っているんだ」
「そんなの、お断りしますわ」
「何だと?」
「だって私は、あくまで王女殿下の友人として招待されただけです。あなた方のお世話をする義務はございませんもの」
唖然とするサディアスに、アニュエラがしれっと切り返す。
「しかし……王太子と正妃を放置して好き勝手に振る舞うというのは、君への心証が悪くなると思うのだが?」
「ご心配には及びません。今夜はどうかご自由にお楽しみくださいと、先ほどの方々からも言いつかっております」
「……何故君は彼らとあんなに親しいんだ」
「アリーシャ様と同じように、手紙のやり取りをさせていただいてますの」
「どのような内容だ。教えろ」
「先方の許可なく、お教えすることは出来ません」
「私は、君の夫だぞ!」
サディアスの怒号が薄暗い廊下に響き渡る。
するとアニュエラは小さく溜め息をつき、扇を取り出して口元を隠した。
「サディアス様……先ほどからどうしましたの? まさか、私を頼ろうなどと思っていませんわよね」
「た、頼るっ!? ふざけるな、私は君のようなっ」
「そうですわよね。殿下はお飾りの側妃を頼るような御方ではないと、私も存じておりますわ」
「…………」
そう言い切られてしまうと、これ以上はこちら何も言い出せなくなる。
アニュエラを頼った時点で、自分が無能であると認めるようなものだ。
「……時間を無駄にした。君に側妃の役割を求めた私が間違いだった」
「そうですわね。ミリア様もお一人で寂しがっていると思いますわ」
アニュエラに言われて、ようやくミリアを置いてきたことを思い出す。
だが申し訳ないとは感じなかった。どうせ今頃、ワインを飲んで楽しんでいるだろう。
アニュエラに少し遅れて会場に戻ると、何やら招待客たちがざわついていた。
そしてサディアスを見るなり、軽蔑や驚きの表情を見せる。
(何だ?)
訝しんでいると、ようやくミリアを見付けた。が、何故か兵士たちに拘束されている。
「ちょっろ何すんのよ! 私を誰だと思ってりゅの!? 王太子妃よー!」
酩酊しているのか、顔が赤く呂律も回っていない。唯一自由の利く右手で空のグラスを振り回している。
そして、そこから少し離れたところに人が集まっている。
その中心にはアニュエラと十二、三歳の少女がいた。
少女のほうはレディーナ王国の王女だ。
泣きじゃくりながらアニュエラにしがみつこうとするのを、周囲に止められている。
アニュエラのドレスには、スカートの辺りに大きな赤紫色の染みが出来ていた。あんなもの、先程はなかった。
幼い姫君が泣き叫ぶ。
「ごめんなさい、アニュエラ様! 私が、私のせいで……っ」
「いいえ、殿下は何も悪くありませんわ」
アニュエラが優しい声で宥めていると、周りの貴族も口を開き始める。
「私は一部始終を見ておりましたが、お二人とも悪くございません。あれはどう考えてもミリア妃に非がございます」
「まさか王女にあのようなことを……とんでもないお妃様だ」
「まったく……ミジューム王家はどのような教育をしているんだか」
「サディアス王太子はどこに行ったんだ?」
彼らの口振りとこの状況から、何が起こったのかは想像がつく。
だが脳が理解を拒んでいる。
自分の妻が他国の王女に危害を加えようとしていたなど、にわかには信じられなかった。いや、信じたくなかった。
「まあ。突然どうしましたの?」
腕を擦りながらアニュエラが尋ねる。質問というよりも、確認といったような口調だ。何故会場から連れ出されたのか、分かっているのだろう。
「……君は私の側妃だろう。にも拘わらず、私から離れて他の招待客と談笑しているのはどういうことだ?」
「はい?」
「側妃は側妃らしく、私とミリアの補佐をしていろと言っているんだ」
「そんなの、お断りしますわ」
「何だと?」
「だって私は、あくまで王女殿下の友人として招待されただけです。あなた方のお世話をする義務はございませんもの」
唖然とするサディアスに、アニュエラがしれっと切り返す。
「しかし……王太子と正妃を放置して好き勝手に振る舞うというのは、君への心証が悪くなると思うのだが?」
「ご心配には及びません。今夜はどうかご自由にお楽しみくださいと、先ほどの方々からも言いつかっております」
「……何故君は彼らとあんなに親しいんだ」
「アリーシャ様と同じように、手紙のやり取りをさせていただいてますの」
「どのような内容だ。教えろ」
「先方の許可なく、お教えすることは出来ません」
「私は、君の夫だぞ!」
サディアスの怒号が薄暗い廊下に響き渡る。
するとアニュエラは小さく溜め息をつき、扇を取り出して口元を隠した。
「サディアス様……先ほどからどうしましたの? まさか、私を頼ろうなどと思っていませんわよね」
「た、頼るっ!? ふざけるな、私は君のようなっ」
「そうですわよね。殿下はお飾りの側妃を頼るような御方ではないと、私も存じておりますわ」
「…………」
そう言い切られてしまうと、これ以上はこちら何も言い出せなくなる。
アニュエラを頼った時点で、自分が無能であると認めるようなものだ。
「……時間を無駄にした。君に側妃の役割を求めた私が間違いだった」
「そうですわね。ミリア様もお一人で寂しがっていると思いますわ」
アニュエラに言われて、ようやくミリアを置いてきたことを思い出す。
だが申し訳ないとは感じなかった。どうせ今頃、ワインを飲んで楽しんでいるだろう。
アニュエラに少し遅れて会場に戻ると、何やら招待客たちがざわついていた。
そしてサディアスを見るなり、軽蔑や驚きの表情を見せる。
(何だ?)
訝しんでいると、ようやくミリアを見付けた。が、何故か兵士たちに拘束されている。
「ちょっろ何すんのよ! 私を誰だと思ってりゅの!? 王太子妃よー!」
酩酊しているのか、顔が赤く呂律も回っていない。唯一自由の利く右手で空のグラスを振り回している。
そして、そこから少し離れたところに人が集まっている。
その中心にはアニュエラと十二、三歳の少女がいた。
少女のほうはレディーナ王国の王女だ。
泣きじゃくりながらアニュエラにしがみつこうとするのを、周囲に止められている。
アニュエラのドレスには、スカートの辺りに大きな赤紫色の染みが出来ていた。あんなもの、先程はなかった。
幼い姫君が泣き叫ぶ。
「ごめんなさい、アニュエラ様! 私が、私のせいで……っ」
「いいえ、殿下は何も悪くありませんわ」
アニュエラが優しい声で宥めていると、周りの貴族も口を開き始める。
「私は一部始終を見ておりましたが、お二人とも悪くございません。あれはどう考えてもミリア妃に非がございます」
「まさか王女にあのようなことを……とんでもないお妃様だ」
「まったく……ミジューム王家はどのような教育をしているんだか」
「サディアス王太子はどこに行ったんだ?」
彼らの口振りとこの状況から、何が起こったのかは想像がつく。
だが脳が理解を拒んでいる。
自分の妻が他国の王女に危害を加えようとしていたなど、にわかには信じられなかった。いや、信じたくなかった。
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