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友人
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宮廷料理人が腕によりをかけて作った前菜が、テーブルに並べられていく。
その後はポタージュ、魚料理、肉料理……。
普段、王族でも滅多に口に出来ない食材をふんだんに用いたそれらに、会長が感嘆の声を上げる。
「食材、見た目、香り、食感、味……どれをとっても見事な料理の数々です。このような手厚いもてなし、感謝いたします」
「こちらこそ、お気に召していただきありがとうございます」
柔和な笑みを浮かべ、サディアスも感謝の言葉を述べる。
そして、視線をさりげなく会長から娘へと移す。ちょうどあちらもサディアスを見ていたらしく、視線が合わさった。
互いに笑みを零し、軽く頭を下げる。
あの視線には見覚えがある。自分に想いを寄せる乙女の眼差しだ。
参ったなと、サディアスは目を伏せた。
自分には既に妻が二人もいる。流石に三人目を迎えるわけにはいかない。
過去に多数の妻を持った王の時代があったそうだが、妃同士の確執が多発し、国王が暗殺されるという最悪の結末を迎えている。
ああはなるまい。サディアスが念頭に置いていることだった。
(だが……彼女は魅力的だ)
食事の所作も美しく、ふっくらとした赤い唇から目が離せない。
言いようのない感情をワインと共に胃の中に押し込める。
会食は滞りなく終了した。
契約に関する会談は三日後に行われる。明日明後日はこの国を観光したいとのことだった。
「私が案内人を務めましょう」
「いえ、殿下にそこまでしていただくわけにはまいりません。どうかお気になさらずに」
「あなた方を我が国にご招待したのは、この私です。お任せください」
会長にやんわりと断られたものの、サディアスは食い下がった。
観光する予定と聞いていたので、事前にその準備を行っていたのだ。
高位貴族御用達のレストランも、貸し切りの手配を済ませている。
確かに詳しい話も聞かずに勝手に準備したのは、こちらの落ち度だ。
だがその辺の案内業者よりも、自分の方が彼らを満足させられるとサディアスは自負していた。
すると、娘が眉を下げながら口を開く。
「申し訳ありません、殿下。明日明後日は、私の友人に観光のガイドをお願いしているのです」
「この国にご友人がいらっしゃったのですか?」
「はい。以前から文通をさせていただいておりました」
「そうですか……それはよかった」
嬉しそうに言われてしまい、サディアスはぎこちない笑みを浮かべた。
友人と言うからには女性なのだろう。いや、女性であって欲しい。そう願ってやまない。
「……あら? 殿下はご存じないのですか?」
「え?」
心当たりがなく、サディアスが目を瞬いた時だった。
コンコンと扉をノックする音が聞こえた。何かあったのかと、サディアスは眉を顰める。緊急の時以外は、文官や侍女の立ち入りを禁止しているのだが。
「アン様だと思います。食事が終わった頃を見計らって、こちらにいらっしゃるとのことでしたので」
アンとは誰だ。サディアスが様々な人物を思い浮かべている間にも、扉はゆっくりと開いた。
そして、一人の女性が悠然とした足取りで室内に足を踏み入れる。
「き……君は何をしているんだ、アニュエラ!」
サディアスが大きく目を見開いて叱責する。
(こんな大事な時に、この女は!)
だがアニュエラは、動揺することなく平然とした様子で答える。
「何って……私の友人に会いに来ただけですわよ」
「友人……?」
「ええ。こちらのアリーシャ様とは、文通をさせていただいていますの」
アニュエラが目配せをすると、娘は頬を緩ませながら頭を下げた。
会長一家のガイドを務めるのは、アニュエラだった。
そのことをサディアスは何も知らされていない。
その後はポタージュ、魚料理、肉料理……。
普段、王族でも滅多に口に出来ない食材をふんだんに用いたそれらに、会長が感嘆の声を上げる。
「食材、見た目、香り、食感、味……どれをとっても見事な料理の数々です。このような手厚いもてなし、感謝いたします」
「こちらこそ、お気に召していただきありがとうございます」
柔和な笑みを浮かべ、サディアスも感謝の言葉を述べる。
そして、視線をさりげなく会長から娘へと移す。ちょうどあちらもサディアスを見ていたらしく、視線が合わさった。
互いに笑みを零し、軽く頭を下げる。
あの視線には見覚えがある。自分に想いを寄せる乙女の眼差しだ。
参ったなと、サディアスは目を伏せた。
自分には既に妻が二人もいる。流石に三人目を迎えるわけにはいかない。
過去に多数の妻を持った王の時代があったそうだが、妃同士の確執が多発し、国王が暗殺されるという最悪の結末を迎えている。
ああはなるまい。サディアスが念頭に置いていることだった。
(だが……彼女は魅力的だ)
食事の所作も美しく、ふっくらとした赤い唇から目が離せない。
言いようのない感情をワインと共に胃の中に押し込める。
会食は滞りなく終了した。
契約に関する会談は三日後に行われる。明日明後日はこの国を観光したいとのことだった。
「私が案内人を務めましょう」
「いえ、殿下にそこまでしていただくわけにはまいりません。どうかお気になさらずに」
「あなた方を我が国にご招待したのは、この私です。お任せください」
会長にやんわりと断られたものの、サディアスは食い下がった。
観光する予定と聞いていたので、事前にその準備を行っていたのだ。
高位貴族御用達のレストランも、貸し切りの手配を済ませている。
確かに詳しい話も聞かずに勝手に準備したのは、こちらの落ち度だ。
だがその辺の案内業者よりも、自分の方が彼らを満足させられるとサディアスは自負していた。
すると、娘が眉を下げながら口を開く。
「申し訳ありません、殿下。明日明後日は、私の友人に観光のガイドをお願いしているのです」
「この国にご友人がいらっしゃったのですか?」
「はい。以前から文通をさせていただいておりました」
「そうですか……それはよかった」
嬉しそうに言われてしまい、サディアスはぎこちない笑みを浮かべた。
友人と言うからには女性なのだろう。いや、女性であって欲しい。そう願ってやまない。
「……あら? 殿下はご存じないのですか?」
「え?」
心当たりがなく、サディアスが目を瞬いた時だった。
コンコンと扉をノックする音が聞こえた。何かあったのかと、サディアスは眉を顰める。緊急の時以外は、文官や侍女の立ち入りを禁止しているのだが。
「アン様だと思います。食事が終わった頃を見計らって、こちらにいらっしゃるとのことでしたので」
アンとは誰だ。サディアスが様々な人物を思い浮かべている間にも、扉はゆっくりと開いた。
そして、一人の女性が悠然とした足取りで室内に足を踏み入れる。
「き……君は何をしているんだ、アニュエラ!」
サディアスが大きく目を見開いて叱責する。
(こんな大事な時に、この女は!)
だがアニュエラは、動揺することなく平然とした様子で答える。
「何って……私の友人に会いに来ただけですわよ」
「友人……?」
「ええ。こちらのアリーシャ様とは、文通をさせていただいていますの」
アニュエラが目配せをすると、娘は頬を緩ませながら頭を下げた。
会長一家のガイドを務めるのは、アニュエラだった。
そのことをサディアスは何も知らされていない。
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