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会長一家

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 そして一ヶ月後。
 豪奢な造りをした一台の馬車が、王宮の正門をくぐった。
 そこから降りてきたのは、初老の男女と美しい顔立ちの少女だ。
 クレイラー商会の会長夫妻と、その一人娘である。

「本日は遠路遙々はるばるご足労いただき感謝いたします」

 文官とともに、一家を出迎えたサディアスが恭しく腰を折る。

「こちらこそ、ご招待いただきありがとうございます」

 会長もにこやかに会釈をする。
 最初の掴みは完璧だ、とサディアスは内心で安堵の溜め息をつく。

(それにしても)

 会長の妻と娘をまじまじと観察する。
 艶やかな黒髪に菫色の瞳。この地域ではあまり見かけない髪と瞳の色だ。
 だからだろうか。特に娘に対して、不思議な欲求が芽生える。
 彼女にもっと近付きたいような、彼女を手に入れたいような……

「あの……どうかなさいましたか?」

 穴が開くほど見てしまっていたらしい。娘が小首を傾げながら尋ねてきた。

「い、いえ。美しい方だと思っただけです」
「まあ。ありがとうございます」

 正直な感想を述べると、娘は嬉しそうにはにかみながら頭を下げた。
 ミリアともアニュエラとも違うタイプの少女だ。

「では、早速ご案内いたします。こちらへどうぞ」

 文官を先頭にして、王宮内を歩く。
 サディアスは、娘がキョロキョロと周辺を見回していることに気付いた。
 やはり豪商と言えども、王宮に立ち入る機会は少ないのだろう。微笑ましい気持ちになる。

 それにしても、ミリアはどこに行ったのだろうか。
 本日の会食に参加するよう伝えたし、本人もそれを了承していた。
 そして自分と共に、会長一家を出迎えるようにとも言っていたはずなのだが。

(だが、かえっていないほうがいいのかもしれないな……)

 以前に比べたらまだマシだが、ミリアの礼儀作法はいまだに怪しい部分がある。
 食事中に何か粗相でもされたら、会談に影響が出かねない。

 しかもクレイラー商会の本拠地は遠く離れた小国で、独自の言語を第一言語として使用している。
 ミリアがそれを習得しているはずもなかった。
 そもそもこの国で習得している者は、どれほどいるだろうか。サディアスもこの日のために急遽覚えたくらいだ。

(アニュエラなら或いは……)

 アニュエラは近隣諸国の言語を、ほぼ会得していた。教育係や侍女が大層褒めていたのを覚えている。その度にサディアスはひどく苛立った。

『アニュエラ妃がついていれば、サディアス殿下もご安心出来ますね』

 侍女長からそう言われた時は、頭から火が噴きそうだった。

 あんな女がいなくても、やり切ってみせる。
 サディアスは自分にそう言い聞かせ、食事の席に着いた。
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