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総辞職

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「お前たちは自分が何を言っているのか分かっているのか?」
「はい。ミリア妃の教育係を辞職させていただきたく存じます」

 国王は絶句する。早朝、ミリア妃の教育係一同が謁見の申し入れを行ったのだ。それも本日中に。
 一日の予定を崩すわけにはいかないと宰相は渋ったものの、結局押し切られてしまった。
 彼らの中には高位貴族出身の学者もいる。すげなく断るわけにもいかなかった。

 そして王の間に入室を許された彼らの手には、辞表が握られていた。

「な、何故だ。給金はしっかり支払っているではないか。何が不服なのだ」
「待遇に不満はございません。よくしていただいております」
「ならば……」
「ですが、我々からこれ以上ミリア妃にお教えすることはございません」

 中央に立っていた初老の男性がはっきりとした口調で告げる。
 かつては王妃の教育係も担った言語学者だ。
 自分にとって古き友人でもある男に辛辣な言葉を浴びせられ、国王は眉を顰める。

「ミリアが幼稚な性格であることは、事前に伝えていたではないか。そしてお前たちも、それを了承したはずだろう」
「仰る通りです。しかし物事にも限度という言葉がございます」
「う、うむ。であるなら、幼い子供を相手にしていると思って……」
「彼女はいずれ王妃となる方です。子供扱いなど出来ません」

 表情一つ変えることなく切り返され、国王は答えに窮する。
 ノーフォース公爵家の娘が、未熟・・であることは承知していた。
 むしろ、多少頭が足りない程度で構わないとさえ思っていた。
 王妃もそのタイプだった。今でこそ威厳のある振る舞いをしているが、若い頃は侍女たちに手を焼かせていた。

 だが、教育係たちが匙を投げるほどではなかった。

「アニュエラ妃の際に楽をした反動かもしれませんね。あの御方は与えられた課題を難なくこなし、我々と談笑を交わす余裕さえありました」
「とにかく、辞職は認めん。ミリアの妃教育を修了させよ」
「……肝心の本人に意欲がないのに、どうしろと仰るのです」
「そこを何とかするのがお前たちの仕事であろう! 私の命に逆らうと申すなら、反逆罪と見なすぞ!」

 国王は苛立ちに任せ、椅子の手すりを拳で叩いた。
 ミリアを正妃に変更したことを、責められているような気分だ。
 妃に一番重要なのは家柄だ。高貴な生まれであり、整った容姿の持ち主であれば、教養や礼節など後で身に付けさせればいいと考えている。

 身に付かないのは、教育係たちの怠慢に他ならない。

「どうぞ、お好きになさってください。我々を処刑したからといって、何の解決にもならないかと思いますが」
「ぐっ……」

 辞表を提出すると決めた時点で、腹を括っていたのだろう。この国の賢人たちに、脅しは通用しなかった。
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