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13.私は星じゃありませんので
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「許してくれ、リリティーヌ。私が悪かった……」
実家に帰ると、私を待っていたのは頬を腫らした父だった。
何か前歯も欠けてる。
父は最近になって、私から離婚のことで相談されていたことを母に教えたらしい。
父としては、笑い話のつもりで。
ところが母は、「どうして今まで言わなかったの」と怒り狂った。
すぐさま父と母の親族が集まり、父は集中砲火を受けることに。
「お前は何を考えているんだ!」
「リリティーヌが可哀想すぎます!」
「男としても、父親としても最低ね。あんたそれでも一族の当主なの?」
「やっぱり前にやらかした奴は、言うことが違うな」
実は私が幼い頃、父は浮気をしたことがあるらしい。
それもあってか、親族全員が父に激怒していた。
特に父方の祖父は怒りを抑えられず、自分の息子を何発も殴ったそう。
父は、精神的にも肉体的にもボロボロにされ、ようやく自分の考えが間違っていたと悟ったらしい。私に何度も謝ってきた。
とりあえず、今回の離婚では全力でサポートすると約束してくれた。
トゥール侯爵家を脱出してからの展開は早かった。
まずは顧問弁護士を通じて離婚の申し出と、レナに奪われたネックレスの返還を要求した。
エリオットのことだから散々ごねると思ったのだが、あちらの弁護士に説得されて泣く泣く応じることにしたのだとか。
堪忍袋の緒が切れた使用人たちが、ストライキを起こしたことも大きかったらしい。
私が精神的苦痛を受けたこと、私の名前を騙ってドレスを購入したことへの慰謝料もしっかり請求した。
エリオットだけじゃなくて、レナに対しても。
するとトゥール侯爵家の弁護士から、レナが屋敷から姿を消したと報せが届いた。
ただしこちらも、あの女が逃亡を計ることは予想済み。
彼女が逃げ込みそうな場所を調べてみると、あっさり発見することが出来た。
レナは関係ないとか色々喚いていたけど、そんなの通用しない。
エリオットに立て替えてもらうのではなく、自分で稼いだ金で慰謝料は支払ってもらう。
ということで、農奴として辺境の地で働かせることにした。
「嫌! レナ、畑仕事なんてしたくない……!」
と泣いていたそうだけど、炭鉱送りにならなかっただけマシと思ってもらわないと。
祖母の形見も無事に戻って来た。
トゥール侯爵家の顧問弁護士が届けてくれたのだ。
あるものと一緒に。
「……これは何ですか?」
「トゥール侯爵が、こちらも渡すようにと……」
困った顔で弁護士が答える。
ダイヤモンドをあしらった星型のブローチと、エリオットが書いた手紙。
すぐにでも突き返したかったけど、何て書いてあるのか気になるので読んでみることにした。
便箋七枚にも渡る大作。その内容は私への謝罪と、復縁を迫るものだった。
ちなみに、ブローチは私との婚約記念日を祝うために買ったものだそうで。
記念日を忘れられたと思って悲しむ私を見たいがために、後から贈るつもりだったらしい。
「はぁー……」
私は深く溜め息をつくと、便箋を丁寧に折り畳んで封筒の中に戻した。
そしてブローチと一緒に、「こちら、お返しいたしますわ」と弁護士に差し出す。
「ですよね。私も受け取ってくださるなんて思っていなかったので……」
「それから、エリオットへ伝言をお願いしてもいいでしょうか?」
「はい。勿論」
「では、『私は夜空の星ではなくて、一人の人間です』とだけお伝えください」
手紙には、『君は僕の輝ける星』的な文章が十回くらい登場していた。
それを読む度に、脱力感が私を襲った。
その後、エリオットとの離婚は無事成立。
だけど今回の件が貴族たちの耳に入り、トゥール侯爵家は現在孤立状態にあるのだとか。
再婚は絶望的と言われている。
というか、エリオットは私に拒絶されたショックが相当大きかったのか、部屋に引き籠もってしまったらしい。
それを見兼ねた先代侯爵が、エリオットから家督を剥奪して次男に継がせるという噂を聞いた。
一方、私は再婚する予定だ。
お相手はとある侯爵様。
向こうも奥様の有責による離婚経験があって、私の事情をよく理解してくれている。
今度こそ、平和な夫婦生活を送れるはず。私はそう信じている。
実家に帰ると、私を待っていたのは頬を腫らした父だった。
何か前歯も欠けてる。
父は最近になって、私から離婚のことで相談されていたことを母に教えたらしい。
父としては、笑い話のつもりで。
ところが母は、「どうして今まで言わなかったの」と怒り狂った。
すぐさま父と母の親族が集まり、父は集中砲火を受けることに。
「お前は何を考えているんだ!」
「リリティーヌが可哀想すぎます!」
「男としても、父親としても最低ね。あんたそれでも一族の当主なの?」
「やっぱり前にやらかした奴は、言うことが違うな」
実は私が幼い頃、父は浮気をしたことがあるらしい。
それもあってか、親族全員が父に激怒していた。
特に父方の祖父は怒りを抑えられず、自分の息子を何発も殴ったそう。
父は、精神的にも肉体的にもボロボロにされ、ようやく自分の考えが間違っていたと悟ったらしい。私に何度も謝ってきた。
とりあえず、今回の離婚では全力でサポートすると約束してくれた。
トゥール侯爵家を脱出してからの展開は早かった。
まずは顧問弁護士を通じて離婚の申し出と、レナに奪われたネックレスの返還を要求した。
エリオットのことだから散々ごねると思ったのだが、あちらの弁護士に説得されて泣く泣く応じることにしたのだとか。
堪忍袋の緒が切れた使用人たちが、ストライキを起こしたことも大きかったらしい。
私が精神的苦痛を受けたこと、私の名前を騙ってドレスを購入したことへの慰謝料もしっかり請求した。
エリオットだけじゃなくて、レナに対しても。
するとトゥール侯爵家の弁護士から、レナが屋敷から姿を消したと報せが届いた。
ただしこちらも、あの女が逃亡を計ることは予想済み。
彼女が逃げ込みそうな場所を調べてみると、あっさり発見することが出来た。
レナは関係ないとか色々喚いていたけど、そんなの通用しない。
エリオットに立て替えてもらうのではなく、自分で稼いだ金で慰謝料は支払ってもらう。
ということで、農奴として辺境の地で働かせることにした。
「嫌! レナ、畑仕事なんてしたくない……!」
と泣いていたそうだけど、炭鉱送りにならなかっただけマシと思ってもらわないと。
祖母の形見も無事に戻って来た。
トゥール侯爵家の顧問弁護士が届けてくれたのだ。
あるものと一緒に。
「……これは何ですか?」
「トゥール侯爵が、こちらも渡すようにと……」
困った顔で弁護士が答える。
ダイヤモンドをあしらった星型のブローチと、エリオットが書いた手紙。
すぐにでも突き返したかったけど、何て書いてあるのか気になるので読んでみることにした。
便箋七枚にも渡る大作。その内容は私への謝罪と、復縁を迫るものだった。
ちなみに、ブローチは私との婚約記念日を祝うために買ったものだそうで。
記念日を忘れられたと思って悲しむ私を見たいがために、後から贈るつもりだったらしい。
「はぁー……」
私は深く溜め息をつくと、便箋を丁寧に折り畳んで封筒の中に戻した。
そしてブローチと一緒に、「こちら、お返しいたしますわ」と弁護士に差し出す。
「ですよね。私も受け取ってくださるなんて思っていなかったので……」
「それから、エリオットへ伝言をお願いしてもいいでしょうか?」
「はい。勿論」
「では、『私は夜空の星ではなくて、一人の人間です』とだけお伝えください」
手紙には、『君は僕の輝ける星』的な文章が十回くらい登場していた。
それを読む度に、脱力感が私を襲った。
その後、エリオットとの離婚は無事成立。
だけど今回の件が貴族たちの耳に入り、トゥール侯爵家は現在孤立状態にあるのだとか。
再婚は絶望的と言われている。
というか、エリオットは私に拒絶されたショックが相当大きかったのか、部屋に引き籠もってしまったらしい。
それを見兼ねた先代侯爵が、エリオットから家督を剥奪して次男に継がせるという噂を聞いた。
一方、私は再婚する予定だ。
お相手はとある侯爵様。
向こうも奥様の有責による離婚経験があって、私の事情をよく理解してくれている。
今度こそ、平和な夫婦生活を送れるはず。私はそう信じている。
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肉体的ざまぁだと最後まで反省しないで終わったりする事が多く逆にすっきりしないのですが、こちらは反省と言うか後悔が入っていて思い知らせた感じがして好きです笑
ありがとうございました。
ざまぁがいい感じで良かった(*´∀`*)♬✧*。