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2.絆された
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馬鹿二人を連れて屋敷に戻る。
私以外の女がエリオットにべったりな様子を見て、メイドが「えっ」という顔をした。
この地獄みたいな状況でも罪悪感ゼロな女もヤバいし、それを咎めようとしないエリオットもヤバい。
話し合いはエリオットの部屋で行うことに。
私は広間でいいだろと思ったけど、
「私……エリオット様のお部屋に行ってみたいです!」
「いいよ。こっちだ」
と、二人で勝手に話を進められた。
まるで初めて恋人のお家にお邪魔しましたみたいな、初々しい雰囲気を醸し出している。
まあそのおかげで、私は怒りモードを継続していられるわけだけど。気を抜いたら涙が出そうだった。
「それでお二人はいつからの関係なのですか?」
「……二年前から」
私が尋ねると、エリオットは気まずそうに答えた。
それでも、ちゃっかり自分の隣に座っている女と手を握り合っている。
二年前。それを聞いて私は遠い目をした。
私たちが結婚したのは三年前なんだけど、たった一年で浮気をしただと……?
「……その人のお名前は?」
「私はレナっていいます。ウエイトレスをしてます」
キリッとした顔で女が名乗った。
エリオットの趣味は食べ歩き。平民向けのレストランを訪れることもよくある。
なるほど、二人はそこで出会ったのか。
私はふぅーと溜め息をついてから、極力感情を込めずに言い放った。
「よし、離婚しましょう」
「な……っ!」
「だって、今もレナさんのことを愛しているようですし。私もそんな人と夫婦として続けていきたくありませんので、とっとと身を引かせていただきます」
「ま、待ってくれ、リリティーヌっ!」
エリオットが真っ青な顔で私に懇願する。
「考え直してくれないかな? たった一度の過ちで、僕たちの全てが終わってしまうのは……」
「終わらせるようなことをしたあなたが悪いんでしょうが!」
被害者面に腹が立って声を荒らげれば、エリオットも流石に言葉を詰まらせた。
浮気なんてよくある話。特に富も権力も持っている貴族なんかは。
私の友人の中にも、浮気癖のある夫がいると笑い話にしている人がいる。
だからエリオットの言う通り、たかが初めての浮気程度で離婚と騒ぐのは過剰なのかもしれない。
しかし、私とて譲れないものがある。
「……では、失礼します」
これ以上彼と話をするのも、彼の顔を見るのも嫌だった。
椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「リリティーヌ……っ!」
腕を引かれ、振り返ったところで抱き締められる。
私が抵抗すると、離れることを許さないとでも言うように腕の力が強くなった。
「悪かった。申し訳ないことをしたと思っている。だけど、君のことは今も心から愛しているよ。その気持ちに偽りはない……」
「っ、だったらどうして私以外の女と……!」
「僕だってたくさん悩んだ。一晩中考えて眠れない夜もあったよ。だけど、選べなくて……ごめん。ごめんよ、リリティーヌ……!」
エリオットの青い目には涙が浮かんでいた。
宝石のように綺麗で、そんなものを間近で見せられたら決心が揺らいでしまう。
そう、この人が私を愛してくれているのは真実。
これまで私に注いでくれた優しさと愛情が、そのことを証明している。
でも……許してしまっていいのか、私には分からなかった。
「やめて……やめて、エリオット。これ以上私を苦しめないで……」
「もう迷わない。君を選ぶ。だから……もう一度僕をしんじて?」
穏やかで優しくて、けれど有無を言わせない声。
私がこくんと頷くと、エリオットは目を細めて微笑んだ。彼の目尻から涙がぽろりと零れ、それを指で拭ってあげれば「ありがとう」と温かな言葉。
信じたい。愛したい。
そんな想いに突き動かされ、広い背中に腕を回した。
今にして思えば、これが私の人生最大のやらかしだった。
私以外の女がエリオットにべったりな様子を見て、メイドが「えっ」という顔をした。
この地獄みたいな状況でも罪悪感ゼロな女もヤバいし、それを咎めようとしないエリオットもヤバい。
話し合いはエリオットの部屋で行うことに。
私は広間でいいだろと思ったけど、
「私……エリオット様のお部屋に行ってみたいです!」
「いいよ。こっちだ」
と、二人で勝手に話を進められた。
まるで初めて恋人のお家にお邪魔しましたみたいな、初々しい雰囲気を醸し出している。
まあそのおかげで、私は怒りモードを継続していられるわけだけど。気を抜いたら涙が出そうだった。
「それでお二人はいつからの関係なのですか?」
「……二年前から」
私が尋ねると、エリオットは気まずそうに答えた。
それでも、ちゃっかり自分の隣に座っている女と手を握り合っている。
二年前。それを聞いて私は遠い目をした。
私たちが結婚したのは三年前なんだけど、たった一年で浮気をしただと……?
「……その人のお名前は?」
「私はレナっていいます。ウエイトレスをしてます」
キリッとした顔で女が名乗った。
エリオットの趣味は食べ歩き。平民向けのレストランを訪れることもよくある。
なるほど、二人はそこで出会ったのか。
私はふぅーと溜め息をついてから、極力感情を込めずに言い放った。
「よし、離婚しましょう」
「な……っ!」
「だって、今もレナさんのことを愛しているようですし。私もそんな人と夫婦として続けていきたくありませんので、とっとと身を引かせていただきます」
「ま、待ってくれ、リリティーヌっ!」
エリオットが真っ青な顔で私に懇願する。
「考え直してくれないかな? たった一度の過ちで、僕たちの全てが終わってしまうのは……」
「終わらせるようなことをしたあなたが悪いんでしょうが!」
被害者面に腹が立って声を荒らげれば、エリオットも流石に言葉を詰まらせた。
浮気なんてよくある話。特に富も権力も持っている貴族なんかは。
私の友人の中にも、浮気癖のある夫がいると笑い話にしている人がいる。
だからエリオットの言う通り、たかが初めての浮気程度で離婚と騒ぐのは過剰なのかもしれない。
しかし、私とて譲れないものがある。
「……では、失礼します」
これ以上彼と話をするのも、彼の顔を見るのも嫌だった。
椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「リリティーヌ……っ!」
腕を引かれ、振り返ったところで抱き締められる。
私が抵抗すると、離れることを許さないとでも言うように腕の力が強くなった。
「悪かった。申し訳ないことをしたと思っている。だけど、君のことは今も心から愛しているよ。その気持ちに偽りはない……」
「っ、だったらどうして私以外の女と……!」
「僕だってたくさん悩んだ。一晩中考えて眠れない夜もあったよ。だけど、選べなくて……ごめん。ごめんよ、リリティーヌ……!」
エリオットの青い目には涙が浮かんでいた。
宝石のように綺麗で、そんなものを間近で見せられたら決心が揺らいでしまう。
そう、この人が私を愛してくれているのは真実。
これまで私に注いでくれた優しさと愛情が、そのことを証明している。
でも……許してしまっていいのか、私には分からなかった。
「やめて……やめて、エリオット。これ以上私を苦しめないで……」
「もう迷わない。君を選ぶ。だから……もう一度僕をしんじて?」
穏やかで優しくて、けれど有無を言わせない声。
私がこくんと頷くと、エリオットは目を細めて微笑んだ。彼の目尻から涙がぽろりと零れ、それを指で拭ってあげれば「ありがとう」と温かな言葉。
信じたい。愛したい。
そんな想いに突き動かされ、広い背中に腕を回した。
今にして思えば、これが私の人生最大のやらかしだった。
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