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29.再会(カミーユ視点)
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ちょうど明日、マリュン協会創立記念の祭典が開かれる。
オデットはマリュン公爵らと街の広場に現れるらしい。
最高過ぎるタイミングにカミ―ユはほくそ笑んだ。一時期は神を恨んだものだが、やはり敬う存在なのだと考えを改める。
何せこの哀れな男に復讐の機会を与えてくれたのだから。
その晩、気を良くしたカミ―ユは酒屋に出向き、店で一番高い酒を二本購入した。味は最高級だが、その分度数も強いので気を付けるようにと店長に言われたものの軽く聞き流した。貴族だった頃によく飲んでいたので、酒には強いという自負があった。
宿屋に戻り、早速一本を飲み干す。あの店長の言っていた通り、最高の味わいだ。一口飲んだだけでほんのりとした甘みの虜となった体が「もっと飲ませろ」と駄々を捏ねる。
数十年ぶりに飲んだ美酒の味に、カミ―ユは酔いしれた。二本目と思ったが、コルクを開ける寸前で思い留まった。こちらはオデットに復讐を遂げた後の祝杯だ。
翌朝、カミーユはふらつきながら宿屋を抜け出した。
頭が痛い。全身が鉛のように重い。吐き気が止まらない。
だが得体の知れない薬に苦しみ続けたカミーユにとってはいつものことだ。体に鞭を打って料理道具を販売する店で果物ナイフを一本購入した。
それを隠し持ち、式典が始まるのをひたすら待ち続ける。
(オデットは私に気付くだろうか。いや、気付くはずだ)
かつての夫を忘れたとは言わせない。
だがオデットの劣化ぶりは酷いものだった。今朝も新聞の写真を見て溜め息をついた。
昔あれほどまでにオデットを愛していたのは何故だろうか。
(さては黒魔術でも使い、私の心を惑わせていたな)
そう考えるだけで腹が立つ。舌打ちをしながらぼんやりと街並みを眺める。
彼女を見付け、カミーユは大きく目を見開いた。
式典までにはまだ時間がある。なのに今、確かにオデットがカミーユの目の前を横切ったのだ。
「オデット……」
写真のような醜い姿などではない。
離婚直前に見た時のような美しさそのままだった。
どす黒い憎しみに染まっていたカミーユの心が浄化される。
「わ、私が間違っていた……!」
やはりオデットは自分の妻に相応しい。悲惨な人生となってしまったが、今からでも十分にやり直せる。
カミーユは走り出し、オデットに追い付くと彼女の腕を掴んだ。
「きゃっ! ちょ、ちょっと何!?」
「いいからこっちに来い!」
人気のない路地裏まで連れていき、彼女を地面に押し倒す。
「オデット……オデット……!」
やっと、ようやく、オデットと一つになれる。その嬉しさに頭がどうにかなりそうだ。勝手に腰も動く。
「早く作るぞ、私とお前の子供を……!」
「あ、あなた……まさかカミーユ……?」
やはり覚えていた。呼び捨てなのが気に食わないが、そんなこと行為の最中に躾ければいいだけの話だ。
そう思っているとオデットの顔はみるみるうちに赤く染まっていった。照れている。愛らしい反応を見せる妻にカミーユは舌なめずりをした。
だが、
「お前がカミーユか……!」
オデットは上半身を起こすと、強く握った拳でカミーユの頬を殴り付けた。
「よくも私のお母さんを苦しめたな、クズ野郎!」
『オデット』の声を聞き付け、街の住人が駆け付ける。そしてすぐに状況を把握して、カミーユを押さえ付けた。
(お母さん? 何のことだ?)
目の前にいるのはオデット本人のはず。なのに何か違和感がある。
「おいクソジジイ、何エミリーちゃんを襲ってやがる!」
「違う! あれはオデットだ! 私の妻だ!」
「はあ? オデット様はエミリーちゃんのお袋だろ!」
自分を取り押さえる男からそう聞かされ、カミーユの頭の中は真っ白に染まった。
オデットはマリュン公爵らと街の広場に現れるらしい。
最高過ぎるタイミングにカミ―ユはほくそ笑んだ。一時期は神を恨んだものだが、やはり敬う存在なのだと考えを改める。
何せこの哀れな男に復讐の機会を与えてくれたのだから。
その晩、気を良くしたカミ―ユは酒屋に出向き、店で一番高い酒を二本購入した。味は最高級だが、その分度数も強いので気を付けるようにと店長に言われたものの軽く聞き流した。貴族だった頃によく飲んでいたので、酒には強いという自負があった。
宿屋に戻り、早速一本を飲み干す。あの店長の言っていた通り、最高の味わいだ。一口飲んだだけでほんのりとした甘みの虜となった体が「もっと飲ませろ」と駄々を捏ねる。
数十年ぶりに飲んだ美酒の味に、カミ―ユは酔いしれた。二本目と思ったが、コルクを開ける寸前で思い留まった。こちらはオデットに復讐を遂げた後の祝杯だ。
翌朝、カミーユはふらつきながら宿屋を抜け出した。
頭が痛い。全身が鉛のように重い。吐き気が止まらない。
だが得体の知れない薬に苦しみ続けたカミーユにとってはいつものことだ。体に鞭を打って料理道具を販売する店で果物ナイフを一本購入した。
それを隠し持ち、式典が始まるのをひたすら待ち続ける。
(オデットは私に気付くだろうか。いや、気付くはずだ)
かつての夫を忘れたとは言わせない。
だがオデットの劣化ぶりは酷いものだった。今朝も新聞の写真を見て溜め息をついた。
昔あれほどまでにオデットを愛していたのは何故だろうか。
(さては黒魔術でも使い、私の心を惑わせていたな)
そう考えるだけで腹が立つ。舌打ちをしながらぼんやりと街並みを眺める。
彼女を見付け、カミーユは大きく目を見開いた。
式典までにはまだ時間がある。なのに今、確かにオデットがカミーユの目の前を横切ったのだ。
「オデット……」
写真のような醜い姿などではない。
離婚直前に見た時のような美しさそのままだった。
どす黒い憎しみに染まっていたカミーユの心が浄化される。
「わ、私が間違っていた……!」
やはりオデットは自分の妻に相応しい。悲惨な人生となってしまったが、今からでも十分にやり直せる。
カミーユは走り出し、オデットに追い付くと彼女の腕を掴んだ。
「きゃっ! ちょ、ちょっと何!?」
「いいからこっちに来い!」
人気のない路地裏まで連れていき、彼女を地面に押し倒す。
「オデット……オデット……!」
やっと、ようやく、オデットと一つになれる。その嬉しさに頭がどうにかなりそうだ。勝手に腰も動く。
「早く作るぞ、私とお前の子供を……!」
「あ、あなた……まさかカミーユ……?」
やはり覚えていた。呼び捨てなのが気に食わないが、そんなこと行為の最中に躾ければいいだけの話だ。
そう思っているとオデットの顔はみるみるうちに赤く染まっていった。照れている。愛らしい反応を見せる妻にカミーユは舌なめずりをした。
だが、
「お前がカミーユか……!」
オデットは上半身を起こすと、強く握った拳でカミーユの頬を殴り付けた。
「よくも私のお母さんを苦しめたな、クズ野郎!」
『オデット』の声を聞き付け、街の住人が駆け付ける。そしてすぐに状況を把握して、カミーユを押さえ付けた。
(お母さん? 何のことだ?)
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「おいクソジジイ、何エミリーちゃんを襲ってやがる!」
「違う! あれはオデットだ! 私の妻だ!」
「はあ? オデット様はエミリーちゃんのお袋だろ!」
自分を取り押さえる男からそう聞かされ、カミーユの頭の中は真っ白に染まった。
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