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28.許さない(カミーユ視点)
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カミーユが惨めな日々を送っている間に、世界は大きな変化を遂げていた。
まず、一部の都市でしか見られなかった列車が広く普及している。このおかげでカミーユはかつて自分が暮らしていた街に戻ることが出来た。
オデット。ああ、早く会いたい。ファルス邸に辿り着くが、門番に追い払われてしまった。自分はカミーユだと名乗ったものの、「誰だそれ」と若い門番は首を傾げる。
そうこうしているうちに玄関の扉が開き、壮年の男が姿を現す。カミーユは一目見て確信した。ジョセフだと。
「外が騒がしいようだから来てみたのだけれど……彼は誰だね?」
「それが『私はカミーユだ。とっととここを通せ』と言いまして……ジョセフ様ご存知ですか?」
「ご存知も何も……」
ジョセフの顔に不快の色が浮かぶ。
このままでは捕らえられる。そう悟ったカミーユは急いでその場から離れた。
「……何ですか、あの男は?」
「君は若いから知らないか。昔カミーユってとんでもないクズがいたんだよ。ただ……」
「ただ?」
「あの男、本当にカミーユか……?」
ジョセフと門番がそんな会話をしていることなど、知るよしもなかった。
逃げた先で安い宿屋を借り、ついでに新聞を買って読んでみる。
そこには写真と呼ばれる奇妙な絵が掲載されていた。まるでこの目で見たものをそのまま紙に描き写したかのようだ。
更に気になる記事を発見した。
「……『マリュン協会創立記念日』?」
マリュン公爵が絡んでいると思っていいだろう。記事に目を通していく。
マリュン協会とは、性被害に苦しむ女性への救済、支援活動を行う団体だ。望まぬ妊娠によって生まれた子供たちの保護も行っており、その活動は数十年前から続いている。
記事の外にある備考欄には、協会創立の詳細が綴られていた。
かつて貴族間で横行した薄汚いビジネスにより、令嬢が性被害に遭った。そんな彼女たちを救うためにマリュン公爵夫妻を中心に、オデット・ルヴェール、トラネル伯爵などが立ち上がったのがきっかけであり……。
「オデット……ルヴェール!?」
聞いたことのない姓だった。ファルス家のものではないはずだ。
もしや平民と結婚をして……?
いや、違う。有り得ないとカミーユは脳裏に浮かんだ可能性をすぐさま消し去った。
しかしそんなカミーユに追い討ちをかけるような文章があった。
オデットの元旦那も令嬢たちに無体を働き、オデットに対しても酷い行いをしていたと。認めたくないが、自分のことだとカミーユはすぐに分かった。
さらに兄の罪を償うため、レーヌ伯爵リオンも活動資金を援助していると一文も記載されていた。
オデットはこんな記事の掲載を許可したのだろうか……。これではカミーユは悍ましい犯罪者だ。
カミーユの愛を理解するどころか、陥れようとしている。
「オ、オデット……こんな女に俺は、俺は……!」
カミーユは一枚の写真を睨み付けた。そこには現在のオデットの姿があった。
たるんだ頬と目元に刻まれた数本の皺。髪も白く染まったみすぼらしい見た目で、下品な笑みを浮かべている。
こんな醜い女に固執していた自分を恥じる。オデットのせいでカミーユは貴族でなくなり、農奴となり、実験動物となった。
許すものか。
まず、一部の都市でしか見られなかった列車が広く普及している。このおかげでカミーユはかつて自分が暮らしていた街に戻ることが出来た。
オデット。ああ、早く会いたい。ファルス邸に辿り着くが、門番に追い払われてしまった。自分はカミーユだと名乗ったものの、「誰だそれ」と若い門番は首を傾げる。
そうこうしているうちに玄関の扉が開き、壮年の男が姿を現す。カミーユは一目見て確信した。ジョセフだと。
「外が騒がしいようだから来てみたのだけれど……彼は誰だね?」
「それが『私はカミーユだ。とっととここを通せ』と言いまして……ジョセフ様ご存知ですか?」
「ご存知も何も……」
ジョセフの顔に不快の色が浮かぶ。
このままでは捕らえられる。そう悟ったカミーユは急いでその場から離れた。
「……何ですか、あの男は?」
「君は若いから知らないか。昔カミーユってとんでもないクズがいたんだよ。ただ……」
「ただ?」
「あの男、本当にカミーユか……?」
ジョセフと門番がそんな会話をしていることなど、知るよしもなかった。
逃げた先で安い宿屋を借り、ついでに新聞を買って読んでみる。
そこには写真と呼ばれる奇妙な絵が掲載されていた。まるでこの目で見たものをそのまま紙に描き写したかのようだ。
更に気になる記事を発見した。
「……『マリュン協会創立記念日』?」
マリュン公爵が絡んでいると思っていいだろう。記事に目を通していく。
マリュン協会とは、性被害に苦しむ女性への救済、支援活動を行う団体だ。望まぬ妊娠によって生まれた子供たちの保護も行っており、その活動は数十年前から続いている。
記事の外にある備考欄には、協会創立の詳細が綴られていた。
かつて貴族間で横行した薄汚いビジネスにより、令嬢が性被害に遭った。そんな彼女たちを救うためにマリュン公爵夫妻を中心に、オデット・ルヴェール、トラネル伯爵などが立ち上がったのがきっかけであり……。
「オデット……ルヴェール!?」
聞いたことのない姓だった。ファルス家のものではないはずだ。
もしや平民と結婚をして……?
いや、違う。有り得ないとカミーユは脳裏に浮かんだ可能性をすぐさま消し去った。
しかしそんなカミーユに追い討ちをかけるような文章があった。
オデットの元旦那も令嬢たちに無体を働き、オデットに対しても酷い行いをしていたと。認めたくないが、自分のことだとカミーユはすぐに分かった。
さらに兄の罪を償うため、レーヌ伯爵リオンも活動資金を援助していると一文も記載されていた。
オデットはこんな記事の掲載を許可したのだろうか……。これではカミーユは悍ましい犯罪者だ。
カミーユの愛を理解するどころか、陥れようとしている。
「オ、オデット……こんな女に俺は、俺は……!」
カミーユは一枚の写真を睨み付けた。そこには現在のオデットの姿があった。
たるんだ頬と目元に刻まれた数本の皺。髪も白く染まったみすぼらしい見た目で、下品な笑みを浮かべている。
こんな醜い女に固執していた自分を恥じる。オデットのせいでカミーユは貴族でなくなり、農奴となり、実験動物となった。
許すものか。
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