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15.再会と決意(カミーユ視点)

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 カミーユがいくら抗議しても、ダミアンが離婚に向けて独断で動き出すのでどうしようもなかった。
 現在レーヌ家の当主は自分だと主張すると、「お前に与えた爵位は直に私へ返還される」ととんでもない答えが返って来た。しかもカミーユの実弟であるリオンが家督を継ぐことになったことを知らされた。

 リオンはまだ九歳の少年で、両親の住む屋敷で暮らす身。
 家督を継ぐには若すぎる。そこで成長するまでの間、自分がこの家を守るのだと説明されたが、カミーユが知りたいのはそこではない。

「冗談じゃない。長男である俺を差し置いて、リオンが跡取り? ありもしない浮気を理由に離婚を要求されている息子への仕打ちとは思えないな……」
「何がありもしないだ! 向こうは証拠を掴んでいる! お前と会っていた令嬢たちも全て白状した! それでまだ白を切るというのか!?」
「父上……落ち着け。俺は他の女に愛を囁くような男ではない。オデットたちはきっと勘違いをして……」
「……もういい。話は終わりだ。私から言うことは何もない」
「はあ……あなたになくとも俺にはある。いいか、父上。オデットの母親と兄が何か企んでいるようだが、ファルス子爵がそんなことを許すと思っているのか?」

 少し冷静さを取り戻してほしい。そう願いを込めつつ尋ねたところ、悪鬼のような形相をしたダミアンに睨み付けられた。これには流石に動揺する。
 だが負けじと睨み返すと重い溜め息の後に、

「お前の知るファルス子爵はもういない……」

 と謎の言葉を残し、屋敷を去って行った。



 離婚についての協議を行いたいと、アデルから直筆の手紙が届いたのは三日後のことだった。カミーユもそれを了承した。
 離婚に応じるつもりなど毛頭ないが、直接顔を合わせる機会などこれしか残されていなかった。
 何度かファルス家に出向いたのだが、門前払いを喰らったのだ。無理矢理押し入ろうとすれば、門番から槍を突き付けられた。自分はオデットの夫だと叫んでも、応対は変わらなかった。

(だがまだ間に合う。何とか説明すれば分かってもらえるはずだ)

 浮気なんて誤解だ。オデットを心から愛している。そのことを延々と伝えるつもりだ。
 離婚が中止となり、オデットが戻ってくればダミアンも家督の件を考え直してくれるだろう。
 全てがこの日に懸かっている。そう意気込みながら紅茶を飲む。もう少しでアデルとジョセフ、それとファルス家に雇われた弁護士が屋敷を訪れる。戦いの前の一杯というわけだ。




 一台の馬車がレーヌ邸の前に停まった。そこから降りる三人……ともう一人。
 彼女の姿を見てカミーユは歓喜で震えた。

(オデット……!)

 彼女が来るなんて知らされていない。だが、ようやく会えた愛しい人にカミ―ユの口元は緩んでいた。
 それに嬉しい誤算がもう一つ。

(……以前より美しくなった)

 あの日ファルス家に向かう直前に会ったオデットの顔はもっと青白かった。
 しかし今はどうだ。肌の血色がよくなり、頬もふっくらとしている。金色の髪も艶やかさを増し、太陽の光を浴びて目映い輝きを放っていた。
 以前よりも美しさを増している妻を目の当たりにし、カミーユは拳を握った。

 やはりオデットとの離婚など考えられない。
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