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14.孤立(カミーユ視点)
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※9話と11話を少し変更しておきました。
気が付けば周囲にいた貴族の視線がカミーユたちへまっすぐ注がれていた。
彼らの表情は様々なものだ。
嫌悪感丸出しで顔を歪める者もいれば、面白い見物だとばかりに笑みを浮かべる者もいる。
そして彼らに共通していることは、誰もカミーユを心配していないという点だ。
恥辱と怒りでカミーユの頬が赤く染まる。
「ふ、ふざけるな! 貴様ら最初から私を騙していたのか!?」
「騙していませんよ。あなたがご自分の立場が悪くなることを、勝手にぺらぺら喋っていただけでしょう?」
「……確かに私は結婚式を挙げなかった理由をオデットのせいにした。そこは認めよう。しかしそうするしかないだろう」
絞り出すような声で釈明すれば、ジョセフが訝しげに首を傾げる。
この男は分かっていない。一族の当主という名の重みを知らないのだ。
カミーユは嘆息してから続きを語った。
「愛しい妻を囲っておきたい。そんな理由で式を挙げない男が当主だなんて、レーヌ家の名に傷が付く。こうするしかなかったんだ」
「そのせいでオデット夫人の評判が下がっているではないか……」
「夫を支え、その家のために身を捧げるのが妻の役目だと私は思って……」
「それは妻ではなく、生贄というのです。カミーユ様」
呆れた表情を浮かべる義兄とその取り巻きにカミーユは絶望する。彼らとは思考のズレがあるようだ。
「……もういい。とにかくオデットを早く私に返してくれ。いい加減寂しい思いをしているんだ」
「嫌です。無理です」
即答された。
「オデットがあなたの屋敷に戻ることは二度とないと思ってください。このまま離婚手続きを進めていきますので」
「離婚!? 何を言っているんだ! 何故私とオデットが別れなければならない!?」
「あなたも分かっているはずです。完全にあなた側の非で離婚出来る要因があると」
「そんなもの存在するか!」
あるはずがない。冷たく接していたくらいで離婚が成立するなんて、そんな馬鹿げた法律などなかったはずだ。
声を荒らげて否定するカミーユだったが、それに対してジョセフは怒るわけでも呆れるわけでもなく、心底不思議そうな表情を見せた。
「……え? それは本気で仰っているのですか?」
「馬鹿にしているのか! それにそもそもだ、貴様は私がオデットを愛していたことを知っていたのだろう?」
「ええ、大分歪んだ形ですが」
「だったらオデットを説得しろ! いいか、あんな女が再婚出来ると思っているのか? 私以外オデットを愛してやれないんだぞ!」
「……気持ち悪いわね」
嫌悪に満ちた声がカミーユの鼓膜に届いた。
マリュン公爵夫人の声だと気付き、慌ててそちらに視線を向けて息を呑んだ。
夫人たちの傍らには夫であるマリュン公爵が立っており、彼もまたカミーユへ侮蔑の眼差しを送っていた。
「な……あ……」
この会場内に自分の味方は誰もいない。
皆ジョセフ、いやファルス子爵家の味方だ。
「……不愉快だ。私は帰らせてもらう!」
そう啖呵を切ってカミーユはホールを後にする。
これでマリュン公爵だけではなく、本日夜会に参加していた貴族とは距離を置くことになるだろう。
しかし貴族はまだまだいる。マリュン家に匹敵する力を持つ家も存在する。彼らを味方につければいいだけの話だ。
それにジョセフはオデットと離婚させると言っていたが、そんなこと出来るわけがない。
奴とアデル夫人がいくら口出ししても、ファルス子爵が二人を黙らせるはず。……はずだった。
屋敷に戻るなり、田舎に暮らしているダミアンが来訪していることを使用人から知らされた。
ちょうどいい。夜会で受けた屈辱を語ろう。そう思っていたカミーユだったが、久方ぶりに再会した父から告げられた言葉に絶句する。
「カミーユ、オデット嬢とは別れろ。お前が騒がなければ慰謝料の額も少なくすると、ファルス家が言ってくれているうちにな」
「……は? 仰ってる意味が分かりません! そんなことより今夜の夜会で……」
「意味が分からない? お前の浮気が原因に決まっているではないか! どうしてお前のような愚か者にオデット嬢を……ああ、私はなんと申し訳ないことをしてしまったのか……!」
頭を抱え、一人で嘆いている父にカミーユも混乱するばかりだった。
話を聞いてますます何故離婚をしなければならないのか、しかもこちらが慰謝料を払う側なのか。
(俺は浮気などしていないぞ……!)
気が付けば周囲にいた貴族の視線がカミーユたちへまっすぐ注がれていた。
彼らの表情は様々なものだ。
嫌悪感丸出しで顔を歪める者もいれば、面白い見物だとばかりに笑みを浮かべる者もいる。
そして彼らに共通していることは、誰もカミーユを心配していないという点だ。
恥辱と怒りでカミーユの頬が赤く染まる。
「ふ、ふざけるな! 貴様ら最初から私を騙していたのか!?」
「騙していませんよ。あなたがご自分の立場が悪くなることを、勝手にぺらぺら喋っていただけでしょう?」
「……確かに私は結婚式を挙げなかった理由をオデットのせいにした。そこは認めよう。しかしそうするしかないだろう」
絞り出すような声で釈明すれば、ジョセフが訝しげに首を傾げる。
この男は分かっていない。一族の当主という名の重みを知らないのだ。
カミーユは嘆息してから続きを語った。
「愛しい妻を囲っておきたい。そんな理由で式を挙げない男が当主だなんて、レーヌ家の名に傷が付く。こうするしかなかったんだ」
「そのせいでオデット夫人の評判が下がっているではないか……」
「夫を支え、その家のために身を捧げるのが妻の役目だと私は思って……」
「それは妻ではなく、生贄というのです。カミーユ様」
呆れた表情を浮かべる義兄とその取り巻きにカミーユは絶望する。彼らとは思考のズレがあるようだ。
「……もういい。とにかくオデットを早く私に返してくれ。いい加減寂しい思いをしているんだ」
「嫌です。無理です」
即答された。
「オデットがあなたの屋敷に戻ることは二度とないと思ってください。このまま離婚手続きを進めていきますので」
「離婚!? 何を言っているんだ! 何故私とオデットが別れなければならない!?」
「あなたも分かっているはずです。完全にあなた側の非で離婚出来る要因があると」
「そんなもの存在するか!」
あるはずがない。冷たく接していたくらいで離婚が成立するなんて、そんな馬鹿げた法律などなかったはずだ。
声を荒らげて否定するカミーユだったが、それに対してジョセフは怒るわけでも呆れるわけでもなく、心底不思議そうな表情を見せた。
「……え? それは本気で仰っているのですか?」
「馬鹿にしているのか! それにそもそもだ、貴様は私がオデットを愛していたことを知っていたのだろう?」
「ええ、大分歪んだ形ですが」
「だったらオデットを説得しろ! いいか、あんな女が再婚出来ると思っているのか? 私以外オデットを愛してやれないんだぞ!」
「……気持ち悪いわね」
嫌悪に満ちた声がカミーユの鼓膜に届いた。
マリュン公爵夫人の声だと気付き、慌ててそちらに視線を向けて息を呑んだ。
夫人たちの傍らには夫であるマリュン公爵が立っており、彼もまたカミーユへ侮蔑の眼差しを送っていた。
「な……あ……」
この会場内に自分の味方は誰もいない。
皆ジョセフ、いやファルス子爵家の味方だ。
「……不愉快だ。私は帰らせてもらう!」
そう啖呵を切ってカミーユはホールを後にする。
これでマリュン公爵だけではなく、本日夜会に参加していた貴族とは距離を置くことになるだろう。
しかし貴族はまだまだいる。マリュン家に匹敵する力を持つ家も存在する。彼らを味方につければいいだけの話だ。
それにジョセフはオデットと離婚させると言っていたが、そんなこと出来るわけがない。
奴とアデル夫人がいくら口出ししても、ファルス子爵が二人を黙らせるはず。……はずだった。
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「……は? 仰ってる意味が分かりません! そんなことより今夜の夜会で……」
「意味が分からない? お前の浮気が原因に決まっているではないか! どうしてお前のような愚か者にオデット嬢を……ああ、私はなんと申し訳ないことをしてしまったのか……!」
頭を抱え、一人で嘆いている父にカミーユも混乱するばかりだった。
話を聞いてますます何故離婚をしなければならないのか、しかもこちらが慰謝料を払う側なのか。
(俺は浮気などしていないぞ……!)
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