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13.処刑場(カミーユ視点)
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参加者たちの視線が一斉にカミーユたちへ向けられる。その眼差しは決して好意的なものではない。
焦りと怒りをどうにか表に出さないようにしつつ、カミーユはぎこちなく笑みを浮かべた。
「酷い言い草をするじゃないか、ジョセフ卿。オデットが私を信じられないと言ったのは、彼女が私を信じようとしないだけだと私は思っている。私を愛そうとする努力が足りないんだ」
「愛する努力~? 本人が愛されている自覚がないのに、どうやって愛せって言うのですかぁ?」
「……愛されている自覚がない?」
オデットのくせに生意気な。それも努力が足りないだけだ。確かに少しだけオデットに冷たくしていると自覚はあるが、彼女のためでもある。なのに一方的に夫のせいにするなんて、教育が甘かったかもしれない。
しかもよりにもよって、家族にそのことを打ち明けているとは。カミ―ユは舌打ちしたくなるのをどうにか堪えた。
「オデットも狡い女性だな。私のいないところで兄に愚痴を零しているとは」
「あなたが一緒にいるところで言うと、後で何言われるか分からないからでしょうよ。それに私は一応、あなたのフォローをしてあげましたよ? あなたがオデットに冷たくするのは単なる照れ隠しだって。そんなので納得するわけないと思っていたし、最終確認のつもりで言ったようなものでしたが」
「最終確認? その言い方だとまるで貴殿は以前から……」
「気に入らなかったですよ? あなたに食い潰された妹の時間が勿体ないと思う程度には。どうにかあなたからオデットを取り返したくても、うちの馬鹿が邪魔をするから手出し出来ず、結婚まで行ってしまったのは業腹でした」
「……!」
この男酔っているからと言って、調子に乗り過ぎではないだろうか。
殴って酔いを醒まさせてやろうかと拳を固めた時だった。
「……そりゃあ、結婚式も挙げさせてくれない旦那となんて円満な夫婦生活は送れないな」
ジョセフと共にいた貴族がぽつりと呟いた。
そのことに胸の奥がひんやりと冷たくなる。だが、それを悟らせないようカミーユはわざとらしく溜め息をついた。
「何の話だ。結婚式を挙げないのはオデットがそれを望んだからで……」
「聖堂の職員が結婚式の予定を確認しに行った際、貴殿から式は挙げないと仰ったそうではないか。で、帰りにオデット夫人とお会いした時にそのことを話したら、悲しそうな顔をされたらしい」
「それは真か? それはどういうことですか、レーヌ伯。あなたの話だとご夫人の我儘が原因だそうですが?」
「いや……」
他の貴族からも追及され、カミーユはこれ以上は誤魔化せないと正直に語ることにした。
「本当は……私がオデットの花嫁衣裳を誰にも見せたくないと思ったからだ。美しい姿をした妻に惚れた誰かがオデットに求愛して、オデットが応じてしまったらどうする?」
「え? オデットのドレス姿が世界一可愛いとして、求婚されたとしてですよ? 何故オデットがそれに応じること前提で考えているのですか。あなたがいらっしゃるのですよ。うちの妹をそんなに心移りしやすい女性だと思っていらっしゃったので?」
「違う、誤解だ。だが、そんな不安に襲われるほど私はオデットを大切に思っている。それこそ鳥籠の中にずっと閉じ込めておきたいくらいに……」
「ですがレーヌ伯は先程、結婚式を挙げなかったのはご夫人が望んだからと仰った。あなたの仰る『大切』とはその程度だったのですね」
カミーユにそう言い放ったのはトラネル伯だった。つい先程まで一緒になって妻のことを悪く言っていたくせに。困惑していると、前方にこちらを窺いながら内緒話をしている夫人たちを見付けた。
その中にはマリュン公爵夫人と……トラネル伯爵夫人もいる。
トラネル伯がにこやかに手を振ると、彼女たちも笑顔で手を振り返す。
「おや。酔いが回ってしまい、ついついありもしない話をしてしまったようです。いけませんな、私の悪い癖だ」
トラネル伯はそう言うが、カミーユは直ぐに嘘だと気付いた。
ジョセフたちからは酒の匂いが一切しないのだ。
だったらジョセフが飲んでいるものは何だ? そう思い視線を向けると、
「ああ、これですか? パトリベール産の葡萄ジュースですよ。ワインもいいですが、こちらも中々」
ジョセフは笑顔でワイングラスの中身を揺らした。
焦りと怒りをどうにか表に出さないようにしつつ、カミーユはぎこちなく笑みを浮かべた。
「酷い言い草をするじゃないか、ジョセフ卿。オデットが私を信じられないと言ったのは、彼女が私を信じようとしないだけだと私は思っている。私を愛そうとする努力が足りないんだ」
「愛する努力~? 本人が愛されている自覚がないのに、どうやって愛せって言うのですかぁ?」
「……愛されている自覚がない?」
オデットのくせに生意気な。それも努力が足りないだけだ。確かに少しだけオデットに冷たくしていると自覚はあるが、彼女のためでもある。なのに一方的に夫のせいにするなんて、教育が甘かったかもしれない。
しかもよりにもよって、家族にそのことを打ち明けているとは。カミ―ユは舌打ちしたくなるのをどうにか堪えた。
「オデットも狡い女性だな。私のいないところで兄に愚痴を零しているとは」
「あなたが一緒にいるところで言うと、後で何言われるか分からないからでしょうよ。それに私は一応、あなたのフォローをしてあげましたよ? あなたがオデットに冷たくするのは単なる照れ隠しだって。そんなので納得するわけないと思っていたし、最終確認のつもりで言ったようなものでしたが」
「最終確認? その言い方だとまるで貴殿は以前から……」
「気に入らなかったですよ? あなたに食い潰された妹の時間が勿体ないと思う程度には。どうにかあなたからオデットを取り返したくても、うちの馬鹿が邪魔をするから手出し出来ず、結婚まで行ってしまったのは業腹でした」
「……!」
この男酔っているからと言って、調子に乗り過ぎではないだろうか。
殴って酔いを醒まさせてやろうかと拳を固めた時だった。
「……そりゃあ、結婚式も挙げさせてくれない旦那となんて円満な夫婦生活は送れないな」
ジョセフと共にいた貴族がぽつりと呟いた。
そのことに胸の奥がひんやりと冷たくなる。だが、それを悟らせないようカミーユはわざとらしく溜め息をついた。
「何の話だ。結婚式を挙げないのはオデットがそれを望んだからで……」
「聖堂の職員が結婚式の予定を確認しに行った際、貴殿から式は挙げないと仰ったそうではないか。で、帰りにオデット夫人とお会いした時にそのことを話したら、悲しそうな顔をされたらしい」
「それは真か? それはどういうことですか、レーヌ伯。あなたの話だとご夫人の我儘が原因だそうですが?」
「いや……」
他の貴族からも追及され、カミーユはこれ以上は誤魔化せないと正直に語ることにした。
「本当は……私がオデットの花嫁衣裳を誰にも見せたくないと思ったからだ。美しい姿をした妻に惚れた誰かがオデットに求愛して、オデットが応じてしまったらどうする?」
「え? オデットのドレス姿が世界一可愛いとして、求婚されたとしてですよ? 何故オデットがそれに応じること前提で考えているのですか。あなたがいらっしゃるのですよ。うちの妹をそんなに心移りしやすい女性だと思っていらっしゃったので?」
「違う、誤解だ。だが、そんな不安に襲われるほど私はオデットを大切に思っている。それこそ鳥籠の中にずっと閉じ込めておきたいくらいに……」
「ですがレーヌ伯は先程、結婚式を挙げなかったのはご夫人が望んだからと仰った。あなたの仰る『大切』とはその程度だったのですね」
カミーユにそう言い放ったのはトラネル伯だった。つい先程まで一緒になって妻のことを悪く言っていたくせに。困惑していると、前方にこちらを窺いながら内緒話をしている夫人たちを見付けた。
その中にはマリュン公爵夫人と……トラネル伯爵夫人もいる。
トラネル伯がにこやかに手を振ると、彼女たちも笑顔で手を振り返す。
「おや。酔いが回ってしまい、ついついありもしない話をしてしまったようです。いけませんな、私の悪い癖だ」
トラネル伯はそう言うが、カミーユは直ぐに嘘だと気付いた。
ジョセフたちからは酒の匂いが一切しないのだ。
だったらジョセフが飲んでいるものは何だ? そう思い視線を向けると、
「ああ、これですか? パトリベール産の葡萄ジュースですよ。ワインもいいですが、こちらも中々」
ジョセフは笑顔でワイングラスの中身を揺らした。
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