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10.妻への苛立ち(カミーユ視点)

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 オデットがファルス家に行ってから一週間が経つ。帰りが遅くなるという便りもなしにだ。
 そのせいでカミーユはずっと苛立っていた。

 一日に一度、彼女の顔を見なければ居ても立っても居られない。そのくらいオデットのことを愛しているというのに、オデットは自分を何とも思わないのか。

(夫である俺よりも家族を優先するなんて……何を考えているんだ、オデットは)

 執務机をとん、とんと爪で叩きながらオデットの未熟さに頭を悩ませる。
 オデットはもうファルス家ではなくレーヌ家の一員なのだ。そうなればレーヌ家を最優先しなければならないことくらい彼女も理解していると思ったが甘かった。

 ファルス子爵はどのような病に罹ったのか。
 それを確かめるべくカミーユはファルス家に書状を送っていたが、内臓系の病気であり、人前に出ることが難しいということしか教えられなかった。

(ファルス家もファルス家だ。オデットをさっさとこちらに帰してくれればいいのに)

 オデットがあの家に留まったとして、ファルス子爵の病状がよくなるとでも言うのだろうか。単に病に罹り娘が恋しくなったという理由でオデットを留めているなら、さっさと子離れしろと文句の一つでも言いたい。
 今のオデットはファルス家の令嬢ではなく、カミーユの愛する妻なのだから。
 嘆息してから窓へ視線を向ければ、禍々しい赤色に染まった空が広がっていた。本日もオデットは帰って来なさそうだ。

「カミーユ様、そろそろお時間でございます」
「分かっている。今準備をしよう」

 執事に声をかけられ、準備を始める。
 今晩はマリュン公爵の屋敷で夜会が開かれる。この国で最も権力を持つと言われる大貴族の主催だ。絶対に遅れてはならない。

(オデットのことも気がかりだが、思考を切り換えなければ)

 マリュン公爵との繋がりを深くすること。それが夜会に参加する最大の目的だ。カミーユだけではなく、他の参加者も同じのはず。

「今晩の夜会に参加する貴族の中に、ジョセフ卿がおります」
「……何?」

 オデットの兄も参加する。その情報にカミーユは動きを止めた。

「夜会に招待されているのは高位貴族を除けば、ごく一部の貴族だけだ。子爵の息子が呼ばれるとは……」
「はい。何でも近頃、マリュン公爵の屋敷に通い詰めて勉学を学んでいるそうですね」
「……子爵の令息が公爵家で?」

 確かにジョセフは賢い男だとカミーユは思っている。
 あの口調のせいで楽観的かつ軽薄な性格だと思われがちだが、妹と似て勉強家なのだ。
 もしかすると、マリュン公爵もそんな部分を一目置いているのかもしれない。

(しかし、これは面白くないな)

 ジョセフが気に入られた一方で、カミーユは未だマリュン公爵とは言葉を交わしたこともない。
 やはりジョセフは何も深く考えない馬鹿な男だ。妹の夫の立場をまるで理解していない。

 夜会の場でジョセフに会ったら「あまり目立つな」と説教をするついでに、マリュン公爵に気に入られた秘訣でも聞き出そう。

 それからオデットがレーヌ家に帰ってくるように、協力してもらわなければ。


 
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