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9.兄との再会
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オデットは結婚生活だけでなく、婚約期間にカミーユに言われたこと、されたことも全てアデルに告げた。感情的になってしまい、言葉遣いが荒い部分もあったがアデルは静かに話を聞いてくれた。
そして一通り話し終えると、
「……想像以上ね。初めて会った時から嫌な予感はしていたけれど、ここまでとは思わなかった」
アデルは額に手を当てながら深く息を吐いた。
「結婚式を挙げないなんて馬鹿なことを言い出した時に、わたくしは婚約解消すべきだとコンスタンに言ったのよ」
「そうだったのですか?」
「当たり前じゃない。貴族同士の結婚で式を挙げないなんて、よほどのことがない限り有り得ないわ。コンスタンはそれを『カミーユ卿が望んでるのなら受け入れるべき』って無視したの。ああ、思い出すだけで忌々しい……」
アデルは苛立ちを隠さないまま庭園へ視線を向けた。
するとコンスタンもこちらを見ていたらしい。元妻と目が合った途端、慌てて逸らした。
なのでオデットも知らない振りをして焼き菓子を食べる。
自分はこれからどうすべきなのだろうか。アデルに助言を求めようとした時だった。
廊下の方が騒がしくなり始める。それから聞き覚えのある声。
(あの人が来ているのかしら)
オデットがドアの方へ目を向けると同時に、勢いよく開かれて自分と似た顔立ちの青年が入ってきた。
「母さん、オデットが帰ってきてるってほんと!?」
「ジョセフお兄様!」
「あ、オデット! 久しぶり元気にしてた?」
以前と変わらない明朗な笑顔を見せる兄に、オデットも「はい」と明るく返事をする。
兄妹の再会に頬を緩めつつ、アデルは息子を軽く注意した。
「ジョセフ、家の中だからってその軽い言葉遣いはやめなさい」
「あ、申し訳ありません。オデットと久しぶりに会えたのが嬉しくてつい」
「ジョセフお兄様は元気でしたか?」
「元気だよ。ただ、マリュン公爵のところで勉強ばっかさせられて心が折れそう……」
苦笑気味に話しながらジョセフはオデットの隣に腰を下ろした。
それからオデットの顔をじーっと見詰めて一言。
「ねえ、オデットってもしかしてカミーユ様から逃げてきた?」
「え?」
「んー、メイドたちがそういう話してるの聞いちゃった。実際のところどうなの?」
口調こそ柔らかいものの、正直に答えるまでは質問責めされそうな雰囲気だ。
何せジョセフは義兄としてカミーユと度々交流がある。詳しく知っておきたいと思うのは当たり前のことだろう。
言いづらい。そう思うものの、凝視してくる兄には勝てずオデットは口を開いた。
「……今日家に戻って来たのは、お父様が倒れたと手紙が届いたからでした。ですがカミーユ様から離れたいと思っていたのも事実です」
「ふーん。表舞台に立てなくなった父上を上手いこと利用して、オデットを連れ戻したんだ」
ジョセフはテーブルに頬肘をついて、アデルを一瞥した。
「でもどうしてオデットはカミーユ様のことが嫌いなの? あの人、気に入らない相手は本気で遠ざけるタイプだから、オデットを側に置いていたってことは君を妻として認めているって証拠だと思うけど」
「……ダミアン様に従って嫌々私と結婚しただけだと思います。カミーユ様から温かい言葉をいただいたことなんてありませんから」
「実はカミーユ様は君のことが大好きで、今までの冷たい態度は単なる照れ隠しでしたーって種明かしされたらどう思う?」
大好き?
照れ隠し?
オデットの表情は露骨なまでに歪んだ。
「信じられません。信じるための材料が少なすぎます」
オデットがきっぱりと言い放つと、ジョセフは自分の後頭部を数回掻いてから、
「やっぱりね」
と呆れたように言葉を漏らした。
そして一通り話し終えると、
「……想像以上ね。初めて会った時から嫌な予感はしていたけれど、ここまでとは思わなかった」
アデルは額に手を当てながら深く息を吐いた。
「結婚式を挙げないなんて馬鹿なことを言い出した時に、わたくしは婚約解消すべきだとコンスタンに言ったのよ」
「そうだったのですか?」
「当たり前じゃない。貴族同士の結婚で式を挙げないなんて、よほどのことがない限り有り得ないわ。コンスタンはそれを『カミーユ卿が望んでるのなら受け入れるべき』って無視したの。ああ、思い出すだけで忌々しい……」
アデルは苛立ちを隠さないまま庭園へ視線を向けた。
するとコンスタンもこちらを見ていたらしい。元妻と目が合った途端、慌てて逸らした。
なのでオデットも知らない振りをして焼き菓子を食べる。
自分はこれからどうすべきなのだろうか。アデルに助言を求めようとした時だった。
廊下の方が騒がしくなり始める。それから聞き覚えのある声。
(あの人が来ているのかしら)
オデットがドアの方へ目を向けると同時に、勢いよく開かれて自分と似た顔立ちの青年が入ってきた。
「母さん、オデットが帰ってきてるってほんと!?」
「ジョセフお兄様!」
「あ、オデット! 久しぶり元気にしてた?」
以前と変わらない明朗な笑顔を見せる兄に、オデットも「はい」と明るく返事をする。
兄妹の再会に頬を緩めつつ、アデルは息子を軽く注意した。
「ジョセフ、家の中だからってその軽い言葉遣いはやめなさい」
「あ、申し訳ありません。オデットと久しぶりに会えたのが嬉しくてつい」
「ジョセフお兄様は元気でしたか?」
「元気だよ。ただ、マリュン公爵のところで勉強ばっかさせられて心が折れそう……」
苦笑気味に話しながらジョセフはオデットの隣に腰を下ろした。
それからオデットの顔をじーっと見詰めて一言。
「ねえ、オデットってもしかしてカミーユ様から逃げてきた?」
「え?」
「んー、メイドたちがそういう話してるの聞いちゃった。実際のところどうなの?」
口調こそ柔らかいものの、正直に答えるまでは質問責めされそうな雰囲気だ。
何せジョセフは義兄としてカミーユと度々交流がある。詳しく知っておきたいと思うのは当たり前のことだろう。
言いづらい。そう思うものの、凝視してくる兄には勝てずオデットは口を開いた。
「……今日家に戻って来たのは、お父様が倒れたと手紙が届いたからでした。ですがカミーユ様から離れたいと思っていたのも事実です」
「ふーん。表舞台に立てなくなった父上を上手いこと利用して、オデットを連れ戻したんだ」
ジョセフはテーブルに頬肘をついて、アデルを一瞥した。
「でもどうしてオデットはカミーユ様のことが嫌いなの? あの人、気に入らない相手は本気で遠ざけるタイプだから、オデットを側に置いていたってことは君を妻として認めているって証拠だと思うけど」
「……ダミアン様に従って嫌々私と結婚しただけだと思います。カミーユ様から温かい言葉をいただいたことなんてありませんから」
「実はカミーユ様は君のことが大好きで、今までの冷たい態度は単なる照れ隠しでしたーって種明かしされたらどう思う?」
大好き?
照れ隠し?
オデットの表情は露骨なまでに歪んだ。
「信じられません。信じるための材料が少なすぎます」
オデットがきっぱりと言い放つと、ジョセフは自分の後頭部を数回掻いてから、
「やっぱりね」
と呆れたように言葉を漏らした。
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