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5.決意

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 部屋に戻り、オデットは深呼吸を数回繰り返した。
 そして体も心も落ち着きを取り戻したところで、ぽつりと言葉を零す。

「わたくし……カミーユ様と離婚するわ」

 これは誰かに聞かせるわけではなく、自分に対する言葉。
 結構とんでもないことをしようとしているのは分かっているし、上手くいくかも分からない。
 けれど、やるしかないのだ。
 自分の未来のためにも。

「そんなことを鍵も掛けないで仰ってはいけませんよ」
「クロエ!」

 いつの間に部屋にいたクロエは、頬が腫れていること以外はいつもと変わらない。
 けれど彼女にまだ謝っていないと、オデットはクロエに深々と頭を下げた。

「ごめんなさい、クロエ。わたくしのせいであなたをこんな目に遭わせてしまったわ」
「オデット様は謝らないでください。ですがカミーユ様は少し陰湿な御方ですね。オデット様を苦しめたいからという理由で私を辞めさせようとするなんて」
「………」
「そんなことより、先程の話をもっと詳しくお聞きしたのですが」

 クロエに顔を覗き込まれながら訊ねられ、オデットは言葉が出なかった。反対されるかもしれない。そう考えると、先ほど覚悟を決めたはずなのにすぐに揺らいでしまった。
 しかし「怖じ気付かないで!」と自身に言い聞かせるように頭を振って、口を開いた。

「カミーユ様にとってわたくしは疎ましい存在で、嫌々結婚した相手なの。わたくしもそう思っている人と一緒にいるのは辛いわ」
「そう……ですよね。オデット様に対するカミーユ様の態度は異常です。愛のない結婚だとしても、普通は情を持つものなのに……」
「だから離婚したいの。離婚したらわたくしはもう貴族じゃいられなくなると分かっていても……」
「えっ!」

 クロエがぎょっと目を見開く。

「どうして貴族じゃいられなくなるんですか! 罪を犯したわけじゃないのに!」
「だって、わたくしの都合で離婚するから……お、おかしいかしら?」
「離婚については私も賛成ですけど、平民になるというのは……」
「離婚になれば、わたくしの家とレーヌ家の関係は破綻するわ。そうなったら両親に合わせる顔がないもの」

「離婚してきました!」と堂々胸を張って里帰り出来るほど、図太い神経をしているわけでもない。
 それに前から結婚に反対していた母はともかく、レーヌ家との友好関係を重視している父からは大目玉を喰らうだろう。
 どうせ復縁するように命じられる。

 オデットにとって復縁など有り得ない話だ。
 自分と一緒にいたくないと思う相手と結婚生活を続ける。カミーユに色々言われ続けた婚約期間とは違うのだ。同じ屋敷で暮らしているのだから、顔を合わせる機会が必然的に多い。

「オデット様、本気なんですね」
「……冗談でこんなこと言わない」

 今よりも辛い思いをするかもしれない。それでも自分が選んだ苦難の道だ。後悔は絶対にしないと心に決めている。
 オデットのそんな決心を感じ取ったのか、クロエは神妙な顔つきで「分かりました」と相槌を叩いた。

「ですが、一旦冷静になりましょう」

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