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4.初めて出会った日(カミーユ視点)

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 婚約者となる少女を初めて見た時、カミーユはこう思った。
 何で男の自分よりも美しくない女と結婚しなければならないのかと。

 類稀なる美貌を持つカミーユにとって、異性の殆どは蔑みの対象だった。
 女性の価値はいかに美しく、いかに跡継ぎを産める健康的な体を持っているかで決まる。カミーユはその前者を見極めるため、自分を判断基準としていた。
『神からの贈り物』とまで称される美少年の前では、どんな少女の可憐さも霞むとされる。幼少期にカミーユが作ったルールはあまりにも残酷だった。

 そしてカミーユは、自分よりも劣る少女や女性を徹底的に貶した。使用人や自らの母親すらもその対象である。
 父親でありレーヌ家当主のダミアンに咎められてからは流石に身近な相手への態度は軟化したが、それ以外には相変わらずだった。

 だから今まで出会ってきた異性の中で、とびきり不細工な少女が婚約者として屋敷にやって来てカミーユは激怒した。

(こんなブスと結婚だと!? ふざけるな……!)

 完全に嫌がらせとしか思えなかった。
 これと夫婦になった暁には、母親によく似た見てくれの悪い子供が産まれるだろう。
 しかも怯えた表情で母親の後ろに隠れたのも気に食わない。まるで被害者は自分だというような態度だ。
 親が決めた結婚だ。まだ子供の身で相手を選ぶ権利などない。
 だが、嫌みの一つや二つは言っておきたい。そう思い、少女の腕を掴んで母親の背後から引き摺り出した。

 そして気付いた。

(…….これはこれで中々いいんじゃないのか?)

 よく見れば醜悪、とまではいかない顔の造形だ。自分が美しいと思い込んでいる身の程知らずは、その心の汚さが顔に表れるものだが目の前の少女にはそれがない。
 身の程を理解している。それだけでカミーユは少女に僅かながらに好感を抱くことが出来た。

(このブスがずっとこのままなら結婚してやってもいい。だけど……こうして見ると可愛いじゃないか)

 一度罵った相手を認めて快く迎え入れるなど、格好が悪すぎる。将来レーヌ伯爵家の主になる者として、そのような醜態は見せられない。
 それにこちらが軟化すれば、少女が調子に乗る可能性がある。
 だからカミーユは強硬な態度を崩さなかった。
 仕方なく結婚するしかないとアピールするように言えば、少女はショックを受けたようで何も言えずにカミーユを見詰めていた。

 本当は泣き顔も是非見てみたかったが、少女の母親が今にも喚きそうな表情をしている。
 今日はこの辺にしておいてやろうと、カミーユは自室に戻った。

(オデットとか言ったな、あの娘)

 将来は夫に従属する身でありながら、勉学に励んでいるのが引っ掛かる。
 ダミアンはオデットの勤勉さを褒めていたが、息子より嫁が目立ったら周囲からどう思われるか理解していないのだろう。我が父ながら情けない。
 オデットは自分の隣でただニコニコ笑ってさえいてくれればそれでいいのだ。

「カミーユ! オデット嬢に謝罪しろ!」

 追いかけてきたダミアンが部屋のドアを何度も叩く。無視してもいいが、後が面倒だ。溜め息をつきながら鍵を外せば、焦った様子の父が押し入ってきた。

「俺は謝らないぞ、父上。婚約者となるのであれば、今のうちに上下関係ははっきりさせておかなくてはならないだろう?」

 父にも本心は知られたくない。刺々しい口調で言い返せば、ダミアンは眉根を寄せた。

「何を言っているんだ。私がオデット嬢を選んだのは、家督を継いだお前の支えになるようにと……」
「……オデットの補助なしでは俺は何も出来ない。父上はそう言いたいのか。息子だからと軽視するのはあなたの悪い癖だな」
「いいか、よく聞けカミーユ。お前は──」
「話は終わりだ。そろそろ家庭教師が来るからな」

 カミーユがそう言い放つと、ダミアンは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも退室した。どうせ勉強の時間が終われば、またやって来る。

(ああ、楽しみだオデット。君との結婚生活が待ち遠しい)

 今は互いの両親が邪魔をして、思い通りに事を進めるのは難しいだろう。
 だがカミーユが家督を継ぎ、二人が結婚すればこっちのものだ。
 そうなったらオデットは自分だけのものとなるし、自分好みの女に仕立てるのはそれからでもいい。その時を楽しみにしながらカミーユは書物を開いた。
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