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2.カミーユ
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「クロエ、何かお手伝い出来ることはあるかしら?」
「えっ、そ、そんな、オデット様が私の仕事を手伝う必要なんてないんですよ!?」
「でも勉強をしていたり、本を読んでいるとカミーユ様に怒られてしまうのよ」
「部屋に閉じ籠って勉強に読書と……君にはそれしかやることがないのか?」と言われたので部屋から出たものの、やることがない。
夫のところに行けば、どうせ睨まれてキツいことを言われておしまい。街に出ようとすれば、平民の臭いが移るからと止められる。
オデットが頼れるのはクロエだけである。オデットがレーヌ家に嫁いだ頃に雇われたメイドで、同世代だからかいつも話し相手になってくれるのだ。
「勉強して文句を言うって……あ、でしたら今からパン焼くので手伝ってもらってもいいですか?」
「パン?」
「仕事じゃなくて、私の趣味を手伝うだけなら許されるでしょう?」
「ありがとうクロエ!」
オデットが笑顔で礼を言うと、クロエは困ったように眉を下げた。
何か不快になる発言をしてしまっただろうか。
オデットが慌てて謝ろうとすると、
「やっと笑顔を見せてくれましたね……」
「え? でもわたくし、いつも笑っているわよ?」
「愛想笑いって感じです。カミーユ様は気付いていらっしゃらないみたいですけど、私にはバレバレですから」
「う……」
愛想笑いと指摘されて、オデットは俯いた。
たまにカミーユと会話する時、機嫌を損ねないようにと笑顔を意識していたのにそう思われていたなんて……。
「私、オデット様が可哀想で可哀想で……」
溜め息をつくクロエにオデットは目を丸くした。
「わたくしがカミーユ様に相応しくないとかではなくて……?」
「……ここだけの話、私はオデット様にはもっと素晴らしいお相手がいると思います。貴族同士の結婚なんて政略婚みたいなもので、口を出す立場じゃないって分かってますけど」
「いいえ、クロエ。カミーユ様は素晴らしい旦那様よ。そんなことを言ってはいけないわ」
「だ、だって、結婚式も……」
尚も何かを言おうとするクロエに笑顔で首を横に振れば、彼女は渋々口を閉ざした。
約十年の婚約期間を経てカミーユとオデットは夫婦となった。
けれど、結婚式は執り行っていない。
カミーユが式を挙げたくないと言ったのだ。理由は聞かされていないが、きっと容姿の優れない妻を招待客に見せたくなかったのだろう。
家督を息子に譲り、田舎に隠居したダミアンが屋敷に来てカミーユに抗議していたものの、結局何も変わらなかった。
一方、オデットは良かったと安堵していた。
自分には似合わないだろうドレスを着て、カミ―ユに罵られるのは嫌だと前々から思っていたのだ。
せめて屋敷でパーティーを開こうと執事が提案してくれた。けれど読書疲れからか、頭が痛くて数日間寝込んでしまい、いつの間にかその話も流れたのである。
「わたくしのような女を妻に迎えてくれたのだから、わたくしにはその恩に報いる義務があるわ」
「何かなぁ……まあ、いいや。じゃ、お手伝いお願いしますね」
「ええ。パン作りなんて初めてね……ふふっ」
令嬢として生まれたオデットはパン作りどころか、料理なんて一度もしたことがない。それも誰かと一緒に厨房に立てるなんて嬉しい。
オデットは笑顔でクロエの後を追いかけた。
その姿を物陰から見詰める男の存在を気付きもせずに。
「えっ、そ、そんな、オデット様が私の仕事を手伝う必要なんてないんですよ!?」
「でも勉強をしていたり、本を読んでいるとカミーユ様に怒られてしまうのよ」
「部屋に閉じ籠って勉強に読書と……君にはそれしかやることがないのか?」と言われたので部屋から出たものの、やることがない。
夫のところに行けば、どうせ睨まれてキツいことを言われておしまい。街に出ようとすれば、平民の臭いが移るからと止められる。
オデットが頼れるのはクロエだけである。オデットがレーヌ家に嫁いだ頃に雇われたメイドで、同世代だからかいつも話し相手になってくれるのだ。
「勉強して文句を言うって……あ、でしたら今からパン焼くので手伝ってもらってもいいですか?」
「パン?」
「仕事じゃなくて、私の趣味を手伝うだけなら許されるでしょう?」
「ありがとうクロエ!」
オデットが笑顔で礼を言うと、クロエは困ったように眉を下げた。
何か不快になる発言をしてしまっただろうか。
オデットが慌てて謝ろうとすると、
「やっと笑顔を見せてくれましたね……」
「え? でもわたくし、いつも笑っているわよ?」
「愛想笑いって感じです。カミーユ様は気付いていらっしゃらないみたいですけど、私にはバレバレですから」
「う……」
愛想笑いと指摘されて、オデットは俯いた。
たまにカミーユと会話する時、機嫌を損ねないようにと笑顔を意識していたのにそう思われていたなんて……。
「私、オデット様が可哀想で可哀想で……」
溜め息をつくクロエにオデットは目を丸くした。
「わたくしがカミーユ様に相応しくないとかではなくて……?」
「……ここだけの話、私はオデット様にはもっと素晴らしいお相手がいると思います。貴族同士の結婚なんて政略婚みたいなもので、口を出す立場じゃないって分かってますけど」
「いいえ、クロエ。カミーユ様は素晴らしい旦那様よ。そんなことを言ってはいけないわ」
「だ、だって、結婚式も……」
尚も何かを言おうとするクロエに笑顔で首を横に振れば、彼女は渋々口を閉ざした。
約十年の婚約期間を経てカミーユとオデットは夫婦となった。
けれど、結婚式は執り行っていない。
カミーユが式を挙げたくないと言ったのだ。理由は聞かされていないが、きっと容姿の優れない妻を招待客に見せたくなかったのだろう。
家督を息子に譲り、田舎に隠居したダミアンが屋敷に来てカミーユに抗議していたものの、結局何も変わらなかった。
一方、オデットは良かったと安堵していた。
自分には似合わないだろうドレスを着て、カミ―ユに罵られるのは嫌だと前々から思っていたのだ。
せめて屋敷でパーティーを開こうと執事が提案してくれた。けれど読書疲れからか、頭が痛くて数日間寝込んでしまい、いつの間にかその話も流れたのである。
「わたくしのような女を妻に迎えてくれたのだから、わたくしにはその恩に報いる義務があるわ」
「何かなぁ……まあ、いいや。じゃ、お手伝いお願いしますね」
「ええ。パン作りなんて初めてね……ふふっ」
令嬢として生まれたオデットはパン作りどころか、料理なんて一度もしたことがない。それも誰かと一緒に厨房に立てるなんて嬉しい。
オデットは笑顔でクロエの後を追いかけた。
その姿を物陰から見詰める男の存在を気付きもせずに。
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