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13.レイラの真相

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「ぁ……」

 レイラは青ざめた顔で、立ち尽くしていた。
 いきなり髪飾りを奪われて、怯えているのかもしれない。
 私は彼女へ優しく声をかけた。

「レイラ、頼むよ。私の怪我を治してくれ」
「ク、クリストフ様……申し訳ございません。やはり体調が優れませんので、今はちょっと……」
「そんなことを言わないでくれ。私も頬が痛いし、口の中の出血が治まらないんだ」

 レイラの両肩を掴んで軽く揺さぶるが、視線を逸らされる。
 アンリのこと以外で、ここまで反抗的な態度を取るのはこれが初めてだった。

 何だ? 一体何を隠している?
 訝しんでいると、ソファーにふんぞり返りながら父が口を開く。

「治すことなどできんだろうよ。これがなければな」

 バレッタを握り締めて、呆れたように笑っている。

「……父上、私にも分かるように説明してください」
「お前は『魔道具』と呼ばれるものを知っているか?」
「いえ……」
「魔法の力を封じ込めたアイテムで、それさえあれば誰でも魔法が使うことができる」

 父は淡々と説明しながら、レイラを睨みつけている。
 その視線から逃れるように、俯くレイラ。

 ……ここまで言われたら、嫌でも状況を察してしまう。
 あまりの衝撃に、頬の痛みなど吹き飛んでいた。

「レイラ、君はまさか」
「ち、違います! 私はそんなものがなくても、魔法が使えます!」

 レイラが顔を跳ね上げて否定しようとする。
 しかし、その鬼気迫る表情が私の懐疑心を深くした。

「だったら早く光魔法を使うんだ」
「でしたら少しだけ休ませてください! その後いくらでも治しますから……!」
「ダメだ! 部屋に戻って、魔道具を持ち出すつもりだろう!?」
「そ、そんな……そんなこと……」

 私に問い詰められて、レイラの語尾が小さくなっていく。
 大きな瞳には、水の膜が張っていた。

 君のせいで、私は殴られたんだぞ?
 泣けば許されるとでも思っているのか!?

 苛立ちを抑えきれず、私はレイラの右頬を殴りつけた。

「キャアッ!」

 床に倒れ込んだ妻に、はっと息を呑んだ。
 私は今、何をした?

「い、いや、私は悪くないぞ。言うことを聞かない君を躾けるために、殴ったんだ」
「ク、クリストフ様……」
「さあ、早く私を治せ。そうじゃないと、今度は左の頬を殴るぞ」

 拳で殴る素振りをすると、レイラは「ひっ」と引き攣った声を漏らした後、床に顔を擦りつけながら叫び始めた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! だからもう殴らないで、許して……!!」
「別に謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ魔法を使ってくれれば……」
「つ、使えないの。私、本当は魔法なんて使えないのよ! だけどクリストフ様を男爵家の女に取られたくなくて、魔道具で使える振りをしていただけなの……!」

 その告白に、怒りが再び噴き出す。
 私はレイラの体を何度も蹴りつけた。

「ふざけるな! 今まで私たちを騙していたのか!?」
「ごめんなさい! ごめんなさい……!」
「やっぱりイーデンが闇魔法を持っているのは、君のせいじゃないか! この詐欺師め!」
「やめて、痛い! やめてぇぇ……!」

 何が痛いだ! 私の心はもっと傷ついているんだぞ!
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