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11.闇魔法

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 イーデンが生まれ持って闇魔法の使い手だと判明して、その場は騒然となった。

「どういうことだ! 何故、何故そのような子供が生まれるのだ……!?」

 孫をあれほど可愛がっていた父は、化け物を見るような目でイーデンを睨みつけていた。母もショックのあまり、気を失ってしまった。
 だが実際、化け物のようなものだ。

 闇魔法とは、光魔法と同じくらい希少だが、その性質は正反対と言ってもいい。
 人を癒すのが光魔法なら、闇魔法は他者に傷病を振りまくものだ。
 何も生み出さない、災いの力。
 そんな悍ましい魔法を私たちの、ロイジェ公爵家の跡取りとなる子が授かった。

「こ、これは何かの間違いだ! もう一度やり直してくれ……!」
「か……かしこまりました……」

 神官が恐る恐る水晶をイーデンに近づけると、何も知らない赤子は無邪気にその表面に触れた。
 ……またしても黒く染まる水晶。

「そんな……」

 もう一度試させる気力もなくなり、私は床にへたれ込む。
 レイラは……何かに怯えるような表情で、イーデンを抱き締めていた。


「イーデンが闇魔法を授かったのは、その娘が原因ではないのか?」
「な、何を仰るのですか……!」

 屋敷に戻るなり父に指差されて、レイラは瞠目した。

「闇魔法の使い手は、罪人から生まれるという言い伝えがある。私の息子が罪を犯しているはずがない……とすれば考えられるのはレイラ、貴様だ」
「私は何もしておりません! クリストフ様も何とか仰ってください!」

 妻が助けを求めるように私を見る。
 私だって、レイラが無実だと信じたい。
 だが、真実なんて私には分からない。
 今ここでレイラを庇い立てして、後から彼女の罪が発覚したら?
 次期公爵となる私は、後ろ指を指されるようになるだろう。

 ロイジェ公爵家のためにも、ここは冷静にならなければならない。

「レイラ……私も君を責めたいわけではない。だが……」
「ひ、酷いです、クリストフ様……!」

 レイラが涙ぐみながら、部屋を飛び出していく。
 追いかけようか迷っていると、「クリストフ」と父に呼び止められる。

「調査機関を使い、レイラ及びモントゥーニュ侯爵家を詳しく調べる。よいな?」
「はい……」

 それから二ヶ月後。調査報告書が届いたが、結果はシロだった。
 気になる点と言えば、レイラが他国の装飾品を好んで購入していることくらい。なかなかの高額だが、費用は彼女の実家が出しているので、特に文句はない。

 何はともあれ、レイラは潔白だ。
 私はレイラを疑ったことを謝ろうとしたが、両親に止められた。

「今回の調査は正当なものだ。私たちが頭を下げる必要はない」

 だそうだ。
 なので、せめてものの償いとしてレイラとイーデンを目一杯愛そうと誓った。
 レイラも何事もなかったかのように、私に笑いかけてくれる。

 自分が疑われたことを水に流す。なんて物分かりのいい妻なのだろう。
 この時はそう思っていた。
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