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10.誕生

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 魔法師が少なくなれば、残っている魔法師たちへしわ寄せがいく。
 仕事量が倍増した彼らは、休日も与えられず馬車馬のように働くことになった。

 魔法師たちが劣悪な職場環境に抗議し始めたが、父は特に対策を練ろうとしなかった。
 働き手が減った分だけ給与を上げて欲しいという声も無視である。

 浮いた金は、薬草の種子や苗木を仕入れに使われた。
 それを知った時は、私も唖然とした。

「な、何をされているのですか、父上……」
「ロイジェ公爵家でも薬の精製を試みるのだ。そしてレスター男爵家よりも、優れた薬を作り出さねばならん」

 父は鼻息を荒くしながら言った。シリルの活躍が気に食わないのだろう。
 だが、それは私も同じことだった。
 たかが少し頭がいいくらいで、王族や高位貴族に認められているなんて面白くない。男爵家で、魔法も使えないくせに。

 ロイジェ公爵家は、早速薬草の栽培を始めることにした。
 そのために、土魔法を使える魔法師に召集をかけたのだが。

「これしか集まらなかったのか!?」

 やって来たのは、数割程度。
 他の奴らはどうしたというのだ……

「他の方々は、他の領地に移住されてしまったようですね」

 このことを予見していたのか、執事は顔色一つ変えずに言った。

「な、何故だ……給与も払うと公言していたのに」

 しかも、それなりの額だ。
 皆喜んで飛びつくと思っていたのに、その目論見が大きく外れてしまった。
 頭を抱えていると、執事は妙なことを私に問いかけてきた。

「ちなみにお伺いしますが……栽培法について、クリストフ様は熟知されておりますか?」
「いや……あまり詳しくない」

 私が首を横に振りながら答えると、魔法師たちの顔が険しくなった。
 な、何だ……?

「あなたは彼らを監督する立場にございます。それでは、下の者に適切な指示を出せませんよ」
「だが、実際に薬草を育てるのは魔法師たちではないか。私には関係ない……」
「レスター男爵は自ら進んで研究なさり、独自の栽培方法を考案しております。しかも、魔法を一切使わない方法です」
「わ、私は忙しいのだ! そんなことに時間を割いていられるか!」

 苦し紛れの言い訳だとは分かっている。
 だが、魔法師たちからの冷たい視線に耐えられなかった。

 それに薬草のことを彼らに押しつける形になってしまったが、生育は順調のようだ。
 いいことは続くもので、レイラが無事に子供を出産した。
 元気な男児の誕生に、ロイジェ公爵家とモントゥーニュ侯爵家は大いに喜んだ。
 
 イーデンと名づけた息子を、私たちは大層可愛がった。
 そして生後三ヶ月目。王都にある大神殿へ連れて行った。
 赤子の魂はとても純粋で、透明な硝子玉のようなものらしい。なので生後十二ヶ月以内であれば、その赤子が魔法の素質を宿しているか見る・・ことができるそうだ。

 私もレイラも魔法が使えるのだ。
 その息子であるイーデンも、きっとそうだと誰もが信じて疑っていなかった。

「クリストフ様。ご子息の手を水晶に触れさせてください」
「ああ」

 神官が用意した水晶玉に、息子の小さな手を導く。
 魔法の素質があれば、その種類ごとに水晶の色が染まる仕組みになっている。
 たとえば火魔法なら赤、水魔法なら青といった具合に。

 イーデンが触れた箇所から、じわじわと色が広がっていく。
 闇夜のように不気味な黒色。

「や、闇魔法……」

 神官は顔を引き攣らせながら、震える声で呟いた。
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