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9.魔法師

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 レイラに宿った子は、少しずつ成長している。
 私たちの両親は大いに喜び、早くも出産後の計画を立てている。

 時を同じくして、アンリの懐妊も判明した。
 新聞の一面を飾っていたのだ。
 その記事を読んだレイラは、何故か安心したように深く溜め息をついていた。

「よかった。アンリ様はレスター男爵・・と良好な仲を築けているようですね」
「……ああ」

 シリルは先日、レスター家の爵位を継いだ。
 それを祝う夜会には、マルス殿下を始め多くの貴族が出席した。
 その中には、魔法師たちも多く含まれていたという。

 シリルが目指しているのは、魔法要らずの生活。
 それは魔法師の仕事を奪うようなものだ。
 てっきり恨まれると思っていたので意外だった。

 執事にそんな話をすると、苦笑いをされた。

「逆でございますよ。魔法師はレスター男爵に感謝しているのです」
「何故だ。職を失うことになるのだぞ」
「男爵が目標としているのは、正確に言えば魔法ではなく魔法師に頼りすぎない暮らしです。我が国は、あらゆる面で魔法に依存しているのが現状です。そのため、魔法師への負担も大きい……魔法が使えると分かれば、その力に見合った仕事に就かされる・・・・・ことが当たり前になっています」
「そ、それの何が悪いというのだ。皆の役に立てて、彼らも本望だろうに」

 私の問いかけに、執事は呆れたように笑いながら、首を横に振る。

「職業の選択権がない。それは、以前から彼らの大きな悩みでした。火魔法が使えれば、女性であっても強制的に鉄鋼工場で働くことになる。魔法を使わない仕事がしたいのに、土壌浄化の仕事を任される。他の従業員よりも仕事量が多いのに、給料はさして変わらない……そのような不満を抱えていた彼らにとって、レスター男爵や彼の考えに賛同している貴族は救世主のような存在でしょうね」
「魔法が使えない者たちからすれば、贅沢な悩みではないか。少しは魔法師であることに誇りを持ってもらわなければ……」
「クリストフ様のような考え方の貴族も、少なくはありません。なので、そのような貴族が管轄する領地からは、魔法師が抜け出しつつあります」
「何……?」
「もちろん、ロイジェ領も例外ではありません。優秀な魔法師のうち、三分の一ほどが他の領地に移住しております」

 な、何だ、三分の一くらいか。まだ半分以上いるじゃないか……
 安堵の溜め息をつく私は、まだこの時は事の重大さに気づいていなかった。
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