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連載
【三年後編】コーディライト鉱山
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長蛇の列に巻き込まれること、早二時間。
ようやく検問所を通過した後は、鉱山までノンストップ一直線だ。
広大な田畑に囲まれた田舎道。その右手には、コバルトブルーの海が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
農家にとって塩害は数ある天敵の一つ。農業用水が塩化したり、洪水や高潮で土壌に海水が被ると、そこでは作物が育てられなくなってしまう。
だけどロジェ伯爵領では、その海水を利用した海水農業を開発。様々な作物が栽培されている。
「……って、ガイドブックに書いてるね」
「海水って作る野菜とか果物ってしょっぱそうですけど……」
ところがどっこい、塩分は葉っぱや茎に蓄積されるようで、味は普通の作物と同じだそうで。
その農法を学ぶために訪れる貴族や外交官、農相も多いのだとか。塩害が原因で食料自給率が下がってしまった国を救う手立てにもなるからね。
そういう意味でも、ロジェ伯爵領は大きな注目を集めているのだ。
そんなにすごい功績を挙げているなら、陞爵も有り得るかも。
「あ、山が見えてきましたよ!」
窓に身を乗り出したティアが弾んだ声を上げる。
おお……大きい。山というよりは、巨大な岩の塊のような見た目だ。その麓には、小さな集落が作られている。鉱員たちはあそこで暮らしているのかな。
「わー! 何か迫力がありま……ヒッ」
ティアが突然悲鳴を上げた。
「え? 何? 熊でもいたの!?」
「そ、そうじゃなくて……」
私も窓から顔を出して、前方にまじまじと目を凝らす。そして、気付いた。
集落を取り囲むように数メートルを超える鉄の柵が設置されている。
そして上空でぐるぐると旋回している巨大な黒い鳥たち。ギャアギャアと不気味な鳴き声が聞こえてくる。
よく見ると、そのうちの一羽は嘴に人間を咥えているではないか!
「捕食されとる!?」
「山の斜面の穴に連れて行かれましたよ」
「あの中でじっくり食べられるのかな……」
「そして残った骨は長い年月をかけてオパールとなり、発掘されるんですね……」
ティアが物騒なことをしみじみと言う。
あそこって比較的安全って聞いたんだけどな。あのレベルで危険度・小認定だとしたら、他の鉱山はこの世の地獄のような光景が広がっているんじゃ……
不安を抱える中、馬車はとうとう集落の手前にある門の手前に辿り着いた。ここから先は徒歩だ。御者に別れを告げて、先に進んでいく。
「ん? お嬢さんたち、ここに何の用だい?」
ハルバードさんに負けず劣らずのムキムキ門番が尋ねてくる。
「私はノートレイ伯爵家のレイフェルと申します。現場監督のエリックさんからお手紙をいただいてやって来ました」
そう言って彼からもらった手紙を見せる。すると、門番は眉を寄せて「レイフェル……?」と腕組みをした。そして何かを思い出したように、大きく目を見開く。
「あんた、あの姫様の姉ちゃんか!」
「ひ、姫様?」
「妹さんのことだよ。最近じゃそう呼ばれてんだ」
「それはその……やりたい放題ワガママ三昧だからですか?」
「いや違う違う!」
門番は笑って首を横に振る。
「むしろ、その逆だよ! まあ、信じられないってなら、実際に見てみるといいさ。そんで、早いとこ何とかしてくれ」
「え?」
「あの姫様のせいで、色々と問題が起きてんだ。このままじゃ、死人が出ちまうわ」
「ええっ!?」
もしかして、私が想定していたより遥かにヤバい事態になってる!?
ようやく検問所を通過した後は、鉱山までノンストップ一直線だ。
広大な田畑に囲まれた田舎道。その右手には、コバルトブルーの海が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
農家にとって塩害は数ある天敵の一つ。農業用水が塩化したり、洪水や高潮で土壌に海水が被ると、そこでは作物が育てられなくなってしまう。
だけどロジェ伯爵領では、その海水を利用した海水農業を開発。様々な作物が栽培されている。
「……って、ガイドブックに書いてるね」
「海水って作る野菜とか果物ってしょっぱそうですけど……」
ところがどっこい、塩分は葉っぱや茎に蓄積されるようで、味は普通の作物と同じだそうで。
その農法を学ぶために訪れる貴族や外交官、農相も多いのだとか。塩害が原因で食料自給率が下がってしまった国を救う手立てにもなるからね。
そういう意味でも、ロジェ伯爵領は大きな注目を集めているのだ。
そんなにすごい功績を挙げているなら、陞爵も有り得るかも。
「あ、山が見えてきましたよ!」
窓に身を乗り出したティアが弾んだ声を上げる。
おお……大きい。山というよりは、巨大な岩の塊のような見た目だ。その麓には、小さな集落が作られている。鉱員たちはあそこで暮らしているのかな。
「わー! 何か迫力がありま……ヒッ」
ティアが突然悲鳴を上げた。
「え? 何? 熊でもいたの!?」
「そ、そうじゃなくて……」
私も窓から顔を出して、前方にまじまじと目を凝らす。そして、気付いた。
集落を取り囲むように数メートルを超える鉄の柵が設置されている。
そして上空でぐるぐると旋回している巨大な黒い鳥たち。ギャアギャアと不気味な鳴き声が聞こえてくる。
よく見ると、そのうちの一羽は嘴に人間を咥えているではないか!
「捕食されとる!?」
「山の斜面の穴に連れて行かれましたよ」
「あの中でじっくり食べられるのかな……」
「そして残った骨は長い年月をかけてオパールとなり、発掘されるんですね……」
ティアが物騒なことをしみじみと言う。
あそこって比較的安全って聞いたんだけどな。あのレベルで危険度・小認定だとしたら、他の鉱山はこの世の地獄のような光景が広がっているんじゃ……
不安を抱える中、馬車はとうとう集落の手前にある門の手前に辿り着いた。ここから先は徒歩だ。御者に別れを告げて、先に進んでいく。
「ん? お嬢さんたち、ここに何の用だい?」
ハルバードさんに負けず劣らずのムキムキ門番が尋ねてくる。
「私はノートレイ伯爵家のレイフェルと申します。現場監督のエリックさんからお手紙をいただいてやって来ました」
そう言って彼からもらった手紙を見せる。すると、門番は眉を寄せて「レイフェル……?」と腕組みをした。そして何かを思い出したように、大きく目を見開く。
「あんた、あの姫様の姉ちゃんか!」
「ひ、姫様?」
「妹さんのことだよ。最近じゃそう呼ばれてんだ」
「それはその……やりたい放題ワガママ三昧だからですか?」
「いや違う違う!」
門番は笑って首を横に振る。
「むしろ、その逆だよ! まあ、信じられないってなら、実際に見てみるといいさ。そんで、早いとこ何とかしてくれ」
「え?」
「あの姫様のせいで、色々と問題が起きてんだ。このままじゃ、死人が出ちまうわ」
「ええっ!?」
もしかして、私が想定していたより遥かにヤバい事態になってる!?
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