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【三年後編】ロジェ伯爵家

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 コーディライト鉱山。
 ロジェ伯爵領に位置する、この国で最大の鉱山だ。
 古くから銀や鉄の他、フローライト、コランダム、トルマリンなど様々が宝石が眠っていて、王家直轄運営採掘場の一つでもある。
 そして鉱員の三割は、何らかの罪を犯して強制労働の刑を課せられた人々。つまり私の元家族と元婚約者もこの部類に入る。

「ロジェ伯爵領って結構遠いんですね~」

 ティアは窓の外に広がる景色を眺めながら、間延びした声で言った。
 ヘルバ村から伯爵領は馬車で丸二日はかかる。
 その間、お店は村長一家にお任せすることに。
 失われた毛根への未練タラタラな村長のために近頃開発した育毛剤をあげたら、喜んで引き受けてくれた。
 枯れ果てた大地に再び緑が芽吹くかはいかんとも言いがたいけど、奇跡を信じたいとは村長の弁だ。

「だけど、ほんとに二日で着くのかなぁ……?」

 コーディライト鉱山に行くには、途中で検問所を通らなければならない。……のだが、馬車がめっちゃ並んでいて中々進まない。

「おっかしいな……ロジェ伯爵領って鉱山以外は何の取り柄もないド田舎領地だって、以前アーロンが全力でディスってたんだけど……」
「最近この辺にリゾート施設が出来たみたいですよ。あ、これ御者のおじさんにもらったガイドブックです」
「何この遠足のしおりみたいなの!?」

 ティアに手渡された小冊子の表紙には、《ロジェ伯爵領の歩き方》とポップで可愛らしいフォントで書かれていた。その下には、楽しそうに町を歩く子どもたちのイラスト。

「どれどれ1ページ目は……ロジェ伯爵家の歴史?」
「数年前に家督を争って後継者たちによるバトルロワイヤルがあったそうですよ」
 
 表紙との温度差が激しい説明文だな。そのくだりは飛ばして読もう。

「えーっと……それで、今の当主がもっと地元を盛り上げていこうってことで村おこしならぬ領地おこしを始めたんだね」

 その中でも一番の目玉がリゾート施設《青の止まり木》。
海辺に面した西部に作られた行楽地で、多くの飲食店が立ち並んでいるのだとか。宿屋では最高級のスパやエステが堪能出来るということで、国内外の貴族や王族か訪れているらしい。

「長蛇の列の原因はそれかぁ……」

 私たちの前にいる馬車のキャビンには、白い鳩を模した紋章が彫られている。あれは王家の紋章で、『この馬車は王家から借り入れた馬車ですよ』ということだ。
 要するにVIP中のVIP専用の超ロイヤル馬車。キャビンには魔石が搭載されていて、夏でも冬でも快適な旅が楽しめるらしい。

 そして、この辺鄙な土地を観光地として開拓したロジェ伯爵家現当主の名は、アルチュール。
 彼は『赤き狼』とも呼ばれており、他の後継者の血を浴びながら勝利を勝ち取ったことから、その名がついたそうな。
 なんちゅう物騒な由来だ……



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