上 下
52 / 56
連載

【三年後編】不幸の手紙

しおりを挟む
「ふんふふーんっ♪」
「レイフェルさん、最近ご機嫌ですね」
「ふふふーん、ふんふーんっ♪」
「鼻唄も段々リズミカルになってきて……」
「オゥイェェェ~! イェアアアア!!」
「ただのヤバい人になってる!! 店の外にも聞こえるんでやめてください!!」
「モガガッ」

 く、苦しいっ! 息が出来なくて死ぬ死ぬっ!
 命の危険に晒され、私は口と鼻を塞ぐティアの手をべりっと引き剥がした。

「す、すみません。あんまりにもうるさかったのでつい……」

 ティアが申し訳なさそうに謝ってくるけど、口だけじゃなくて鼻も塞ぐのは完全に殺しにかかってるんだよ。だけど浮かれに浮かれまくって、奇声を上げていた自覚はあるので文句は言えない。
 突き刺さるような視線を感じて窓の方をチラリと見ると、村人たちが珍獣を見るような眼差しで店内を覗いていた。私と目が合った途端、すぐに退散したけど。

「で、何かいいことあったんですか?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました! あ、でもやっぱり恥ずかしいから、また今度で……」
「そこで焦らさないでくださいよ! 気になるじゃないですか!」
「う、うん」

 両目をかっ開いたティアに詰め寄られて、私はコクコクと頷いた。そうだよね。こんな大事なこと、いつまでも弟子に黙っているわけにもいかないものね。

「実は私……」
「はい」

 私が覚悟を決めて表情を引き締めると、つられたようにティアも緊張感を帯びた表情で姿勢を正す。
 さあ、驚くがよい! そして祝福して!

「何と! アルさんとの! 結婚式の日取りが! 決定しました!!」
「あ、知ってます」
「ええええええっ!?」

 逆ドッキリをかまされたみたいになっとる!
 アルさんの二人だけの秘密だったはずなのに、知ってたってどういうことじゃい!

「この前、レイフェルさんがいない時にアルさんが店に来たんですけど、終始顔が真っ赤で明らかに挙動がおかしかったから、『どうしたんですか?』って聞いたらすんごい早口で話してくれましたよ」
「アルさぁぁぁんっ!!」

 情報源がまさかの恋人でした。ティアも「これ、聞いちゃいけないやつだったのでは?」と思い、私が言うまで黙っておくことにしたらしい。何か気を遣わせちゃってごめん……
 だけど、アルさんもそのくらい浮かれてたってことなのかな。私の前では、聡明なイケメンを装っていたのに……そう考えると、ちょっと可愛い。

「結婚式の当日に婚姻届も提出するって言ってましたよ」
「アルさん……そんなことまで……?」

 ティアを完全に私の身内と見なして、何でもかんでも喋っていたようだ。まあ、間違ってはいないか。
 両親と妹のルージェ、そしてレオル伯爵家のアーロンは今でも鉱山でせっせと働いている。労働などに耐え切れなくなったルージェやアーロンが脱走して、私の前に姿を現したこともいい思い出だ。いや、よくないか。働け。

「…………」
「レイフェルさん?」
「あ、ううん。うちの両親にも結婚しますって、一応知らせておいた方がいいのかなって……」

 私がそう言うと、ティアはオブラートなしで胃薬を飲んだような顔をした。

「別に知らせなくてもよくないですか? 嫉妬のあまり全員で脱走して村に押しかけてくるかもしれませんよ」
「うっ……」

 前科が二度もあるので、ぐうの音も出ない。
 特にルージェが心配。以前まで問題行動が多かったって聞いたことがあるし。
 だけど、たまに送られてくる手紙を読み限りでは更生しているっぽいから、四人の良心を信じたい気持ちもある。

「でもまあ、流石に三度目の脱走はないですよね!」

 私の葛藤を見透かしたように、ティアが軽く笑って言う。

「そ、そうだよね! あれ以来、脱走防止用の柵も雷の魔石製のものに変えたそうだし!」

 と、その時、店の扉をドンドンと叩く音が聞こえた。村の人たちだったら、ノックをせずに入ってくるはずだ。私は「はーい」と返事をしながら、扉を開けた。

「ニャウ!」

 来訪者はクラリスだった。鳴き声は可愛いのに、相変わらずデカい。村の田畑を荒らす害獣を退治してくれる我が村の番猫なのだが、初めてこの村を訪れた旅商人は大抵ビビりまくる。

「あれ? クラリス、手紙届けに来てくれたの?」

 クラリスは一通の封筒を口に咥えていて、私が尋ねるとコクンと頷いた。散歩中に郵便配達員と出会い、預かって来たのだろう。

「ありがとう。はい、ご褒美の干し肉ですよ~」
「ウニャウニャ」

 干し肉をゲットしたクラリスが、軽やかな足取りで店から出て行く。それを見送ってから、手紙の送り主を確認して私は「ギャッ」と悲鳴を上げた。

「どうしました、レイフェルさん! 不幸の手紙ですか!?」
「そ、そうじゃないけど、これ……」

 私は震える手で差出人の欄を指差した。
 カラスター(元)男爵家withアーロンが働かされている鉱山の現場監督からの手紙だった。

「不幸の手紙じゃないですか!!」

 否定出来ない!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。