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47.新事実
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七日後、予定通り特別会合は開かれた。
王家側からはライオットと宰相だけではなく、数人の侍従が出席している。
進行役が開会の挨拶を終えると、突然ライオットが立ち上がった。
「本日諸君たちに集まってもらったのは、ほかでもない。そろそろ火災事件の犯人を明らかにするためだ。事件から数ヶ月経っているというのに、未だに証拠を一つも見つけられずにいる。王家としては、この状況を何としてでも打開しなければならない!」
王太子の演説に、賛同を示す拍手は起こらなかった。
それどころか、皆ライオットに冷めた視線を向けている。
講堂は早くも重苦しい雰囲気に包まれていた。
「王太子殿下。早速ですが、一つお伺いしてもよろしいですかな?」
剣呑な表情で口を開いたのは、有力貴族の一人。国境の防衛を担う辺境伯である。
「会場には、オフィーリア妃が招待なさった例の村人たちもいたそうですね。にも拘らず、その者たちには一切取り調べを行っていないということは本当でしょうか?」
途端、出席者たちがにわかにざわつく。この情報は、辺境伯が密かに掴んでいたものだった。
「ああ。オフィーリアと親しい間柄である彼らが、そんなことをするはずがないだろう?」
本気でそう思い込んでいる様子のライオットに、数人の貴族が怒り出す。
「何故そのように言い切れるのです!」
「オフィーリア妃が首謀者である可能性も出てきましたな……」
「妻の知人。たったそれだけの理由で容疑者から外すなど、流石に軽率過ぎますぞ!」
鋭い怒声と呆れ返ったような声が、講堂を飛び交う。
そして彼らの発言に、ライオットもむっと眉をひそめる。
「オフィーリアが首謀者だと? 馬鹿馬鹿しい。彼女は誰よりも結婚式を待ち望んでいたのだ。それを自らぶち壊すなど有り得ない」
「殿下のおっしゃる通りでございます。それに会場に通されたあと、村人たちのことは警護兵が監視しておりました。誰も不審な動きは見せなかったそうです」
宰相の説明に、ライオットは「それ見たことか」と勝ち誇った顔をする。
「庶民だからといって、偏見の目で見るのはどうかと思うが? しかも私やオフィーリアを愚弄するとは……本来は不敬罪になるところだが、今回だけは見逃してやろう」
尊大な物言いに、先ほどの貴族たちは渋い顔で押し黙った。言い出しっぺの辺境伯も、気まずそうに俯いている。
そんな中、神官の一人が探るような口調で尋ねた。
「殿下、ところでエテルネリア大聖堂の修繕費は、王家から出していただけるのですよね?」
「は? どうして私たちがそんなものを……」
「はぁっ!?」
ライオットの発言に、神官たちは大きな衝撃を受ける。
「宰相殿!」
ライオットでは話が通じないと、神官は抗議の目を宰相に向けた。神官団と対立している貴族ですら、眉を顰めている。
「い、いや、火災が起こったのは王家のせいではありませんからな」
「あなた方が結婚式の会場に選んだりしなければ、大聖堂は被害を受けずに済んだのですよ!? これはライオット殿下の責任だ!」
出席者の誰もが思っていたことを、神官が恨みを込めて叫ぶ。
「……私の責任だと! ふざけるな! 私は一番の被害者なのだぞ! 貴様のような神官風情に非難される筋合いはない! 不敬だ、不敬罪で捕らえてやる!」
机を力強く叩いて怒号を上げるライオットに、出席者は全員絶句した。
この王太子は、自分と妻のことしか考えていないのだ。
「あんな形で式が中止となって、私たちがどれだけ悲しんだか貴様たちに分かるか!? オフィーリアのために、私は魔法まで使ったというのに……」
「……ん? 殿下、魔法を使ったというのは?」
最後の一言に、宰相が誰よりも早く反応した。
「オフィーリアは式が始まる直前になって、兄上たちが参列しないと分かり、ひどく落ち込んでいたのだ。だから魔法で彼女の好きな花を生み出し、元気づけてやろうと……」
気恥ずかしそうに語るライオットは気付いてなかった。
出席者たちの顔が驚愕の色に染まっていくのを。
王家側からはライオットと宰相だけではなく、数人の侍従が出席している。
進行役が開会の挨拶を終えると、突然ライオットが立ち上がった。
「本日諸君たちに集まってもらったのは、ほかでもない。そろそろ火災事件の犯人を明らかにするためだ。事件から数ヶ月経っているというのに、未だに証拠を一つも見つけられずにいる。王家としては、この状況を何としてでも打開しなければならない!」
王太子の演説に、賛同を示す拍手は起こらなかった。
それどころか、皆ライオットに冷めた視線を向けている。
講堂は早くも重苦しい雰囲気に包まれていた。
「王太子殿下。早速ですが、一つお伺いしてもよろしいですかな?」
剣呑な表情で口を開いたのは、有力貴族の一人。国境の防衛を担う辺境伯である。
「会場には、オフィーリア妃が招待なさった例の村人たちもいたそうですね。にも拘らず、その者たちには一切取り調べを行っていないということは本当でしょうか?」
途端、出席者たちがにわかにざわつく。この情報は、辺境伯が密かに掴んでいたものだった。
「ああ。オフィーリアと親しい間柄である彼らが、そんなことをするはずがないだろう?」
本気でそう思い込んでいる様子のライオットに、数人の貴族が怒り出す。
「何故そのように言い切れるのです!」
「オフィーリア妃が首謀者である可能性も出てきましたな……」
「妻の知人。たったそれだけの理由で容疑者から外すなど、流石に軽率過ぎますぞ!」
鋭い怒声と呆れ返ったような声が、講堂を飛び交う。
そして彼らの発言に、ライオットもむっと眉をひそめる。
「オフィーリアが首謀者だと? 馬鹿馬鹿しい。彼女は誰よりも結婚式を待ち望んでいたのだ。それを自らぶち壊すなど有り得ない」
「殿下のおっしゃる通りでございます。それに会場に通されたあと、村人たちのことは警護兵が監視しておりました。誰も不審な動きは見せなかったそうです」
宰相の説明に、ライオットは「それ見たことか」と勝ち誇った顔をする。
「庶民だからといって、偏見の目で見るのはどうかと思うが? しかも私やオフィーリアを愚弄するとは……本来は不敬罪になるところだが、今回だけは見逃してやろう」
尊大な物言いに、先ほどの貴族たちは渋い顔で押し黙った。言い出しっぺの辺境伯も、気まずそうに俯いている。
そんな中、神官の一人が探るような口調で尋ねた。
「殿下、ところでエテルネリア大聖堂の修繕費は、王家から出していただけるのですよね?」
「は? どうして私たちがそんなものを……」
「はぁっ!?」
ライオットの発言に、神官たちは大きな衝撃を受ける。
「宰相殿!」
ライオットでは話が通じないと、神官は抗議の目を宰相に向けた。神官団と対立している貴族ですら、眉を顰めている。
「い、いや、火災が起こったのは王家のせいではありませんからな」
「あなた方が結婚式の会場に選んだりしなければ、大聖堂は被害を受けずに済んだのですよ!? これはライオット殿下の責任だ!」
出席者の誰もが思っていたことを、神官が恨みを込めて叫ぶ。
「……私の責任だと! ふざけるな! 私は一番の被害者なのだぞ! 貴様のような神官風情に非難される筋合いはない! 不敬だ、不敬罪で捕らえてやる!」
机を力強く叩いて怒号を上げるライオットに、出席者は全員絶句した。
この王太子は、自分と妻のことしか考えていないのだ。
「あんな形で式が中止となって、私たちがどれだけ悲しんだか貴様たちに分かるか!? オフィーリアのために、私は魔法まで使ったというのに……」
「……ん? 殿下、魔法を使ったというのは?」
最後の一言に、宰相が誰よりも早く反応した。
「オフィーリアは式が始まる直前になって、兄上たちが参列しないと分かり、ひどく落ち込んでいたのだ。だから魔法で彼女の好きな花を生み出し、元気づけてやろうと……」
気恥ずかしそうに語るライオットは気付いてなかった。
出席者たちの顔が驚愕の色に染まっていくのを。
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