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46.動機と条件
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「それで、父上は今どちらにいらっしゃるのですか? 城では騒がしくて気が休まらないと思うのですが」
「お察しの通り、現在は離宮で療養中とのことです。しかし臣下の中からは『こんな大事な時に城を離れるなど、国王失格だ』と非難する声か噴出しており、職務を放棄する者も現れ始め、王城は機能不全に陥りつつあります……」
問題が次から次へと発生し、何から解決すればいいのか分からない。今の王城はそのような状況なのだろう。まるで胃もたれを起こしそうな話の内容に、サラサは唖然としてしまっていた。
そして現状に強い危機感を抱く。
(国の中枢である王城が瓦解してしまっている。このことが他国に知られたら、色々と都合が悪いわね)
王城のみならず、国全体に関わる大問題である。ヴィンセントが以前話していたように、他国から狙われるかもしれない。
「……この事態を招いた張本人として、ライオット殿下はどのようにお考えなのでしょうか」
「うむ……火災事件の犯人が明らかになれば、すべて丸く収まると思っておいでのようだ」
「本気でそのようにお考えなら、あまりにも見通しが甘すぎます。犯人が特定されて事件が解決しても、王家の信頼は回復しません。結婚式の準備の段階で、地の底まで落ちていたのですから」
「そうだな。私も既に手遅れだと思う」
ライオットの浅はかさをばっさりと切り捨てたサラサに、叔祖父も同調して深く頷いた。
「かと言って、犯人を野放しにするわけにもいかん。王太子夫妻の結婚式が潰れたのは、正直溜飲が下がったが」
叔祖父の言葉には、ライオットに対する敬意が微塵も感じられない。彼もまた、ライオットとオフィーリアの結婚式に振り回された被害者だからだ。
「そこで七日後、元老院の講堂で特別会合が開かれることが決まった。王家、貴族、神官団が集まり、今後の対策を含めて話し合われるそうだ。……私も出席することになっている。関わりたくなかったので辞退しようとしたのだが、王都の状況を詳しく知る貴族も必要ということで、聞き入れてもらえなかった」
国王に負けず劣らずの小心者である叔祖父には、酷な役目だろう。ここ数日ろくに眠れていないのか、目の下にうっすらクマが出来ている。
「アルバーン卿、当日は確実に暴動が起こりますよ。護衛をつけた方がよろしいのでは?」
「貴族側と神官団は未だにいがみ合っていますからなぁ……しかし私も、犯人は彼らの中にいると思います。ライオット殿下と同じ考えなのは癪ですが」
ヴィンセントの警告に、叔祖父が眉間に皺を寄せながら言った。
「本当にそうなのでしょうか?」
腑に落ちない部分がいくつかある。二人の会話を聞いていたサラサは、落ち着いた様子で疑問を投じた。
「エネルテリア大神殿は創造神を祀るロードラル王国最大の、そして聖地と称される神殿です。敬虔な神官であれば、そのような場所で罪を犯すとは考えられません。貴族も王家を陥れるのが目的なら、自分たちが疑われるような手段は取らないはずです」
冷静に自分の考えを述べていく。この事件の裏には、誰も知らない何かが潜んでいるような気がしてならないのだ。
「確かにそうかもしれないが……しかし、それなら誰があんな事件を引き起こしたというのだ? まさかオフィーリア妃が呼んだ村人の中に……」
「動機なら心当たりがある」
叔祖父の言葉を遮るように、ヴィンセントが両腕を組みながら言った。
そして彼の口から淡々と語られた内容は、サラサと叔祖父を驚愕させるには十分だった。
「な、何ということだ。それが事実だとしたら、火災事件どころではないぞ」
ロードラル王国を揺るがす『疑惑』に、叔祖父の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。
「しかし、犯行の立派な動機にはなり得ます。ただそれでも、犯人を絞り込むのは難しいですが」
そんな理由で絞り込めないというのも酷い話だと、サラサは思った。
そしてヴィンセントの話を聞いているうちに、一つの可能性が思い浮かんでいた。
「ヴィンセント殿下。ある条件を満たしていれば、犯人を特定することが出来るかもしれません」
どうか、自分の予想が外れていますように。サラサはそう祈らずにはいられなかった。
「お察しの通り、現在は離宮で療養中とのことです。しかし臣下の中からは『こんな大事な時に城を離れるなど、国王失格だ』と非難する声か噴出しており、職務を放棄する者も現れ始め、王城は機能不全に陥りつつあります……」
問題が次から次へと発生し、何から解決すればいいのか分からない。今の王城はそのような状況なのだろう。まるで胃もたれを起こしそうな話の内容に、サラサは唖然としてしまっていた。
そして現状に強い危機感を抱く。
(国の中枢である王城が瓦解してしまっている。このことが他国に知られたら、色々と都合が悪いわね)
王城のみならず、国全体に関わる大問題である。ヴィンセントが以前話していたように、他国から狙われるかもしれない。
「……この事態を招いた張本人として、ライオット殿下はどのようにお考えなのでしょうか」
「うむ……火災事件の犯人が明らかになれば、すべて丸く収まると思っておいでのようだ」
「本気でそのようにお考えなら、あまりにも見通しが甘すぎます。犯人が特定されて事件が解決しても、王家の信頼は回復しません。結婚式の準備の段階で、地の底まで落ちていたのですから」
「そうだな。私も既に手遅れだと思う」
ライオットの浅はかさをばっさりと切り捨てたサラサに、叔祖父も同調して深く頷いた。
「かと言って、犯人を野放しにするわけにもいかん。王太子夫妻の結婚式が潰れたのは、正直溜飲が下がったが」
叔祖父の言葉には、ライオットに対する敬意が微塵も感じられない。彼もまた、ライオットとオフィーリアの結婚式に振り回された被害者だからだ。
「そこで七日後、元老院の講堂で特別会合が開かれることが決まった。王家、貴族、神官団が集まり、今後の対策を含めて話し合われるそうだ。……私も出席することになっている。関わりたくなかったので辞退しようとしたのだが、王都の状況を詳しく知る貴族も必要ということで、聞き入れてもらえなかった」
国王に負けず劣らずの小心者である叔祖父には、酷な役目だろう。ここ数日ろくに眠れていないのか、目の下にうっすらクマが出来ている。
「アルバーン卿、当日は確実に暴動が起こりますよ。護衛をつけた方がよろしいのでは?」
「貴族側と神官団は未だにいがみ合っていますからなぁ……しかし私も、犯人は彼らの中にいると思います。ライオット殿下と同じ考えなのは癪ですが」
ヴィンセントの警告に、叔祖父が眉間に皺を寄せながら言った。
「本当にそうなのでしょうか?」
腑に落ちない部分がいくつかある。二人の会話を聞いていたサラサは、落ち着いた様子で疑問を投じた。
「エネルテリア大神殿は創造神を祀るロードラル王国最大の、そして聖地と称される神殿です。敬虔な神官であれば、そのような場所で罪を犯すとは考えられません。貴族も王家を陥れるのが目的なら、自分たちが疑われるような手段は取らないはずです」
冷静に自分の考えを述べていく。この事件の裏には、誰も知らない何かが潜んでいるような気がしてならないのだ。
「確かにそうかもしれないが……しかし、それなら誰があんな事件を引き起こしたというのだ? まさかオフィーリア妃が呼んだ村人の中に……」
「動機なら心当たりがある」
叔祖父の言葉を遮るように、ヴィンセントが両腕を組みながら言った。
そして彼の口から淡々と語られた内容は、サラサと叔祖父を驚愕させるには十分だった。
「な、何ということだ。それが事実だとしたら、火災事件どころではないぞ」
ロードラル王国を揺るがす『疑惑』に、叔祖父の顔からみるみるうちに血の気が引いていく。
「しかし、犯行の立派な動機にはなり得ます。ただそれでも、犯人を絞り込むのは難しいですが」
そんな理由で絞り込めないというのも酷い話だと、サラサは思った。
そしてヴィンセントの話を聞いているうちに、一つの可能性が思い浮かんでいた。
「ヴィンセント殿下。ある条件を満たしていれば、犯人を特定することが出来るかもしれません」
どうか、自分の予想が外れていますように。サラサはそう祈らずにはいられなかった。
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