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45.振り回される人々
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※前話の冒頭でも説明していますが、44話から話の流れを修正しております。
「……はい?」
何故、火災事件から内乱にまで発展するのか。あまりに突拍子もない話に、サラサの口から気の抜けたような声が漏れる。
「アルバーン卿、話の筋道が分かりません。一から説明してもらえるとありがたいのですが……」
ヴィンセントも寝耳に水のようで、口元に苦い笑みを貼り付けている。
「もちろんでございます。まず初めに申し上げておきたいのは、この異常事態を引き起こしたのがライオット殿下であるということです」
「ああ……」
叔祖父がその名前を出した途端、ヴィンセントが一瞬遠くの空を見るような目をしたのを、サラサは見逃さなかった。
「殿下はご自分で犯人を捕まえようとなさったのでしょう。ご自身の侍従や文官を使って、独自に調査を進めておりました」
「自分たちの結婚式を潰した人間ですからね。その気持ちは理解出来る」
「ですが、そのやり方があまりにも強引でして……結婚式の当日、エネルテリア大神殿にいた神官たちを登城させ、三日間にわたって厳しい尋問を行ったのです」
「それは、何か有力な手かがりを見つけたということですか?」
ヴィンセントの問いに、叔祖父は小さく首を横に振った。
「『大神殿を式場に使われた腹いせだろう』という思い込みだけで、神官の中に犯人がいると確信なさったようです。結局、彼らは全員犯行を否認したのですが……」
「お待ちください、叔祖父様。いくら王太子と言えども、ライオット殿下に登城を命じる権限はないはずです」
「それがなぁ……どうも陛下や宰相殿に知られないよう、秘密裏に動いていたらしい。お二人がこの事態を知ったのは、神官団のトップである大神官から抗議の書状が届いた時だったようだ」
「それでは遅すぎます」
サラサは真顔でばっさりと言い捨てた。
神官たちを三日間も城に留め、その間取り調べを行っていたのだ。
越権行為に及んだライオットも大問題だが、何も気付かなかった国王たちにも責任がある。
「しかも神官たちを解放した後、殿下は『王家の権威を失墜させようとしている』とお考えになったらしい。数少ない参列客であった貴族たちにも登城を下し、取り調べを行ったそうだ。もちろん全員否認した」
無茶苦茶すぎる。予想を斜め上を行く暴走ぶりに、サラサはどう反応すればいい分からなかった。
「ライオット殿下が一人で騒いでいるなら、まだよかったのですが……さらに神官団と貴族による、罪のなすり合いまで始まりました」
「彼らは元々折り合いが悪いですからね」
ヴィンセントは悪戯っぽい笑みで、わざとらしく肩を竦めた。
古来の神々を信仰する神官団に対し、『魔法を保持する自分たちが崇められる存在』と考える貴族は少なくない。
互いに向けられる敵意が顕在化してしまったのである。ライオットの暴挙が原因で。
「そして二日前、国王陛下が心労によって、お倒れになりました」
「逃げたな」
父親を案じるわけでもなく、ヴィンセントは小声でぼそりと言った。
「彼らの対立を招いたのはライオットだ。そして神官団と貴族は互いを睨み合いながらも、王家への怒りが疑心がなくなったわけじゃない。両者を相手にするなんて、あの根は小心者の父には無理ですよ」
「え、いや、その……」
ヴィンセントの言葉にどう返したらいいか分からず、叔祖父はもごもごと口ごもった。
「……はい?」
何故、火災事件から内乱にまで発展するのか。あまりに突拍子もない話に、サラサの口から気の抜けたような声が漏れる。
「アルバーン卿、話の筋道が分かりません。一から説明してもらえるとありがたいのですが……」
ヴィンセントも寝耳に水のようで、口元に苦い笑みを貼り付けている。
「もちろんでございます。まず初めに申し上げておきたいのは、この異常事態を引き起こしたのがライオット殿下であるということです」
「ああ……」
叔祖父がその名前を出した途端、ヴィンセントが一瞬遠くの空を見るような目をしたのを、サラサは見逃さなかった。
「殿下はご自分で犯人を捕まえようとなさったのでしょう。ご自身の侍従や文官を使って、独自に調査を進めておりました」
「自分たちの結婚式を潰した人間ですからね。その気持ちは理解出来る」
「ですが、そのやり方があまりにも強引でして……結婚式の当日、エネルテリア大神殿にいた神官たちを登城させ、三日間にわたって厳しい尋問を行ったのです」
「それは、何か有力な手かがりを見つけたということですか?」
ヴィンセントの問いに、叔祖父は小さく首を横に振った。
「『大神殿を式場に使われた腹いせだろう』という思い込みだけで、神官の中に犯人がいると確信なさったようです。結局、彼らは全員犯行を否認したのですが……」
「お待ちください、叔祖父様。いくら王太子と言えども、ライオット殿下に登城を命じる権限はないはずです」
「それがなぁ……どうも陛下や宰相殿に知られないよう、秘密裏に動いていたらしい。お二人がこの事態を知ったのは、神官団のトップである大神官から抗議の書状が届いた時だったようだ」
「それでは遅すぎます」
サラサは真顔でばっさりと言い捨てた。
神官たちを三日間も城に留め、その間取り調べを行っていたのだ。
越権行為に及んだライオットも大問題だが、何も気付かなかった国王たちにも責任がある。
「しかも神官たちを解放した後、殿下は『王家の権威を失墜させようとしている』とお考えになったらしい。数少ない参列客であった貴族たちにも登城を下し、取り調べを行ったそうだ。もちろん全員否認した」
無茶苦茶すぎる。予想を斜め上を行く暴走ぶりに、サラサはどう反応すればいい分からなかった。
「ライオット殿下が一人で騒いでいるなら、まだよかったのですが……さらに神官団と貴族による、罪のなすり合いまで始まりました」
「彼らは元々折り合いが悪いですからね」
ヴィンセントは悪戯っぽい笑みで、わざとらしく肩を竦めた。
古来の神々を信仰する神官団に対し、『魔法を保持する自分たちが崇められる存在』と考える貴族は少なくない。
互いに向けられる敵意が顕在化してしまったのである。ライオットの暴挙が原因で。
「そして二日前、国王陛下が心労によって、お倒れになりました」
「逃げたな」
父親を案じるわけでもなく、ヴィンセントは小声でぼそりと言った。
「彼らの対立を招いたのはライオットだ。そして神官団と貴族は互いを睨み合いながらも、王家への怒りが疑心がなくなったわけじゃない。両者を相手にするなんて、あの根は小心者の父には無理ですよ」
「え、いや、その……」
ヴィンセントの言葉にどう返したらいいか分からず、叔祖父はもごもごと口ごもった。
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