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38.承認の理由
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「弟夫婦と式を挙げることが出来るのだぞ? 王子同士の仲の良さもアピール出来るというのに……」
サラサたちが何故断ったのか理解していないのか、国王がなおも食い下がる。
よく言えば忍耐力がある、悪く言えばしつこい。ライオットのあの粘着質な性格は、父親に似たのかもしれない。
「俺とライオットの不仲っぷりは国内外で周知の事実です。今さら『実は仲のよい兄弟』を演じたところで、冷ややかな目で見られるだけではないかと」
「い、いや、先日の火災で不安を感じている民は多いはずだ。そんな彼らを安心させるためにも、王家一丸となってこの国を守っていくというメッセージを……」
「ライオットたちのわがままを叶えるために、俺たちの結婚を利用しないでいただけますか? 率直に申し上げますが、迷惑以外の何物でもありません」
内心はらわたが煮えくり返っているようで、ヴィンセントの口から出るのはどれも棘のある言葉ばかりだ。
ライオットの相手をしていた時も、ここまで攻撃的な言い回しはしていなかった。
(父親が相手だからまったく容赦しないわね)
しかし、誰よりも何よりも心強いのは確かだ。サラサも言葉のオブラートを剥がすことにした。
「陛下はお忘れのようですが、私はライオット王太子殿下の元婚約者です。かつて愛した男性が他の女性に寄り添う姿を見て、私が何も感じないとお思いですか?」
「じ、自分の意思でライオットから離れたのは、そなたではないか。あやつに対する情など、残っていないのだろう?」
だったら、別にいいじゃん。
国王のそんな内なる声が聞こえてくるようだ。
「はい、微塵も残ってはおりません。ですが、いい気分はしません。ヴィンセント殿下が仰った通り、貴族の方々にお願いなさってはいかがでしょう?」
「それはならぬ。貴族どもに貸しを作ることになってしまう……」
小さな声でぼそぼそと答える国王。
(……この様子では、他にも何か隠していることがありそうね)
先ほどから視線を合わせようとしない国王に、サラサはそう直感した。
「それに……お前たちがいなければ、リーゼロッテの協力を得られんのだ」
「母上の? どういうことですか?」
突然出てきた王妃の名前に、ヴィンセントが目を丸くする。
「あれには、商会の売上で得た莫大な資産がある。なので、式の費用を負担するように頼んだのたが……」
国王曰く、王妃は次のように答えたという。
『ここでライオットを甘やかしたら、商会の売上が落ち込んでしまいそうだからお断りいたします。ヴィンセントの方は……そうね、全額出してあげてもいいかしら。陛下があの二人の婚姻をお認めになれば、の話ですけど』
次第に話が読めてきた。
ライオットたちの結婚式をやり直そうにも金がない。
王妃を頼りたいが、本人はヴィンセントとサラサの結婚式にしか出費する意思がない。
そこで、合同結婚式を執り行うことにしたのだろう。
(頭が回るというか、ずる賢いというか……)
計画の発案者は宰相だろうか。
しかも王妃は、この件を一切知らされていない可能性がある。
「お前たちが頷いてくれるだけで、すべてが解決するのだ。ヴィンセント、お前も弟が可愛いだろう……?」
「何を仰られても、俺たちの意思は変わりません。これ以上は時間の無駄ですから、そろそろお引き取りください」
そう言いながら、ヴィンセントが部屋の扉を指差す。それが国王の逆鱗に触れたようで、青白い顔がみるみるうちに赤らんでいく。
「ひ、人が下手に出ればいい気になりおって……! これは王命だ! この命令に逆らうことは、誰であろうと許さぬっ!!」
「……出せるものなら出してみろ。ただし、こちらにも考えがある」
ただうるさいだけの怒声より、こちらの方がよほど怖い。初めて聞くヴィンセントの冷え切った声に、サラサは小さく息を呑んだ。
サラサたちが何故断ったのか理解していないのか、国王がなおも食い下がる。
よく言えば忍耐力がある、悪く言えばしつこい。ライオットのあの粘着質な性格は、父親に似たのかもしれない。
「俺とライオットの不仲っぷりは国内外で周知の事実です。今さら『実は仲のよい兄弟』を演じたところで、冷ややかな目で見られるだけではないかと」
「い、いや、先日の火災で不安を感じている民は多いはずだ。そんな彼らを安心させるためにも、王家一丸となってこの国を守っていくというメッセージを……」
「ライオットたちのわがままを叶えるために、俺たちの結婚を利用しないでいただけますか? 率直に申し上げますが、迷惑以外の何物でもありません」
内心はらわたが煮えくり返っているようで、ヴィンセントの口から出るのはどれも棘のある言葉ばかりだ。
ライオットの相手をしていた時も、ここまで攻撃的な言い回しはしていなかった。
(父親が相手だからまったく容赦しないわね)
しかし、誰よりも何よりも心強いのは確かだ。サラサも言葉のオブラートを剥がすことにした。
「陛下はお忘れのようですが、私はライオット王太子殿下の元婚約者です。かつて愛した男性が他の女性に寄り添う姿を見て、私が何も感じないとお思いですか?」
「じ、自分の意思でライオットから離れたのは、そなたではないか。あやつに対する情など、残っていないのだろう?」
だったら、別にいいじゃん。
国王のそんな内なる声が聞こえてくるようだ。
「はい、微塵も残ってはおりません。ですが、いい気分はしません。ヴィンセント殿下が仰った通り、貴族の方々にお願いなさってはいかがでしょう?」
「それはならぬ。貴族どもに貸しを作ることになってしまう……」
小さな声でぼそぼそと答える国王。
(……この様子では、他にも何か隠していることがありそうね)
先ほどから視線を合わせようとしない国王に、サラサはそう直感した。
「それに……お前たちがいなければ、リーゼロッテの協力を得られんのだ」
「母上の? どういうことですか?」
突然出てきた王妃の名前に、ヴィンセントが目を丸くする。
「あれには、商会の売上で得た莫大な資産がある。なので、式の費用を負担するように頼んだのたが……」
国王曰く、王妃は次のように答えたという。
『ここでライオットを甘やかしたら、商会の売上が落ち込んでしまいそうだからお断りいたします。ヴィンセントの方は……そうね、全額出してあげてもいいかしら。陛下があの二人の婚姻をお認めになれば、の話ですけど』
次第に話が読めてきた。
ライオットたちの結婚式をやり直そうにも金がない。
王妃を頼りたいが、本人はヴィンセントとサラサの結婚式にしか出費する意思がない。
そこで、合同結婚式を執り行うことにしたのだろう。
(頭が回るというか、ずる賢いというか……)
計画の発案者は宰相だろうか。
しかも王妃は、この件を一切知らされていない可能性がある。
「お前たちが頷いてくれるだけで、すべてが解決するのだ。ヴィンセント、お前も弟が可愛いだろう……?」
「何を仰られても、俺たちの意思は変わりません。これ以上は時間の無駄ですから、そろそろお引き取りください」
そう言いながら、ヴィンセントが部屋の扉を指差す。それが国王の逆鱗に触れたようで、青白い顔がみるみるうちに赤らんでいく。
「ひ、人が下手に出ればいい気になりおって……! これは王命だ! この命令に逆らうことは、誰であろうと許さぬっ!!」
「……出せるものなら出してみろ。ただし、こちらにも考えがある」
ただうるさいだけの怒声より、こちらの方がよほど怖い。初めて聞くヴィンセントの冷え切った声に、サラサは小さく息を呑んだ。
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