上 下
38 / 47

38.承認の理由

しおりを挟む
「弟夫婦と式を挙げることが出来るのだぞ? 王子同士の仲の良さもアピール出来るというのに……」

 サラサたちが何故断ったのか理解していないのか、国王がなおも食い下がる。
 よく言えば忍耐力がある、悪く言えばしつこい。ライオットのあの粘着質な性格は、父親に似たのかもしれない。

「俺とライオットの不仲っぷりは国内外で周知の事実です。今さら『実は仲のよい兄弟』を演じたところで、冷ややかな目で見られるだけではないかと」

「い、いや、先日の火災で不安を感じている民は多いはずだ。そんな彼らを安心させるためにも、王家一丸となってこの国を守っていくというメッセージを……」

「ライオットたちのわがままを叶えるために、俺たちの結婚を利用しないでいただけますか? 率直に申し上げますが、迷惑以外の何物でもありません」

 内心はらわたが煮えくり返っているようで、ヴィンセントの口から出るのはどれもとげのある言葉ばかりだ。
 ライオットの相手をしていた時も、ここまで攻撃的な言い回しはしていなかった。

(父親が相手だからまったく容赦しないわね)

 しかし、誰よりも何よりも心強いのは確かだ。サラサも言葉のオブラートを剥がすことにした。

「陛下はお忘れのようですが、私はライオット王太子殿下の元婚約者です。かつて愛した男性が他の女性に寄り添う姿を見て、私が何も感じないとお思いですか?」

「じ、自分の意思でライオットから離れたのは、そなたではないか。あやつに対する情など、残っていないのだろう?」

 だったら、別にいいじゃん。
 国王のそんな内なる声が聞こえてくるようだ。

「はい、微塵も残ってはおりません。ですが、いい気分はしません。ヴィンセント殿下が仰った通り、貴族の方々にお願いなさってはいかがでしょう?」

「それはならぬ。貴族どもに貸しを作ることになってしまう……」

 小さな声でぼそぼそと答える国王。

(……この様子では、他にも何か隠していることがありそうね)

 先ほどから視線を合わせようとしない国王に、サラサはそう直感した。

「それに……お前たちがいなければ、リーゼロッテの協力を得られんのだ」

「母上の? どういうことですか?」

 突然出てきた王妃の名前に、ヴィンセントが目を丸くする。

「あれには、商会の売上で得た莫大な資産がある。なので、式の費用を負担するように頼んだのたが……」

 国王曰く、王妃は次のように答えたという。

『ここでライオットを甘やかしたら、商会の売上が落ち込んでしまいそうだからお断りいたします。ヴィンセントの方は……そうね、全額出してあげてもいいかしら。陛下があの二人の婚姻をお認めになれば、の話ですけど』

 次第に話が読めてきた。
 ライオットたちの結婚式をやり直そうにも金がない。
 王妃を頼りたいが、本人はヴィンセントとサラサの結婚式にしか出費する意思がない。

 そこで、合同結婚式を執り行うことにしたのだろう。

(頭が回るというか、ずる賢いというか……)

 計画の発案者は宰相だろうか。
 しかも王妃は、この件を一切知らされていない可能性がある。

「お前たちが頷いてくれるだけで、すべてが解決するのだ。ヴィンセント、お前も弟が可愛いだろう……?」

「何を仰られても、俺たちの意思は変わりません。これ以上は時間の無駄ですから、そろそろお引き取りください」

 そう言いながら、ヴィンセントが部屋の扉を指差す。それが国王の逆鱗に触れたようで、青白い顔がみるみるうちに赤らんでいく。

「ひ、人が下手したてに出ればいい気になりおって……! これは王命だ! この命令に逆らうことは、誰であろうと許さぬっ!!」

「……出せるものなら出してみろ。ただし、こちらにも考えがある」

 ただうるさいだけの怒声より、こちらの方がよほど怖い。初めて聞くヴィンセントの冷え切った声に、サラサは小さく息を呑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした

カレイ
恋愛
 「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」  それが両親の口癖でした。  ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。  ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。  ですから私決めました!  王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。  

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

とある断罪劇の一夜

雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。 しかしこれは予定通り。 学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。 だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。 現実のものとは一切関係のない架空のお話です。 初投稿作品です。短編予定です。 誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません

片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。 皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。 もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。

処理中です...