35 / 47
35.燃え上がる結婚式(王太子side)
しおりを挟む
「どういうことだ! 何故母上は呑気にサロンなど開いている!? もうじき式が始まるんだぞ!?」
我に返ったライオットが、激しい剣幕で宰相に掴みかかる。
母親が自分の結婚式に出席しないどころか、招待客に根回しをしていた。その事実はライオットに大きなショックを与えた。
「わ、私は何も聞いておりません! 恐らくは陛下も……」
宰相は青ざめた顔で首を横に振った。
だが国王や大臣は既に神殿に到着しているのに、王妃だけはまだ姿を見せていないことが気になっていたのだ。
情報が漏れないように、王妃の侍従たちが水面下で動いていたのだろう。
「ですが王妃殿下は確かに奔放なところがありますが、思慮深い方でございます。何の理由もなく、このようなことをするとは考えられません。殿下、何か心当たりはございませんか?」
「心当たり……?」
宰相の言葉に、ライオットは記憶を掘り返してみる。
ふいにある出来事が脳裏に蘇り、表情が一瞬硬くなった。
(まさか……あのことか?)
オフィーリアのウェディングドレスの件で、母がこんなことを尋ねてきたことがあった。
「愛する人に唯一無二のドレスを着せてあげたいのね。ちなみに採用したドレス以外は、料金を支払わないというのは本当なの?」と。
意地の悪い質問だとライオットは思った。
挙式を執り行った後は、王宮で盛大なパーティーを開く予定になっている。
そちらに予算の大半をつぎ込んでしまい、ドレスの料金を支払う余裕がないのだ。
(そのことは母上も分かっているだろうに。息子夫婦のために、費用を出してやろうとは思わないのか?)
王妃が気まぐれで設立した商会は、年々業績を伸ばしている。
個人の資産も相当増やしているなのに、息子が金に困っていても助けようとしない。
にも拘らず、息子のやり方に納得がいかずに、こんな嫌がらせをしたのだ。あれでよく王妃が務まるものだと驚かされる。
(第一、オフィーリアの花嫁衣装を仕立てるという名誉ある仕事をくれてやったんだ。報酬などそれで十分じゃないか)
民たちは王家の庇護下で生きている。ならば、王家の命令には従順であるべきなのだ。
先ほどの村人たちも例外ではない。オフィーリアの知人でなければ、ただの品のない貧民に過ぎないのだから。
「…………」
「殿下? どうなさいました?」
「い、いや、何でもない。そんなことより、中に戻るぞ。招待客などいなくても、式は執り行える」
そう、自分とオフィーリアさえいれば。
様々な感情を振り払い、ライオットは宰相を連れて神殿に戻った。ささくれ立った神経を落ち着かせようと、オフィーリアの元へ会いに行く。
「あの……今からでも、ヴィン様……とサラサ様をお呼びすることは出来ませんか!?」
「ですが、もうすぐで式が始まってしまいますし……」
「でも……っ」
オフィーリアの瞳にじわりと涙が浮かぶ。
宝石をふんだんに鏤めた純白のドレスに身を包んだ姿は、世界で最も美しい。
しかしライオットに見惚れている余裕はなかった。
(オフィーリアがこれほどまでに悲しむとは……やはり、強引にでも出席させるべきだった)
オフィーリアは悲しいことがあると、それが解決するまでずっと泣き続けているのだ。
普段はそんなところも魅力の一つだと思うが、今は少々厄介である。
義兄夫婦が来てくれないと号泣する花嫁を、式に出すわけにはいかない。
(奴らを連れてくるよう、至急手配しなくては……っ!)
式を開始するのはそれからだ。ライオットが慌ただしく宰相を探しに行こうとした、その時だった。
「ライオット殿下、大変でございます!」
顔面蒼白の神官が走り寄ってくる。「今度は何だ?」とライオットはうんざりしたような表情を浮かべる。
しかし、その顔はすぐに驚愕の色に染まる。
「何者かが会場に飾られていた生花に火を放ちました!」
「何だと!?」
「現在消火作業を行っておりますが、火の回りが早く……今すぐ避難なさってくださいっ!」
「~~っ!」
いったい自分が何をしたというのか。
理不尽な出来事の連続に、ライオットは綺麗に整えられた髪を掻き乱した。
――――――
結婚式編はこれでおしまいです。
我に返ったライオットが、激しい剣幕で宰相に掴みかかる。
母親が自分の結婚式に出席しないどころか、招待客に根回しをしていた。その事実はライオットに大きなショックを与えた。
「わ、私は何も聞いておりません! 恐らくは陛下も……」
宰相は青ざめた顔で首を横に振った。
だが国王や大臣は既に神殿に到着しているのに、王妃だけはまだ姿を見せていないことが気になっていたのだ。
情報が漏れないように、王妃の侍従たちが水面下で動いていたのだろう。
「ですが王妃殿下は確かに奔放なところがありますが、思慮深い方でございます。何の理由もなく、このようなことをするとは考えられません。殿下、何か心当たりはございませんか?」
「心当たり……?」
宰相の言葉に、ライオットは記憶を掘り返してみる。
ふいにある出来事が脳裏に蘇り、表情が一瞬硬くなった。
(まさか……あのことか?)
オフィーリアのウェディングドレスの件で、母がこんなことを尋ねてきたことがあった。
「愛する人に唯一無二のドレスを着せてあげたいのね。ちなみに採用したドレス以外は、料金を支払わないというのは本当なの?」と。
意地の悪い質問だとライオットは思った。
挙式を執り行った後は、王宮で盛大なパーティーを開く予定になっている。
そちらに予算の大半をつぎ込んでしまい、ドレスの料金を支払う余裕がないのだ。
(そのことは母上も分かっているだろうに。息子夫婦のために、費用を出してやろうとは思わないのか?)
王妃が気まぐれで設立した商会は、年々業績を伸ばしている。
個人の資産も相当増やしているなのに、息子が金に困っていても助けようとしない。
にも拘らず、息子のやり方に納得がいかずに、こんな嫌がらせをしたのだ。あれでよく王妃が務まるものだと驚かされる。
(第一、オフィーリアの花嫁衣装を仕立てるという名誉ある仕事をくれてやったんだ。報酬などそれで十分じゃないか)
民たちは王家の庇護下で生きている。ならば、王家の命令には従順であるべきなのだ。
先ほどの村人たちも例外ではない。オフィーリアの知人でなければ、ただの品のない貧民に過ぎないのだから。
「…………」
「殿下? どうなさいました?」
「い、いや、何でもない。そんなことより、中に戻るぞ。招待客などいなくても、式は執り行える」
そう、自分とオフィーリアさえいれば。
様々な感情を振り払い、ライオットは宰相を連れて神殿に戻った。ささくれ立った神経を落ち着かせようと、オフィーリアの元へ会いに行く。
「あの……今からでも、ヴィン様……とサラサ様をお呼びすることは出来ませんか!?」
「ですが、もうすぐで式が始まってしまいますし……」
「でも……っ」
オフィーリアの瞳にじわりと涙が浮かぶ。
宝石をふんだんに鏤めた純白のドレスに身を包んだ姿は、世界で最も美しい。
しかしライオットに見惚れている余裕はなかった。
(オフィーリアがこれほどまでに悲しむとは……やはり、強引にでも出席させるべきだった)
オフィーリアは悲しいことがあると、それが解決するまでずっと泣き続けているのだ。
普段はそんなところも魅力の一つだと思うが、今は少々厄介である。
義兄夫婦が来てくれないと号泣する花嫁を、式に出すわけにはいかない。
(奴らを連れてくるよう、至急手配しなくては……っ!)
式を開始するのはそれからだ。ライオットが慌ただしく宰相を探しに行こうとした、その時だった。
「ライオット殿下、大変でございます!」
顔面蒼白の神官が走り寄ってくる。「今度は何だ?」とライオットはうんざりしたような表情を浮かべる。
しかし、その顔はすぐに驚愕の色に染まる。
「何者かが会場に飾られていた生花に火を放ちました!」
「何だと!?」
「現在消火作業を行っておりますが、火の回りが早く……今すぐ避難なさってくださいっ!」
「~~っ!」
いったい自分が何をしたというのか。
理不尽な出来事の連続に、ライオットは綺麗に整えられた髪を掻き乱した。
――――――
結婚式編はこれでおしまいです。
3,046
お気に入りに追加
7,629
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
妹は病弱アピールで全てを奪い去っていく
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢マチルダには妹がいる。
妹のビヨネッタは幼い頃に病気で何度か生死の境を彷徨った事実がある。
そのために両親は過保護になりビヨネッタばかり可愛がった。
それは成長した今も変わらない。
今はもう健康なくせに病弱アピールで周囲を思い通り操るビヨネッタ。
その魔の手はマチルダに求婚したレオポルドにまで伸びていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる