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33.結婚式当日①(王家Side)
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宰相が慌てて外に飛び出すと、衛兵が庶民たちと押し問答を繰り広げていた。
「ですから関係者以外は、ここを通すわけにはまいりません。どうか、お引き取りください」
「何だと!? 俺たちはオフィーリアが生まれ育った村の人間だぞ!」
「あの子からの招待状も持ってきたわよ! ほら!」
女性が得意げに掲げたのは、花柄の封筒だった。オフィーリアが送ったものだとすぐに分かり、宰相は軽い頭痛を覚える。
ざっと見ただけでも、軽く五十人はいるだろうか。
しかも誰一人として正装をせず、質素な普段着のままだ。十歳前後の子供たちの姿もあり、大人と一緒になって「早く中に入れろ」と文句を言っている。
田舎では細かいドレスコードはなく、子供が式に参加することも多い。
だが、これから執り行われるのは王太子夫妻の結婚式だ。それ相応の服装や振る舞いが求められるのだが、彼らはそれを理解していないらしい。
(なるほど。オフィーリアがあのような娘に育ったのも頷ける)
村人たちに冷ややかな視線を向けているのは、宰相だけではない。
正規の招待を受けた参列者が続々と到着するが、馬車の中からこの状況を眺めている。
そうとも知らず、村人たちは自分勝手な主張を繰り返す。
オフィーリアが小さな頃から、ずっと面倒を見てきたんだ。俺たちには、あの子の晴れ姿を見る権利がある!」
「それなのに、式に呼んでくれないなんて酷い王様だねぇ!」
「貴族ばかりズルいぞ! 差別だ!」
「アタシらは聖女の身内だよ! 優遇されて当然じゃないか!」
もちろん、村の人間を誰も招待しなかったわけではない。オフィーリアの親族や友人には招待状を送っている。
今この場にいるのは同じ村の人間というだけで、身内でも何でもない。
優遇しろと、堂々と騒ぐような連中だ。恐らくオフィーリアが招待状を送らなくても、こうして押しかけてきただろう。
(このままでは、参列者が中に入ることが出来ん。ひとまず、あやつらを王都から追い出すしかあるまい)
こんな理由で王城に常駐している兵を動かすなどバカバカしいが、話が通じる相手ではない。
宰相が早速手配しようとした時だった。
「宰相、これはいったい何の騒ぎだ?」
怪訝そうな顔でライオットが神殿から出てくる。既に着替えを済ませており、白地に金の刺繍を施したタキシードを着ていた。美しい金髪も後ろに撫でつけている。
「実は……オフィーリア妃が自分の村の人間たちにも、大量に招待状を送っていたようでして」
「何だ、そういうことか」
自分の妻が引き起こした事態だというのに、まるで他人事のような口振りだ。
そして次の瞬間、ライオットはとんでもないことを言い出す。
「しかし、何故衛兵は彼らを止めているんだ? 早く中に通してやれ」
「……仰っている意味が分かりかねますが」
「彼らはオフィーリアの大切な身内だからな。列席させてやらなくては」
何を言っているんだ、この王子は。
宰相が絶句している間に、ライオットは衛兵に村人たちを全員中に入れるように命じた。
当然衛兵は困惑の表情を見せるが、王太子の許可を得た村人たちは次々と奥へ進んでいく。
ようやく我に返った宰相は、声を荒らげた。
「殿下! 招待客の人数はあらかじめ決まっております! そのことをお忘れですか!?」
「…………」
結婚式に浮かれて、本当に忘れていたようだ。真顔で黙り込むライオットを見て、宰相は感情に任せて罵倒したくなった。
宰相の静かな怒りが伝わってきたのか、ライオットが焦ったように話し出す。
「そ、それなら一部の招待客を帰らせればいいではないか」
「本気でそのようなことを仰っているのですか?」
低い声で尋ねたのは招待客の一人である。他の招待客も呆れと怒りが入り混じったような表情で、ライオットを睨み付けていた。
「ですから関係者以外は、ここを通すわけにはまいりません。どうか、お引き取りください」
「何だと!? 俺たちはオフィーリアが生まれ育った村の人間だぞ!」
「あの子からの招待状も持ってきたわよ! ほら!」
女性が得意げに掲げたのは、花柄の封筒だった。オフィーリアが送ったものだとすぐに分かり、宰相は軽い頭痛を覚える。
ざっと見ただけでも、軽く五十人はいるだろうか。
しかも誰一人として正装をせず、質素な普段着のままだ。十歳前後の子供たちの姿もあり、大人と一緒になって「早く中に入れろ」と文句を言っている。
田舎では細かいドレスコードはなく、子供が式に参加することも多い。
だが、これから執り行われるのは王太子夫妻の結婚式だ。それ相応の服装や振る舞いが求められるのだが、彼らはそれを理解していないらしい。
(なるほど。オフィーリアがあのような娘に育ったのも頷ける)
村人たちに冷ややかな視線を向けているのは、宰相だけではない。
正規の招待を受けた参列者が続々と到着するが、馬車の中からこの状況を眺めている。
そうとも知らず、村人たちは自分勝手な主張を繰り返す。
オフィーリアが小さな頃から、ずっと面倒を見てきたんだ。俺たちには、あの子の晴れ姿を見る権利がある!」
「それなのに、式に呼んでくれないなんて酷い王様だねぇ!」
「貴族ばかりズルいぞ! 差別だ!」
「アタシらは聖女の身内だよ! 優遇されて当然じゃないか!」
もちろん、村の人間を誰も招待しなかったわけではない。オフィーリアの親族や友人には招待状を送っている。
今この場にいるのは同じ村の人間というだけで、身内でも何でもない。
優遇しろと、堂々と騒ぐような連中だ。恐らくオフィーリアが招待状を送らなくても、こうして押しかけてきただろう。
(このままでは、参列者が中に入ることが出来ん。ひとまず、あやつらを王都から追い出すしかあるまい)
こんな理由で王城に常駐している兵を動かすなどバカバカしいが、話が通じる相手ではない。
宰相が早速手配しようとした時だった。
「宰相、これはいったい何の騒ぎだ?」
怪訝そうな顔でライオットが神殿から出てくる。既に着替えを済ませており、白地に金の刺繍を施したタキシードを着ていた。美しい金髪も後ろに撫でつけている。
「実は……オフィーリア妃が自分の村の人間たちにも、大量に招待状を送っていたようでして」
「何だ、そういうことか」
自分の妻が引き起こした事態だというのに、まるで他人事のような口振りだ。
そして次の瞬間、ライオットはとんでもないことを言い出す。
「しかし、何故衛兵は彼らを止めているんだ? 早く中に通してやれ」
「……仰っている意味が分かりかねますが」
「彼らはオフィーリアの大切な身内だからな。列席させてやらなくては」
何を言っているんだ、この王子は。
宰相が絶句している間に、ライオットは衛兵に村人たちを全員中に入れるように命じた。
当然衛兵は困惑の表情を見せるが、王太子の許可を得た村人たちは次々と奥へ進んでいく。
ようやく我に返った宰相は、声を荒らげた。
「殿下! 招待客の人数はあらかじめ決まっております! そのことをお忘れですか!?」
「…………」
結婚式に浮かれて、本当に忘れていたようだ。真顔で黙り込むライオットを見て、宰相は感情に任せて罵倒したくなった。
宰相の静かな怒りが伝わってきたのか、ライオットが焦ったように話し出す。
「そ、それなら一部の招待客を帰らせればいいではないか」
「本気でそのようなことを仰っているのですか?」
低い声で尋ねたのは招待客の一人である。他の招待客も呆れと怒りが入り混じったような表情で、ライオットを睨み付けていた。
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