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29.報告
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あの後、叔祖父からは「街の住人たちに気付かれないうちに、早く王都から出るように」と言われた。
叔祖父の使用人たちが調べたところ、王都民の間では「サラサ嬢ならば、きっと二人を止めてくれる」という噂が流れているそうだ。
(私を当てにされても困ります)
あの二人と顔を合わせても、余計な心労が増えるだけである。
叔祖父の警告に従って、サラサは早急に王都から離れることにした。
ワインショップなどには立ち寄れなかったが、叔祖父が土産をいくつか持たせてくれた。
その中には、入手が困難なヴィンテージワインも含まれている。他国からわざわざ取り寄せたそうだ。
(他にも春摘みのストレートフラッシュや、王都で人気の焼き菓子。それから、ジャムの詰め合わせまで……)
祖父にもここまで甘やかされなかったと思う。
嬉しい反面、少し申し訳ない気持ちもある。
(両親のことも、結局叔祖父様に任せきりだし……)
サラサの両親は相変わらず親族の屋敷で働かされており、最近では「サラサに会いたい」「娘に謝りたい」と嘆いているそうだ。
サラサに許してもらえば、再び屋敷に戻れると思っているらしい。
邸宅は診療所にリフォームしてしまったため、彼らが帰る場所はもうないのだが。
「やあ、おかえり。二人とも疲れた顔をしているが、もしかして愚弟にでも遭遇したのかい?」
離宮に戻ると、先に帰っていたヴィンセントが冗談半分で尋ねてきた。
「いえ。本人には会っていません。ですが、色々と嫌なものを聞いたり見てしまいまして」
「……詳しく聞いてもいいかな」
サラサの言葉から、深刻さを感じ取ったのだろう。ヴィンセントの顔から笑みが消える。
土産の整理をレインに任せ、サラサは王都で見聞きした事柄をつらつらと語った。
「……というわけでして、ライオット殿下は王都民の顰蹙を買っているようです」
「ずいぶんと好き勝手やっているな。後先のことをまるで考えていない」
ヴィンセントは呆れたように笑いながら、軽く肩を竦めた。
「神官団がライオットの言いなりになっているのは、恐らく補助金のためだな。この世は、篤い信仰心だけではどうにもならないことだらけだからね」
神官たちが聞いたら、憤慨しそうな言葉だ。
それをさらりと言ってのける第一王子は、何やら悪い顔をしている。
「ヴィンセント様、何をお考えなのですか?」
「いいや、何も。そんなことより、君に土産があるんだ」
「私にですか?」
「ああ。今用意するから、少し待っていてくれ」
そう言って、ヴィンセントが広間から出て行く。そして暫くして戻ってきた彼の手には平皿があった。
「出来れば、君の感想も聞きたいと思っていたんだ」
ことりと、サラサの前に平皿が置かれる。そこには数種類の葡萄やスライスされた果実が盛り付けられていた。
「例の領地で栽培されているものだ。あそこでは様々な果実が栽培されているらしい」
まずは一番粒の小さな葡萄を食べてみる。
「これは……甘みと香りがとても強いですね」
「だろう? それでいて、皮が厚くて深みのある紫色をしている。ワインに使用するには最適な品種だ」
「もしかして、ヴィンセント殿下の調べ物というのは……」
「件の領地は、葡萄の生産量が多いと聞いていたからね。ワイン作りに適した品種を探していたんだ」
ヴィンセントの言葉を聞いて、サラサははたと気が付いた。
葡萄を多く生産している領地は、ワイン作りも盛んである。
しかし現在立て直しを行っている領地──ポワレーヌ伯爵領では、何故かワインの生産は作られていない。
そしてヴィンセントは、その理由も調べていた。
叔祖父の使用人たちが調べたところ、王都民の間では「サラサ嬢ならば、きっと二人を止めてくれる」という噂が流れているそうだ。
(私を当てにされても困ります)
あの二人と顔を合わせても、余計な心労が増えるだけである。
叔祖父の警告に従って、サラサは早急に王都から離れることにした。
ワインショップなどには立ち寄れなかったが、叔祖父が土産をいくつか持たせてくれた。
その中には、入手が困難なヴィンテージワインも含まれている。他国からわざわざ取り寄せたそうだ。
(他にも春摘みのストレートフラッシュや、王都で人気の焼き菓子。それから、ジャムの詰め合わせまで……)
祖父にもここまで甘やかされなかったと思う。
嬉しい反面、少し申し訳ない気持ちもある。
(両親のことも、結局叔祖父様に任せきりだし……)
サラサの両親は相変わらず親族の屋敷で働かされており、最近では「サラサに会いたい」「娘に謝りたい」と嘆いているそうだ。
サラサに許してもらえば、再び屋敷に戻れると思っているらしい。
邸宅は診療所にリフォームしてしまったため、彼らが帰る場所はもうないのだが。
「やあ、おかえり。二人とも疲れた顔をしているが、もしかして愚弟にでも遭遇したのかい?」
離宮に戻ると、先に帰っていたヴィンセントが冗談半分で尋ねてきた。
「いえ。本人には会っていません。ですが、色々と嫌なものを聞いたり見てしまいまして」
「……詳しく聞いてもいいかな」
サラサの言葉から、深刻さを感じ取ったのだろう。ヴィンセントの顔から笑みが消える。
土産の整理をレインに任せ、サラサは王都で見聞きした事柄をつらつらと語った。
「……というわけでして、ライオット殿下は王都民の顰蹙を買っているようです」
「ずいぶんと好き勝手やっているな。後先のことをまるで考えていない」
ヴィンセントは呆れたように笑いながら、軽く肩を竦めた。
「神官団がライオットの言いなりになっているのは、恐らく補助金のためだな。この世は、篤い信仰心だけではどうにもならないことだらけだからね」
神官たちが聞いたら、憤慨しそうな言葉だ。
それをさらりと言ってのける第一王子は、何やら悪い顔をしている。
「ヴィンセント様、何をお考えなのですか?」
「いいや、何も。そんなことより、君に土産があるんだ」
「私にですか?」
「ああ。今用意するから、少し待っていてくれ」
そう言って、ヴィンセントが広間から出て行く。そして暫くして戻ってきた彼の手には平皿があった。
「出来れば、君の感想も聞きたいと思っていたんだ」
ことりと、サラサの前に平皿が置かれる。そこには数種類の葡萄やスライスされた果実が盛り付けられていた。
「例の領地で栽培されているものだ。あそこでは様々な果実が栽培されているらしい」
まずは一番粒の小さな葡萄を食べてみる。
「これは……甘みと香りがとても強いですね」
「だろう? それでいて、皮が厚くて深みのある紫色をしている。ワインに使用するには最適な品種だ」
「もしかして、ヴィンセント殿下の調べ物というのは……」
「件の領地は、葡萄の生産量が多いと聞いていたからね。ワイン作りに適した品種を探していたんだ」
ヴィンセントの言葉を聞いて、サラサははたと気が付いた。
葡萄を多く生産している領地は、ワイン作りも盛んである。
しかし現在立て直しを行っている領地──ポワレーヌ伯爵領では、何故かワインの生産は作られていない。
そしてヴィンセントは、その理由も調べていた。
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