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24.立て直し

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 ヴィンセントの求婚を受け入れたサラサは、彼の離宮に移り住んだ。
 当初は籍を入れるだけで、今まで通り伯爵領で暮らすつもりだったが、ヴィンセントが異を唱えたのだ。

「それはやめた方がいいと思うけどね。俺の離宮に来たらどうだい?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、そうすると、祖父の別荘の管理をする者がいなくなってしまいますから」

 祖父が亡くなった後、別荘はそのまま放置されていた。
 小さな庭は雑草だらけになり、ただの空き家だと思っていた近隣住民もいたという。
 売却することも考えたが、祖父のつい棲家すみかを守りたい気持ちもあった。

(それもあって、別荘に引っ越したのよね)

 しかしヴィンセントが発した言葉で、サラサはその考えを改めることになる。

「ライオットの君への執着は尋常ではない。あの調子だと、伯爵領に押しかけてくるかもしれないよ」
「……あの方なら、やりかねませんね」

 オフィーリアと共にいたいがために、法律を冒すような男だ。
 兄との結婚を阻止しようと、非合法な手段を講じる可能性は十分あり得る。

(いい加減私を解放して欲しいのだけれど……)

 迷惑なこと、この上ない。
 婚約中はサラサにあれほど無関心だったのに、何故今さら執心するのか。
 サラサには、元婚約者の思考がまったく理解出来なかった。
 その疑問を見透かしたように、ヴィンセントは苦笑気味に言った。

「弟は君を自分の所有物だと思っているんだよ。だから君が自分の手元から離れ、幸せを掴むのが気に食わないのだろうね。しかも心底見下している私の手で」
「そんなの、子供の理屈ではありませんか」
「あれは子供なんだよ。権力欲、自己顕示欲、支配欲の三拍子を兼ね備えた幼児だ」
「幼児……」

 実の兄が言うと妙な説得力がある。
 それと同時に、血を分けた兄弟で何故ここまで違うのだろうと疑問が湧いてくる。

「俺の傍にいれば、弟も迂闊に動けないさ。先々代マリオン伯の別荘は、部下に管理させよう」
「よろしいのですか?」
「もちろん。近衛兵の警護があるとは言え、君を一人にしてはおけないからね」

 そんなわけで、ヴィンセントの離宮に引っ越すことになったのだ。
 それから間もなくして、王妃から書状が届いた。

(王妃陛下……面倒事を押し付けてきたわね)

 その内容は、二人の結婚を認める条件として、疫病で壊滅的被害を受けた領地を立て直せというもの。
 書状を読んだヴィンセントは、「そう来ると思っていたよ」と笑いながら言った。これに関しては、サラサも同意見だった。

「さて、まずはどうする?」
「医薬品の調達ですね。大きな被害を出した要因の一つが、深刻な薬不足と聞いています」

 サラサの父のように、領主が遊ぶ金欲しさに医薬品の輸入量を減らしていたのだ。
 そのことが発覚して、領主は追放処分。息子が家督を継いだものの、経営資金も底を尽きかけているという。

(これはまさしく人災ね)

 病だけでなく、領主の愚行に多くの民が苦しめられてきたのだ。
 何としてでも、救わなければならない。

「疫病の特効薬は、伯爵領にも大量に備蓄があります。こちらを使いましょう」
「ん? 伯爵領も、薬不足に陥っていなかったかい?」
「はい。ですから、屋敷に残っていた美術品や母の装飾品を売り払って、その売上を医薬品の購入に充てました』
「……君もやることがずいぶんと大胆だな」

 貴族は贅沢をする生き物だ。
 そして凄まじい物欲の持ち主で、自分の所有物は決して手放そうとはしない。
 それをよく知っているヴィンセントは、サラサの潔さに少し驚いていた。

『私には必要ないものばかりですから』

 広大な庭園も薬用植物の栽培に利用している。
 住人のいなくなった屋敷もリフォームして、診療所にする予定だった。

(自分たちで薬を作るようになれば、買う側だけでなく売る側にもなれるものね)

 薬はいつ如何いかなる時でも、需要が高いのだ。

 こうして領地を救うべく動き出したサラサたちだが、この頃から王都ではある問題が起こり始めていた。
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