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22.エテルネリア大神殿(神官side)

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 辺境の地にある神殿の神官長が、身分を超えて王太子殿下と婚約した。
 しかも、その神官長は庶民でありながら、治癒魔法を保持していた聖女。
 庶民は「恋愛小説のようだ」と沸き立っているが、神職に就く者たちは冷静だった。

あの・・オフィーリアが王太子に見初められた?』
『今代の王太子は、目が節穴なのかもしれませんなぁ……』
『宰相閣下が祝いの書状を送ってこいとのことだ。私は辞退させてもらう。一文字たりとも書ける自信がない』
『マリオン伯爵令嬢はどうした? 彼女は優秀だと教育係たちが話していたそうだが……』

 誰も真実の愛で結ばれた二人を祝福する気がない。
 神官たちの間でも、オフィーリアの名は悪い・・意味で有名だった。
 歴代最年少で神官長に選出された少女。
 その能力を疑問視する声は以前から多かった。

 まず恐ろしいまでに学がない。

『歴代の大神官様ですか? お父様とお母様に覚えなくていいと言われたので、覚えていません……す、すみません!』

 大神官に就任して間もない頃、神官会議の場でそう言い放った時は、その場の空気が凍り付いた。
 しかも、自分たちが信仰している神々の逸話もうろ覚えだった。
 地方の神官には、十分な教育を受けていない者も多い。
 それでも、限度というものがあるだろうと皆を呆れさせた。

 治癒魔法を保持していることも問題だった。

 オフィーリアを聖女たらしめるそれは、神官団の中では忌避されている。
 人々を癒やす力を持つのは創造神のみ。そのような教えが存在するためだ。
 それ故に、治癒魔法を有する者は「創造神から力を盗んだ」と見なす時代もあった。
 奇跡の力と騒いでいるのは、魔法の有無を重要視する貴族だけだ。
 
 そして人間性の欠如。

『私、次の神官会議はお休みします。ライ様が視察で会いに来てくださるんです!』

 王太子との恋に溺れ、自分の職務を放棄することが度々あった。
 ライオットには、婚約者がいるにも拘らず。
 オフィーリアが神官長に選ばれたのも、王家の後ろ盾があったからと囁かれている。

 これだけ欠点の多い神官長も、そうそういない。
「二百年前の再来」だと嘆く者もいた。

 その問題児が王太子と結婚することになり、神官たちは複雑な心境だった。
「厄介者がいなくなった」と安堵する反面、「この国大丈夫か?」と不安に思う気持ちもあった。

 しかしさらに彼らを悩ませる事態が発生する。

「私のオフィーリアの挙式は、エネルテリア大神殿で行う。使用の許可をいただきたい」

 突如ライオットがそんなことを言い出したのだ。
 
 エネルテリア大神殿は、王都の西方にある巨大なドーム状の建築物で、創造神が祀られている。
 国の重要文化財にも指定されていて、『聖地』とも称されている
 そのため、普段は王族であっても立ち入ることは出来ない。

 そんな神聖な場所で、自分たちの結婚式をしようというのだ。

(あのバカ二人にだけは、絶対に使わせたくない)

 それが神官団の総意であり、すぐさま断り状を王家に送った。
 財務大臣から神官団への補助金を打ち切りを言い渡されたのは、その数日後。

「再開して欲しければ、分かっていますね?」
 
 大臣の発言は、神官たち全員の怒りを買った。
 しかし、神殿の修繕や儀式の費用をまかなっているのは、その補助金である。
 神官団は、渋々ながらエネルテリア大神殿の使用を認めることに決めた。

 そして、のちにこの判断を大いに悔やむのだった。
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