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21.王妃のアイディア(王太子Side)
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「ど、どういうことだい……?」
ライオットの顔に困惑の色が浮かぶ。
こんなに切羽詰まったオフィーリアを見るのは初めてだった。細くて白い手も小刻みに震えている。
「実は……さっきうたた寝をしていたら、夢で神様からお告げを受けたんです」
「何だって!?」
「『ヴィンセント王子とサラサ嬢を結婚させてはならぬ』と仰っていました……その禁を破れば、王家に大いなる災いが降りかかるそうです……」
ライオットは目を大きく見開いて絶句した。
神からの神託など、普通であれば「くだらない」と一蹴するところだ。
しかしオフィーリアは、神官長であり癒しの力を持った聖女。当然、神の寵愛も受けているだろう。
(オフィーリアを愛する権利は私にしかないというのに……いや、今は神に嫉妬している場合か!)
これは由々しき事態である。
ライオットはすぐさまこの事実を、両親や宰相に伝えた。
「大いなる災いと申したが、あまりにも具体的に欠いている。……単なる夢だったのではないか?」
「陛下、まさかとは思いますが、本当にそのようなことを信じておいでなのですか?」
国王と宰相の反応は、懐疑的なものだった。
王妃に至っては、他人事のような澄ました表情で扇を扇いでいる。
オフィーリアを聖女と認めているくせに、神託に関しては信用しないのか。
その矛盾さに、ライオットはもどかしさと怒りを覚える。
「当然ではないか。私が信じてやらずに誰がオフィーリアを信じるというのだ」
「オフィーリア嬢の嘘だとは思わんのか?」
「嘘?」
「何らかの理由で、二人の結婚を阻止しようとしているのかもしれん」
「……お言葉ですが、父上。オフィーリアは篤い信仰心を持つ女性です。如何なる理由があっても、神を利用するはずがありません」
ライオットは何の躊躇いもなく、国王の疑心を否定した。
(もし、父上の言う通りだとしたら、サラサを取り戻すためなのかもしれない)
姉のように慕うサラサを、あの腹黒王子に渡してなるものかと必死なのだろう。
そうだとしたら、責められるべきはサラサだ。
(あの女が私から離れたせいで、オフィーリアは嘘を付くことになったんだ……)
サラサへの怒りがぶり返し、ライオットは顔をしかめた。
「……それに、私が兄上とサラサの結婚に反対する理由は他にもございます」
「ふむ?」
「両者ともに非保持者なのです。産まれてくる子供も当然、非保持者ということになる。新たな欠陥品を増やす愚行を許してはなりません!」
身振り手振りで熱弁しながら、ライオットは勝利を確信していた。
何せ、国王は長男が非保持者だと発覚すると、即座に切り捨てた男である。今の言葉は強く響いたはずだ。
「確かに、あなたの言うことには一理あるわ」
すると、これまで黙っていた王妃が口を開いた。
「だけど欠陥品であっても、まるきり使えないというわけではないと思うわよ?」
「どういうことですか?」
ライオットが尋ねると、王妃は口元を扇で隠しながらニコリと微笑んだ。
「二人が結婚する条件として、王家が抱えている面倒事をお願いするの。『結婚は諦めます』と二人が音を上げるまで、次々とね」
「なるほど。それは面白いな」
妻が出したアイディアに、国王が興味を示す。
王妃が一瞬冷たい表情をしたが、あの二人を苦しめる算段でも考えているのだと、ライオットは思った。
「でしょう? まずは何をやってもらおうかしら」
王妃が少女のようにくすくすと笑う。
もうじき四十に差しかかるというのに、その美貌は未だに健在だ。
(これはこれで、悪くない展開だ……)
ライオットは頬を緩ませる。
学のないヴィンセントは使い物にならず、サラサにはマリオン伯爵領の経営もある。
すぐに立ち行かなくなるだろう。
(その間に、私とオフィーリアは挙式の準備をしなければ!)
会場の手配や衣装の仕立て、指輪の購入などやることは多い。
貴族、庶民問わず全ての国民から祝福される式にする。ライオットはそんな使命感に燃えていた。
ライオットの顔に困惑の色が浮かぶ。
こんなに切羽詰まったオフィーリアを見るのは初めてだった。細くて白い手も小刻みに震えている。
「実は……さっきうたた寝をしていたら、夢で神様からお告げを受けたんです」
「何だって!?」
「『ヴィンセント王子とサラサ嬢を結婚させてはならぬ』と仰っていました……その禁を破れば、王家に大いなる災いが降りかかるそうです……」
ライオットは目を大きく見開いて絶句した。
神からの神託など、普通であれば「くだらない」と一蹴するところだ。
しかしオフィーリアは、神官長であり癒しの力を持った聖女。当然、神の寵愛も受けているだろう。
(オフィーリアを愛する権利は私にしかないというのに……いや、今は神に嫉妬している場合か!)
これは由々しき事態である。
ライオットはすぐさまこの事実を、両親や宰相に伝えた。
「大いなる災いと申したが、あまりにも具体的に欠いている。……単なる夢だったのではないか?」
「陛下、まさかとは思いますが、本当にそのようなことを信じておいでなのですか?」
国王と宰相の反応は、懐疑的なものだった。
王妃に至っては、他人事のような澄ました表情で扇を扇いでいる。
オフィーリアを聖女と認めているくせに、神託に関しては信用しないのか。
その矛盾さに、ライオットはもどかしさと怒りを覚える。
「当然ではないか。私が信じてやらずに誰がオフィーリアを信じるというのだ」
「オフィーリア嬢の嘘だとは思わんのか?」
「嘘?」
「何らかの理由で、二人の結婚を阻止しようとしているのかもしれん」
「……お言葉ですが、父上。オフィーリアは篤い信仰心を持つ女性です。如何なる理由があっても、神を利用するはずがありません」
ライオットは何の躊躇いもなく、国王の疑心を否定した。
(もし、父上の言う通りだとしたら、サラサを取り戻すためなのかもしれない)
姉のように慕うサラサを、あの腹黒王子に渡してなるものかと必死なのだろう。
そうだとしたら、責められるべきはサラサだ。
(あの女が私から離れたせいで、オフィーリアは嘘を付くことになったんだ……)
サラサへの怒りがぶり返し、ライオットは顔をしかめた。
「……それに、私が兄上とサラサの結婚に反対する理由は他にもございます」
「ふむ?」
「両者ともに非保持者なのです。産まれてくる子供も当然、非保持者ということになる。新たな欠陥品を増やす愚行を許してはなりません!」
身振り手振りで熱弁しながら、ライオットは勝利を確信していた。
何せ、国王は長男が非保持者だと発覚すると、即座に切り捨てた男である。今の言葉は強く響いたはずだ。
「確かに、あなたの言うことには一理あるわ」
すると、これまで黙っていた王妃が口を開いた。
「だけど欠陥品であっても、まるきり使えないというわけではないと思うわよ?」
「どういうことですか?」
ライオットが尋ねると、王妃は口元を扇で隠しながらニコリと微笑んだ。
「二人が結婚する条件として、王家が抱えている面倒事をお願いするの。『結婚は諦めます』と二人が音を上げるまで、次々とね」
「なるほど。それは面白いな」
妻が出したアイディアに、国王が興味を示す。
王妃が一瞬冷たい表情をしたが、あの二人を苦しめる算段でも考えているのだと、ライオットは思った。
「でしょう? まずは何をやってもらおうかしら」
王妃が少女のようにくすくすと笑う。
もうじき四十に差しかかるというのに、その美貌は未だに健在だ。
(これはこれで、悪くない展開だ……)
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学のないヴィンセントは使い物にならず、サラサにはマリオン伯爵領の経営もある。
すぐに立ち行かなくなるだろう。
(その間に、私とオフィーリアは挙式の準備をしなければ!)
会場の手配や衣装の仕立て、指輪の購入などやることは多い。
貴族、庶民問わず全ての国民から祝福される式にする。ライオットはそんな使命感に燃えていた。
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