19 / 47
19.一番になりたい(聖女side)
しおりを挟む
※前話で他作品と似ている箇所があったので、修正しました。
『お姉様、どうしていなくなってしまったのですか……? 酷いです……っ』
悲しみに暮れるオフィーリアを、大人たちは優しく慰めてくれた。その一方で、人知れず村を去った姉のことは厳しく非難した。
特に、両親の姉に対する落胆は大きいものだった。
『まさか、あんなに幼稚な娘だとは思わなかった』
『可愛い妹を悲しませるなんて困った子だわ。オフィーリア、あの子のことはもう忘れなさい』
両親の怒ったような困ったような表情を見て、オフィーリアは『やっぱり悪いのはお姉様なんだ』と再認識した。姉がいなくなったばかりだというのに、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
(お父様とお母様に怒られたからって出て行ってしまうなんて、お姉様ったら子供みたい)
いつも優しかった姉はもういない。両親の言う通り、オフィーリアは姉に対する未練をばっさり断ち切った。姉以外にも、自分を甘やかしてくれる人はたくさんいるから。
その後、成長したオフィーリアが神官の職に就くと、多くの人々が村の神殿を訪れるようになった。
領主や他の神殿の神官長、村の近くにある兵舎から階級の高い兵士が会いに来たこともある。
(男の人はみんな大好き。でも女の子は、私をいじめるから少し怖いわ)
時が経つにつれて、村の女性たちは次第にオフィーリアを避けるようになっていった。
特に同世代の少女たちからの風当たりは強く、向こうからは一切話しかけてきてくれない。まるで数年前に出て行った姉のように。
(でも、私はみんなと仲良くなりたい。愛したいし、愛されたいの!)
一方通行な愛じゃ足りない。全ての人々から可愛がられて愛される。それがオフィーリアの一番の願いなのだ。
だから少女たちとは、彼女らの家族に協力してもらって仲直りした。皆、泣き腫らした目で『ごめんなさい』と謝ってくれたのだ。
そして、幸せいっぱいな日々を過ごしている時、オフィーリアにとって運命の人が現れる。
『治癒魔法を持つ聖女とは、君のことかい?』
ライオット王太子。将来、ロードラル国王になることを約束された青年だった。
「……リア。オフィーリア、聞いているかい?」
最愛の人の呼びかけに、オフィーリアははたと我に返る。
離宮から帰る馬車の中で、ライオットが訝しそうにこちらを見詰めていた。
「あ……ごめんなさい。少しボーってしてしまって……えっと、何でしょうか?」
久しぶりにサラサの顔を見たせいか、つい昔のことを思い出していた。
(サラサ様って、お姉様にちょっと似てるから……)
顔だけではなく、オフィーリアのお願いを何でも聞いてくれそうなところが姉とそっくりなのだ。
「いや、別に大したことじゃないんだが……」
そう前置きしてから、ライオットは内緒話をするように声を潜めて言った。
「さっき、ヴィンセント兄さんから妙な質問をされていただろう?」
「……っ、はい」
ヴィンセント。その名前に、オフィーリアの胸がどきりと高鳴る。
「他の人間からも同じようなことを聞かれるかもしれないが、君は何も答える必要はないよ」
「え? でも……」
「彼らは君が何らかのズルをして、神官長になったと思い込んでいるんだ」
「えっ!? 私、ズルなんてしてません……っ!」
自分はこんなに完璧な聖女なのに。
彼ら、ということはヴィンセントも疑っているのだろうか。オフィーリアは強い危機感を覚えた。
「もちろんだよ。僕は君がそんなことをする人間ではないと知っているからね」
顔を青くして狼狽える恋人に、ライオットは優しい声音で言った。
しかしその言葉が、オフィーリアの不安を拭い去ることはない。
(ライ様だけじゃダメなの! ヴィン様にも信じてもらわないと……っ)
ヴィンセントを一目見た時、その端整な顔立ちに目を奪われた。ライオットとは違うタイプの美形だ。
だから絶対に仲良くなりたいし、ヴィンセントの一番になりたいと思う。
(……あれ? でも、ちょっと待って?)
その時、オフィーリアの心の中に新たな不安が生まれた。
(ヴィン様……サラサ様と結婚がどうこうって言ってなかった? 何でサラサ様がお相手なの? 私の方が可愛いし、魔法も使えるのに。サラサ様と結婚したって、幸せにはなれないのに……)
オフィーリアには、ライオットという永遠の愛を誓った人がいる。
しかし、それとこれとは話が別だ。
どうすれば、ヴィンセントの心を手に入れられるだろう。オフィーリアは青ざめた顔で、必死に考えを巡らせていた。
『お姉様、どうしていなくなってしまったのですか……? 酷いです……っ』
悲しみに暮れるオフィーリアを、大人たちは優しく慰めてくれた。その一方で、人知れず村を去った姉のことは厳しく非難した。
特に、両親の姉に対する落胆は大きいものだった。
『まさか、あんなに幼稚な娘だとは思わなかった』
『可愛い妹を悲しませるなんて困った子だわ。オフィーリア、あの子のことはもう忘れなさい』
両親の怒ったような困ったような表情を見て、オフィーリアは『やっぱり悪いのはお姉様なんだ』と再認識した。姉がいなくなったばかりだというのに、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
(お父様とお母様に怒られたからって出て行ってしまうなんて、お姉様ったら子供みたい)
いつも優しかった姉はもういない。両親の言う通り、オフィーリアは姉に対する未練をばっさり断ち切った。姉以外にも、自分を甘やかしてくれる人はたくさんいるから。
その後、成長したオフィーリアが神官の職に就くと、多くの人々が村の神殿を訪れるようになった。
領主や他の神殿の神官長、村の近くにある兵舎から階級の高い兵士が会いに来たこともある。
(男の人はみんな大好き。でも女の子は、私をいじめるから少し怖いわ)
時が経つにつれて、村の女性たちは次第にオフィーリアを避けるようになっていった。
特に同世代の少女たちからの風当たりは強く、向こうからは一切話しかけてきてくれない。まるで数年前に出て行った姉のように。
(でも、私はみんなと仲良くなりたい。愛したいし、愛されたいの!)
一方通行な愛じゃ足りない。全ての人々から可愛がられて愛される。それがオフィーリアの一番の願いなのだ。
だから少女たちとは、彼女らの家族に協力してもらって仲直りした。皆、泣き腫らした目で『ごめんなさい』と謝ってくれたのだ。
そして、幸せいっぱいな日々を過ごしている時、オフィーリアにとって運命の人が現れる。
『治癒魔法を持つ聖女とは、君のことかい?』
ライオット王太子。将来、ロードラル国王になることを約束された青年だった。
「……リア。オフィーリア、聞いているかい?」
最愛の人の呼びかけに、オフィーリアははたと我に返る。
離宮から帰る馬車の中で、ライオットが訝しそうにこちらを見詰めていた。
「あ……ごめんなさい。少しボーってしてしまって……えっと、何でしょうか?」
久しぶりにサラサの顔を見たせいか、つい昔のことを思い出していた。
(サラサ様って、お姉様にちょっと似てるから……)
顔だけではなく、オフィーリアのお願いを何でも聞いてくれそうなところが姉とそっくりなのだ。
「いや、別に大したことじゃないんだが……」
そう前置きしてから、ライオットは内緒話をするように声を潜めて言った。
「さっき、ヴィンセント兄さんから妙な質問をされていただろう?」
「……っ、はい」
ヴィンセント。その名前に、オフィーリアの胸がどきりと高鳴る。
「他の人間からも同じようなことを聞かれるかもしれないが、君は何も答える必要はないよ」
「え? でも……」
「彼らは君が何らかのズルをして、神官長になったと思い込んでいるんだ」
「えっ!? 私、ズルなんてしてません……っ!」
自分はこんなに完璧な聖女なのに。
彼ら、ということはヴィンセントも疑っているのだろうか。オフィーリアは強い危機感を覚えた。
「もちろんだよ。僕は君がそんなことをする人間ではないと知っているからね」
顔を青くして狼狽える恋人に、ライオットは優しい声音で言った。
しかしその言葉が、オフィーリアの不安を拭い去ることはない。
(ライ様だけじゃダメなの! ヴィン様にも信じてもらわないと……っ)
ヴィンセントを一目見た時、その端整な顔立ちに目を奪われた。ライオットとは違うタイプの美形だ。
だから絶対に仲良くなりたいし、ヴィンセントの一番になりたいと思う。
(……あれ? でも、ちょっと待って?)
その時、オフィーリアの心の中に新たな不安が生まれた。
(ヴィン様……サラサ様と結婚がどうこうって言ってなかった? 何でサラサ様がお相手なの? 私の方が可愛いし、魔法も使えるのに。サラサ様と結婚したって、幸せにはなれないのに……)
オフィーリアには、ライオットという永遠の愛を誓った人がいる。
しかし、それとこれとは話が別だ。
どうすれば、ヴィンセントの心を手に入れられるだろう。オフィーリアは青ざめた顔で、必死に考えを巡らせていた。
3,224
お気に入りに追加
7,629
あなたにおすすめの小説
平凡令嬢は婚約者を完璧な妹に譲ることにした
カレイ
恋愛
「平凡なお前ではなくカレンが姉だったらどんなに良かったか」
それが両親の口癖でした。
ええ、ええ、確かに私は容姿も学力も裁縫もダンスも全て人並み程度のただの凡人です。体は弱いが何でも器用にこなす美しい妹と比べるとその差は歴然。
ただ少しばかり先に生まれただけなのに、王太子の婚約者にもなってしまうし。彼も妹の方が良かったといつも嘆いております。
ですから私決めました!
王太子の婚約者という席を妹に譲ることを。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
とある断罪劇の一夜
雪菊
恋愛
公爵令嬢エカテリーナは卒業パーティーで婚約者の第二王子から婚約破棄宣言された。
しかしこれは予定通り。
学園入学時に前世の記憶を取り戻した彼女はこの世界がゲームの世界であり自分が悪役令嬢であることに気づいたのだ。
だから対策もばっちり。準備万端で断罪を迎え撃つ。
現実のものとは一切関係のない架空のお話です。
初投稿作品です。短編予定です。
誤字脱字矛盾などありましたらこっそり教えてください。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
どうか、お幸せになって下さいね。伯爵令嬢はみんなが裏で動いているのに最後まで気づかない。
しげむろ ゆうき
恋愛
キリオス伯爵家の娘であるハンナは一年前に母を病死で亡くした。そんな悲しみにくれるなか、ある日、父のエドモンドが愛人ドナと隠し子フィナを勝手に連れて来てしまったのだ。
二人はすぐに屋敷を我が物顔で歩き出す。そんな二人にハンナは日々困らされていたが、味方である使用人達のおかげで上手くやっていけていた。
しかし、ある日ハンナは学園の帰りに事故に遭い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる