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19.一番になりたい(聖女side)
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※前話で他作品と似ている箇所があったので、修正しました。
『お姉様、どうしていなくなってしまったのですか……? 酷いです……っ』
悲しみに暮れるオフィーリアを、大人たちは優しく慰めてくれた。その一方で、人知れず村を去った姉のことは厳しく非難した。
特に、両親の姉に対する落胆は大きいものだった。
『まさか、あんなに幼稚な娘だとは思わなかった』
『可愛い妹を悲しませるなんて困った子だわ。オフィーリア、あの子のことはもう忘れなさい』
両親の怒ったような困ったような表情を見て、オフィーリアは『やっぱり悪いのはお姉様なんだ』と再認識した。姉がいなくなったばかりだというのに、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
(お父様とお母様に怒られたからって出て行ってしまうなんて、お姉様ったら子供みたい)
いつも優しかった姉はもういない。両親の言う通り、オフィーリアは姉に対する未練をばっさり断ち切った。姉以外にも、自分を甘やかしてくれる人はたくさんいるから。
その後、成長したオフィーリアが神官の職に就くと、多くの人々が村の神殿を訪れるようになった。
領主や他の神殿の神官長、村の近くにある兵舎から階級の高い兵士が会いに来たこともある。
(男の人はみんな大好き。でも女の子は、私をいじめるから少し怖いわ)
時が経つにつれて、村の女性たちは次第にオフィーリアを避けるようになっていった。
特に同世代の少女たちからの風当たりは強く、向こうからは一切話しかけてきてくれない。まるで数年前に出て行った姉のように。
(でも、私はみんなと仲良くなりたい。愛したいし、愛されたいの!)
一方通行な愛じゃ足りない。全ての人々から可愛がられて愛される。それがオフィーリアの一番の願いなのだ。
だから少女たちとは、彼女らの家族に協力してもらって仲直りした。皆、泣き腫らした目で『ごめんなさい』と謝ってくれたのだ。
そして、幸せいっぱいな日々を過ごしている時、オフィーリアにとって運命の人が現れる。
『治癒魔法を持つ聖女とは、君のことかい?』
ライオット王太子。将来、ロードラル国王になることを約束された青年だった。
「……リア。オフィーリア、聞いているかい?」
最愛の人の呼びかけに、オフィーリアははたと我に返る。
離宮から帰る馬車の中で、ライオットが訝しそうにこちらを見詰めていた。
「あ……ごめんなさい。少しボーってしてしまって……えっと、何でしょうか?」
久しぶりにサラサの顔を見たせいか、つい昔のことを思い出していた。
(サラサ様って、お姉様にちょっと似てるから……)
顔だけではなく、オフィーリアのお願いを何でも聞いてくれそうなところが姉とそっくりなのだ。
「いや、別に大したことじゃないんだが……」
そう前置きしてから、ライオットは内緒話をするように声を潜めて言った。
「さっき、ヴィンセント兄さんから妙な質問をされていただろう?」
「……っ、はい」
ヴィンセント。その名前に、オフィーリアの胸がどきりと高鳴る。
「他の人間からも同じようなことを聞かれるかもしれないが、君は何も答える必要はないよ」
「え? でも……」
「彼らは君が何らかのズルをして、神官長になったと思い込んでいるんだ」
「えっ!? 私、ズルなんてしてません……っ!」
自分はこんなに完璧な聖女なのに。
彼ら、ということはヴィンセントも疑っているのだろうか。オフィーリアは強い危機感を覚えた。
「もちろんだよ。僕は君がそんなことをする人間ではないと知っているからね」
顔を青くして狼狽える恋人に、ライオットは優しい声音で言った。
しかしその言葉が、オフィーリアの不安を拭い去ることはない。
(ライ様だけじゃダメなの! ヴィン様にも信じてもらわないと……っ)
ヴィンセントを一目見た時、その端整な顔立ちに目を奪われた。ライオットとは違うタイプの美形だ。
だから絶対に仲良くなりたいし、ヴィンセントの一番になりたいと思う。
(……あれ? でも、ちょっと待って?)
その時、オフィーリアの心の中に新たな不安が生まれた。
(ヴィン様……サラサ様と結婚がどうこうって言ってなかった? 何でサラサ様がお相手なの? 私の方が可愛いし、魔法も使えるのに。サラサ様と結婚したって、幸せにはなれないのに……)
オフィーリアには、ライオットという永遠の愛を誓った人がいる。
しかし、それとこれとは話が別だ。
どうすれば、ヴィンセントの心を手に入れられるだろう。オフィーリアは青ざめた顔で、必死に考えを巡らせていた。
『お姉様、どうしていなくなってしまったのですか……? 酷いです……っ』
悲しみに暮れるオフィーリアを、大人たちは優しく慰めてくれた。その一方で、人知れず村を去った姉のことは厳しく非難した。
特に、両親の姉に対する落胆は大きいものだった。
『まさか、あんなに幼稚な娘だとは思わなかった』
『可愛い妹を悲しませるなんて困った子だわ。オフィーリア、あの子のことはもう忘れなさい』
両親の怒ったような困ったような表情を見て、オフィーリアは『やっぱり悪いのはお姉様なんだ』と再認識した。姉がいなくなったばかりだというのに、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
(お父様とお母様に怒られたからって出て行ってしまうなんて、お姉様ったら子供みたい)
いつも優しかった姉はもういない。両親の言う通り、オフィーリアは姉に対する未練をばっさり断ち切った。姉以外にも、自分を甘やかしてくれる人はたくさんいるから。
その後、成長したオフィーリアが神官の職に就くと、多くの人々が村の神殿を訪れるようになった。
領主や他の神殿の神官長、村の近くにある兵舎から階級の高い兵士が会いに来たこともある。
(男の人はみんな大好き。でも女の子は、私をいじめるから少し怖いわ)
時が経つにつれて、村の女性たちは次第にオフィーリアを避けるようになっていった。
特に同世代の少女たちからの風当たりは強く、向こうからは一切話しかけてきてくれない。まるで数年前に出て行った姉のように。
(でも、私はみんなと仲良くなりたい。愛したいし、愛されたいの!)
一方通行な愛じゃ足りない。全ての人々から可愛がられて愛される。それがオフィーリアの一番の願いなのだ。
だから少女たちとは、彼女らの家族に協力してもらって仲直りした。皆、泣き腫らした目で『ごめんなさい』と謝ってくれたのだ。
そして、幸せいっぱいな日々を過ごしている時、オフィーリアにとって運命の人が現れる。
『治癒魔法を持つ聖女とは、君のことかい?』
ライオット王太子。将来、ロードラル国王になることを約束された青年だった。
「……リア。オフィーリア、聞いているかい?」
最愛の人の呼びかけに、オフィーリアははたと我に返る。
離宮から帰る馬車の中で、ライオットが訝しそうにこちらを見詰めていた。
「あ……ごめんなさい。少しボーってしてしまって……えっと、何でしょうか?」
久しぶりにサラサの顔を見たせいか、つい昔のことを思い出していた。
(サラサ様って、お姉様にちょっと似てるから……)
顔だけではなく、オフィーリアのお願いを何でも聞いてくれそうなところが姉とそっくりなのだ。
「いや、別に大したことじゃないんだが……」
そう前置きしてから、ライオットは内緒話をするように声を潜めて言った。
「さっき、ヴィンセント兄さんから妙な質問をされていただろう?」
「……っ、はい」
ヴィンセント。その名前に、オフィーリアの胸がどきりと高鳴る。
「他の人間からも同じようなことを聞かれるかもしれないが、君は何も答える必要はないよ」
「え? でも……」
「彼らは君が何らかのズルをして、神官長になったと思い込んでいるんだ」
「えっ!? 私、ズルなんてしてません……っ!」
自分はこんなに完璧な聖女なのに。
彼ら、ということはヴィンセントも疑っているのだろうか。オフィーリアは強い危機感を覚えた。
「もちろんだよ。僕は君がそんなことをする人間ではないと知っているからね」
顔を青くして狼狽える恋人に、ライオットは優しい声音で言った。
しかしその言葉が、オフィーリアの不安を拭い去ることはない。
(ライ様だけじゃダメなの! ヴィン様にも信じてもらわないと……っ)
ヴィンセントを一目見た時、その端整な顔立ちに目を奪われた。ライオットとは違うタイプの美形だ。
だから絶対に仲良くなりたいし、ヴィンセントの一番になりたいと思う。
(……あれ? でも、ちょっと待って?)
その時、オフィーリアの心の中に新たな不安が生まれた。
(ヴィン様……サラサ様と結婚がどうこうって言ってなかった? 何でサラサ様がお相手なの? 私の方が可愛いし、魔法も使えるのに。サラサ様と結婚したって、幸せにはなれないのに……)
オフィーリアには、ライオットという永遠の愛を誓った人がいる。
しかし、それとこれとは話が別だ。
どうすれば、ヴィンセントの心を手に入れられるだろう。オフィーリアは青ざめた顔で、必死に考えを巡らせていた。
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