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16.王教不干渉法

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※今回の話にあたって11話を少し訂正しています。



「え?」

 サラサは虚を突かれたように目を丸くする。ライオットがオフィーリアを見込んで王城に招き入れたのは、半年前のことだだった。

(それ以前から、二人は面識があったということなの?)

 ライオットの方を見ると、「それがどうした」とばかりに眉を寄せている。その隣では、オフィーリアが口元に手を添えながら恥じらっていた。

「そんな……私は聖女なんかじゃありません。オフィーリアって呼んでください」
「自分を謙遜することはないよ、オフィーリア。君は立派な聖女だ」

 ライオットは柔らかに微笑んで、オフィーリアの肩を優しく抱き寄せた。一見すると仲睦まじい恋人同士だが、オフィーリアの常磐色の瞳に映っているのはヴィンセントである。
 ヴィンセントは聖女の顔を見詰め返し、にっこりと笑顔を作った。

「ところで、君は王教不干渉おうきょうふかんしょう法という法律を知っているかな?」
「おーきょーふかんしょー……?」

 生まれて初めて耳にする言葉に、オフィーリアはぽかんと口を開けた。
 その一方でライオットがぎくりと表情を強張らせたのを、サラサは見逃さなかった。

「まあ簡単に言えば、王家は上級神官の選出に深く介入してはいけませんよというものだよ。うちの国では昔、厄介なことが起こってしまってね。そういうルールが決まったんだ」

 その話はサラサも知っている。
 今から二百年ほど前、国王夫妻の強い後押しによって神職で最高位の大神官に就いた男が、宗教の腐敗を招いたというものだ。
 のちに王家は男から多額の賄賂を受け取っていたことが判明し、激しく糾弾された。
 その結果、国王は権威を失い、退位に追い込まれてしまった。

「そんなことがあったんですね。怖いです……」

 ヴィンセントが事件の説明すると、オフィーリアは表情を曇らせた。

(オフィーリア様、ご存じなかったの……?)

 神職に就いている者なら、誰でも知っているはず。聖女の無知さをまざまざと見せつけられ、サラサは唖然とした。

「さて、聖女様。君に一つ聞きたいのだが」

 ヴィンセントは探るような眼差しで、怯えた様子のオフィーリアをじっと見詰めた。

「君は何故自分が神官長に選ばれたと思う?」
「え? それは私が聖女だからで──」
「オフィーリア、そろそろ帰ろうか。少し気分が悪くなってきた」

 オフィーリアの言葉に被せるように、ライオットが早口で促した。

「え、ライ様大丈夫ですか!? 今私が魔法で治して……」
「いや、城に帰って休めばすぐによくなるよ。君の手を煩わせるほどじゃない」

 ライオットはオフィーリアに優しく笑いかけると、サラサには冷ややかな視線を向ける。

「サラサ、すべて君の思い通りにいくと思うな。どうせ君は、私に尽くすことでしか幸せになれないんだ」

 そんな捨て台詞を吐きながら、ライオットが部屋を飛び出していく。
 侍従たちもその後に続き、最後にオフィーリアが退室する。

「あ、あのヴィン様っ! また会いに来ますね!」

 そんな言葉を残して。


「出来ればご遠慮願いたいな」

 廊下からの足音が聞こえなくなったところで、ヴィンセントは軽く毒づいた。

(何だかきな臭い話になってきたわね……)

 王教不干渉法の話題になった途端、ライオットはあからさまに焦り出した。
 それが何を意味するのか、深く考えなくても分かる。
 元婚約者のやらかし・・・・に、サラサは笑うしかなかった。
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