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9.大問題

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 マリオン伯爵夫妻は、それぞれの親族に引き取られることになった。
 こんな恥知らずども、市井に放逐してもいいんじゃないかという意見が多数だったが、サラサがそれに反対した。

「貴族が急に庶民として暮らすことなど不可能です。一ヶ月も経たずに命を落とすでしょう。……ですが、この方々が私の両親であることに変わりはないのです。どうかそれだけはおやめください」

 この二人には積年の恨みがあるのだ。そう簡単に死なれたらつまらない。
 それなら、何らかの形で社会に貢献させた方が世のためにもなる。
 そんな本心を隠してサラサが説得すると、親族たちは神妙な面持ちで同意してくれた。

『こんなクズどもを許すとは……君は優しすぎる』

 叔祖父がしみじみと言うので、サラサは『そんなことありません』と謙遜しておいた。

 そんなわけで、両親は現在使用人として働かされている。
 最低限の衣食住は保証されているが、給金は一切なし。粗相をすると、一日食事抜きという過酷な日々を送っているようだ。


 両親の次は使用人全員を屋敷から追い出した。
 増築に増築を重ねて無駄に大きくなった屋敷に、住むつもりなど毛頭ない。
 それに、常にサラサの顔色を窺いながら仕事をする使用人たちもいい加減鬱陶しく思っていたのだ。

『そ、そのようなことをしてよろしいのですか? 私たちがいなくなったら、サラサ様のお世話をする者がいなくなりますよ』
『自分のことは自分でしますから、ご心配には及びません』

 サラサがさらりと切り返すと、使用人たちは全員黙り込んだ。
 執事がいなくても仕事は滞りなく進むし、侍女がいなくても掃除と洗濯は問題ない。新居となる祖父の別荘には、庭園がないので庭師も不要。
 つまり、今のところはサラサ一人で何とかなる。別荘の警備も、叔祖父の私兵に任せる予定だ。

 彼らには退職金と再就職先を用意したが、伯爵領を去る者は多かった。

(主人の娘を虐めていた使用人として、名が知られているものね)

 伯爵家で働いていることを鼻にかけ、好き勝手やっていた輩もいたようだ。もうこの土地にはいられないだろう。
 伯爵夫妻だけではなく、使用人もまとめて追い出したサラサを、領民たちは温かく歓迎した。

 この領地は農産物の収穫量が比較的多く、治安もさほど悪くはない。
 だが、サラサも把握していない事態が起きていた。

(医療費を高くしすぎたせいで、診療所を利用する人が激減。診療所は廃業に追い込まれて、おまけに医薬品の輸入も減少……そのせいで、慢性的な薬不足が続いていた……これはどういうことかしら、お父様)

 サラサは父親を張り倒したい衝動に駆られた。
 医薬品の輸入を減らし、浮いた分を遊興費にあてていたのだろう。
 それを気付かれないために、マリオン伯爵は医療方面の仕事だけはサラサに任せなかった。無駄に悪知恵の働く男である。

 しかしサラサの悩みの種はそれだけではない。
 程なくして、新たな問題も生じたのだった。
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