4 / 24
4.実家
しおりを挟む
結局そのあとも「あのぅ、この指輪も……」「あっ、こっちのブレスレットも!」と散々ねだられたので、サラサはジュエリーボックスごと渡した。
するとオフィーリアはとても嬉しそうな顔をして帰って行った。サラサを引き留めるという本来の目的など、完全に忘れている様子だった。
邪魔者がいなくなったところで、サラサは荷物整理を再開した。
大きなトランクケースに私物を詰め込んで、数年間暮らした部屋を去る。廊下を歩いている最中、文官や侍女たちと目が合ったが、すぐに逸らされた。
(私がこんな扱いを受けていても、ライオット様は何もしてくださらなかったわね)
サラサは城内の人々からも、非保持者として冷遇されてきた。
廊下ですれ違っても、無理されるのは当たり前。サラサに仕える侍女たちもろくに仕事をせず、家庭教師からは激しく叱責されていた。
それでも頑張り続ければ、いつか彼らにも認めてもらえる。そう信じてずっと耐えてきたのだ。
けれど、そんな窮屈な生活も今日でおしまい。サラサは鼻唄を歌いながら王城を後にした。
「殿下との婚約を解消するだと? お前は何を考えているのだっ!」
突然実家に戻ってきた娘に、マリオン伯爵は怒り心頭だった。
「お前が殿下と婚約できたのは、父上が先王に掛け合ったおかげなのだぞ! そのことを忘れたのか!?」
「いいえ、覚えていますわ。お祖父様には感謝しております」
顔を真っ赤にして詰め寄る父親に、サラサは笑顔で答えた。
この男は気に入らないことがあると、すぐに子供のように癇癪を起こすのだ。この性格のせいで領民からは毛嫌いされていて、同じ貴族たちからも疎まれている。
「大体、側妃の何が不満だというのだ! 殿下の伴侶であることに変わりはないだろう!」
「そうよ、サラサ。早くお城に戻って殿下に謝りなさい。今ならまだ許してもらえるかもしれないわ!」
伯爵夫人も泣きそうな顔で、サラサを説得しようとする。
二人とも、王家との繋がりを失うことを何よりも恐れているのだ。
(私が側妃になる時点で、そんなの意味がなくなると思うけど)
サラサが城内でどのような仕打ちを受けていたかは、両親も把握しているはずだ。
使用人にまで軽視されている娘が側妃になっても、マリオン伯爵側に旨味などない。
しかし、二人はそのことが理解出来ていない。王室の一員になってしまえば、こっちのものだと本気で思い込んでいる。
「非保持者のお前などに選択肢があると思うな! 大人しく王太子に従っていればいいのだ! それが出来ないというのなら……」
「私を勘当なさいますか?」
「当然だ。お前のような欠陥品など、我が家には不要だからな」
サラサがしおらしい態度で尋ねると、伯爵は勝ち誇ったような表情で言い切った。
「そうよ、サラサ。あなた自身のためにも、考え直してちょうだい」
あなた自身のため。伯爵夫人が口にした言葉に、サラサは声を上げて笑いそうになる。
昔から両親は、非保持者のサラサを『無能』呼ばわりして虐げてきた。祖父が何度たしなめても、態度を改めることはなかった。
そのせいで使用人たちも、サラサに冷たく接していた。
出来損ないはどんな扱いをしても構わない。この屋敷にいる誰もが、そんな歪んだ認識を持っているのだ。
「分かりました。それでは、どうぞご遠慮なく勘当なさってください」
というわけで、まずは彼らに身の程を知っていただくことにする。
するとオフィーリアはとても嬉しそうな顔をして帰って行った。サラサを引き留めるという本来の目的など、完全に忘れている様子だった。
邪魔者がいなくなったところで、サラサは荷物整理を再開した。
大きなトランクケースに私物を詰め込んで、数年間暮らした部屋を去る。廊下を歩いている最中、文官や侍女たちと目が合ったが、すぐに逸らされた。
(私がこんな扱いを受けていても、ライオット様は何もしてくださらなかったわね)
サラサは城内の人々からも、非保持者として冷遇されてきた。
廊下ですれ違っても、無理されるのは当たり前。サラサに仕える侍女たちもろくに仕事をせず、家庭教師からは激しく叱責されていた。
それでも頑張り続ければ、いつか彼らにも認めてもらえる。そう信じてずっと耐えてきたのだ。
けれど、そんな窮屈な生活も今日でおしまい。サラサは鼻唄を歌いながら王城を後にした。
「殿下との婚約を解消するだと? お前は何を考えているのだっ!」
突然実家に戻ってきた娘に、マリオン伯爵は怒り心頭だった。
「お前が殿下と婚約できたのは、父上が先王に掛け合ったおかげなのだぞ! そのことを忘れたのか!?」
「いいえ、覚えていますわ。お祖父様には感謝しております」
顔を真っ赤にして詰め寄る父親に、サラサは笑顔で答えた。
この男は気に入らないことがあると、すぐに子供のように癇癪を起こすのだ。この性格のせいで領民からは毛嫌いされていて、同じ貴族たちからも疎まれている。
「大体、側妃の何が不満だというのだ! 殿下の伴侶であることに変わりはないだろう!」
「そうよ、サラサ。早くお城に戻って殿下に謝りなさい。今ならまだ許してもらえるかもしれないわ!」
伯爵夫人も泣きそうな顔で、サラサを説得しようとする。
二人とも、王家との繋がりを失うことを何よりも恐れているのだ。
(私が側妃になる時点で、そんなの意味がなくなると思うけど)
サラサが城内でどのような仕打ちを受けていたかは、両親も把握しているはずだ。
使用人にまで軽視されている娘が側妃になっても、マリオン伯爵側に旨味などない。
しかし、二人はそのことが理解出来ていない。王室の一員になってしまえば、こっちのものだと本気で思い込んでいる。
「非保持者のお前などに選択肢があると思うな! 大人しく王太子に従っていればいいのだ! それが出来ないというのなら……」
「私を勘当なさいますか?」
「当然だ。お前のような欠陥品など、我が家には不要だからな」
サラサがしおらしい態度で尋ねると、伯爵は勝ち誇ったような表情で言い切った。
「そうよ、サラサ。あなた自身のためにも、考え直してちょうだい」
あなた自身のため。伯爵夫人が口にした言葉に、サラサは声を上げて笑いそうになる。
昔から両親は、非保持者のサラサを『無能』呼ばわりして虐げてきた。祖父が何度たしなめても、態度を改めることはなかった。
そのせいで使用人たちも、サラサに冷たく接していた。
出来損ないはどんな扱いをしても構わない。この屋敷にいる誰もが、そんな歪んだ認識を持っているのだ。
「分かりました。それでは、どうぞご遠慮なく勘当なさってください」
というわけで、まずは彼らに身の程を知っていただくことにする。
2,931
お気に入りに追加
6,872
あなたにおすすめの小説
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
側妃のお仕事は終了です。
火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。
だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。
それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。
愛されなければお飾りなの?
まるまる⭐️
恋愛
リベリアはお飾り王太子妃だ。
夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。
そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。
ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?
今のところは…だけどね。
結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる