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4.実家

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 結局そのあとも「あのぅ、この指輪も……」「あっ、こっちのブレスレットも!」と散々ねだられたので、サラサはジュエリーボックスごと渡した。
 するとオフィーリアはとても嬉しそうな顔をして帰って行った。サラサを引き留めるという本来の目的など、完全に忘れている様子だった。

 邪魔者がいなくなったところで、サラサは荷物整理を再開した。
 大きなトランクケースに私物を詰め込んで、数年間暮らした部屋を去る。廊下を歩いている最中、文官や侍女たちと目が合ったが、すぐに逸らされた。

(私がこんな扱いを受けていても、ライオット様は何もしてくださらなかったわね)

 サラサは城内の人々からも、非保持者として冷遇されてきた。
 廊下ですれ違っても、無理されるのは当たり前。サラサに仕える侍女たちもろくに仕事をせず、家庭教師からは激しく叱責されていた。

 それでも頑張り続ければ、いつか彼らにも認めてもらえる。そう信じてずっと耐えてきたのだ。
 けれど、そんな窮屈な生活も今日でおしまい。サラサは鼻唄を歌いながら王城を後にした。



「殿下との婚約を解消するだと? お前は何を考えているのだっ!」

 突然実家に戻ってきた娘に、マリオン伯爵は怒り心頭だった。

「お前が殿下と婚約できたのは、父上が先王に掛け合ったおかげなのだぞ! そのことを忘れたのか!?」
「いいえ、覚えていますわ。お祖父様には感謝しております」

 顔を真っ赤にして詰め寄る父親に、サラサは笑顔で答えた。
 この男は気に入らないことがあると、すぐに子供のように癇癪を起こすのだ。この性格のせいで領民からは毛嫌いされていて、同じ貴族たちからも疎まれている。

「大体、側妃の何が不満だというのだ! 殿下の伴侶であることに変わりはないだろう!」
「そうよ、サラサ。早くお城に戻って殿下に謝りなさい。今ならまだ許してもらえるかもしれないわ!」

 伯爵夫人も泣きそうな顔で、サラサを説得しようとする。
 二人とも、王家との繋がりを失うことを何よりも恐れているのだ。

(私が側妃になる時点で、そんなの意味がなくなると思うけど)

 サラサが城内でどのような仕打ちを受けていたかは、両親も把握しているはずだ。
 使用人にまで軽視されている娘が側妃になっても、マリオン伯爵側に旨味などない。
 しかし、二人はそのことが理解出来ていない。王室の一員になってしまえば、こっちのものだと本気で思い込んでいる。

「非保持者のお前などに選択肢があると思うな! 大人しく王太子に従っていればいいのだ! それが出来ないというのなら……」
「私を勘当なさいますか?」
「当然だ。お前のような欠陥品など、我が家には不要だからな」

 サラサがしおらしい態度で尋ねると、伯爵は勝ち誇ったような表情で言い切った。

「そうよ、サラサ。あなた自身のためにも、考え直してちょうだい」

 あなた自身のため。伯爵夫人が口にした言葉に、サラサは声を上げて笑いそうになる。
 昔から両親は、非保持者のサラサを『無能』呼ばわりして虐げてきた。祖父が何度たしなめても、態度を改めることはなかった。
 そのせいで使用人たちも、サラサに冷たく接していた。

 出来損ないはどんな扱いをしても構わない。この屋敷にいる誰もが、そんな歪んだ認識を持っているのだ。

「分かりました。それでは、どうぞご遠慮なく勘当なさってください」

 というわけで、まずは彼らに身の程を知っていただくことにする。
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