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2.心機一転

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「…………は?」

 ライオットが信じられないといった表情で、サラサの顔をじっと見る。

「君は自分が何を言っているのか理解しているのか?」
「ええ。ライオット殿下の側妃になるのはお断りします、と申し上げたのです」

 笑顔のままはっきりと断言すると、ライオットは目を大きく見開いて絶句した。

(私がこんなふざけた提案に乗るだなんて、本気で思っていたのかしら)

 それだけサラサを軽んじていたということだ。盲目なまでにライオットに尽くしてきた自分が、馬鹿らしくなってくる。

「ああ……なるほど。正妃の立場をオフィーリアに奪われて拗ねているのか。君の気持ちも分からなくもないが、これはもう決定事項なんだ。父上や宰相たちも、その方向で動いている」
「どうぞ、ご自由になさってください。私もライオット様との婚約を解消させていただきますので」
「……私たちの結婚は王命によるものだ。君にそんな権限はない。逆らおうとすれば、不敬罪と見做されるぞ」

 ライオットが怒気を含んだ声で凄んでくるが、今のサラサには怖くもなんともない。
 それに彼は、とても大事なことを忘れているようだった。

「確かに私たちの婚約は、王命で決まったものです」
「だろう? いい加減わがままを言うのはやめ……っ」
「ですが、どちらかの不義が発覚した時は、婚約の解消を認めると婚約証明書に記載されています。もちろんライオット様も覚えていらっしゃいますよね?」
「……っ!」

 サラサの問いかけに、ライオットは表情を引き攣らせた。

「しかし私とオフィーリアはまだ清らかな関係だ。不義を働いたというわけでは……」

 必死に言い訳しようとしているが、ライオットの目はあからさまに泳いでいる。
 婚約者がいる身でありながら、他の女性を正妃にすると宣言したのだ。誰が見ても、不道徳な行為に違いない。それは一応、本人も自覚しているらしい。

「それでは、私はそろそろ失礼いたします。両親にも、この件を伝えなくてはなりませんので」
「ま、待て!」

 サラサが席を立とうとすると、ライオットが焦った様子で引き留めてきた。鋭い目つきで、こちらを睨み付けている。

「側妃の何が不満だというんだ? 私の妻に、王太子妃になれるのだぞ。光栄だと思わないのか……?」
「ええ、ちっともございません」

 強がりでもなく、紛れもない本心だ。
 サラサは今度こそ席を立つと、呆然としている婚約者にカーテシーをして退室した。

「サラサ、待て! 話はまだ終わっていないぞ!」

 部屋の中から怒鳴り声が聞こえてくるが、サラサは立ち止まることも振り返ることもしない。
 廊下を進む足取りは軽やかで、唇は緩やかに弧を描いていた。

(心機一転。これからは私自身のために、尽くしていきましょう)

 そして幸せになった自分を、ライオットに見せつけてやる。
 それがサラサの思い付いた、ささやかな復讐だった。
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