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本性
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「今さら俺に何の用だ?」
「そんな言い方をしなくてもいいじゃないか。僕たちは親友だろう?」
「お前から一方的に関係を絶ったんじゃないか……」
「い、忙しかったんだよ」
ダミアンが訪ねたのは、かつての親友だった。伯爵の嫡男である彼は家督を継ぐことが決まっており、近々婚約者との挙式が開かれる予定らしい。
「それで何の用だ? 言っておくが、例の法案のことで説得しに来たなら無駄だぞ。俺は賛成票を投じるつもりだからな」
「女が要職に就くことになるんだぞ」
婚約者への機嫌取りのつもりだろうか。困惑を露わにするダミアンだが、それは親友も同じことだった。
「お前……そんな理由で反対しているのか?」
「何が言いたいんだ」
「女の爵位継承が認められたからといって、女が優遇されるわけではない。男が家督を継ぐケースだって当然ある」
「それがあるべき形だからだろ?」
「その人間の能力次第ってことだよ。娘のほうが優秀なら、娘に家督を継がせる。それだけの話だ。……反対しているのはよほど頭が硬いか、女のせいで男たちの地位が下がると過剰に怯えている連中だろうな」
「~~~~っ!」
この男は自分の未来が確定しているから、他人事のように考えられるのだ。ダミアンは怒鳴りたくなるのを堪え、深呼吸をした。ここに来たのは、旧友と口論するためではない。
「そ、そんなことより……昔言っていたよな? ポーラとは縁を切ったほうがいいって」
ダミアンが話を切り出すと、親友の表情があからさまに険しくなった。
「ああ。だが、その忠告を無視して彼女と結婚したんだったな? おめでとう、花でも贈ってやるべきだったか?」
嫌みを言われる。ポーラと婚姻を結んで晴れて夫婦となった時、親友には何も知らせなかった。彼が侮辱した女性を幸せにしてみせると、意地を張っていたのだ。
「お前は……ポーラの悪評を散々聞いたと言っていたな? どんな内容だったのか、教えてくれ」
「ありきたりなものさ。あの女はとにかく男遊びが激しかったらしい。学園の生徒だけじゃなくて、その父親や教師。さらに街に出かけて庶民にまで手を出していたって話だ」
「そ、そんな……嘘だ。俺はそんな噂、聞いたことがなかった。それにあのポーラに限って、アリシアじゃあるまいし……」
「どうして、そこでアリシア夫人の名前が出てくるんだ。あの馬鹿げた噂話を信じているんじゃないだろうな? それとも、あれを流したのはお前か?」
「……違う。僕は何もしていない」
そう、ニコラとポーラが勝手にやったことだ。自分は関係ない。
「まあ、どちらでもいいさ。お前は聞いたことがないと言ったが、聞く気がなかっただけだ。学園を卒業してからも、遊び呆けていただろ?」
「遊んでばかりじゃない。それに、他の奴らだって……」
「お前とつるんでいたのは、跡継ぎ候補から外れている次男や三男坊ばかりだ。まともな奴は、その頃から家を継ぐための準備をしていたよ」
「当主になったら、当分は自由に遊べないと思ったんだ。僕はまだ若いんだぞ」
「……アリシア夫人が聞いたらどう思うだろうな。まあいいか。今でもポーラ夫人を『あどけない美少女』だと思っているなら、彼女の跡をつけてみるんだな」
それと、と親友は言葉を付け加えた。
「悪いんだが、俺にはもう二度と会いに来ないでくれ」
「昔のことをまだ根に持っているのか? 心の狭い奴だな……」
「違うよ。母や婚約者がお前を毛嫌いしている。女の敵だってな」
「…………」
後日、茶会に行くと言って外出したポーラをこっそり尾行してみた。
妻を乗せた馬車が市街地の外れにある娼館に停まった瞬間、ダミアンは声にならない悲鳴を上げた。
「そんな言い方をしなくてもいいじゃないか。僕たちは親友だろう?」
「お前から一方的に関係を絶ったんじゃないか……」
「い、忙しかったんだよ」
ダミアンが訪ねたのは、かつての親友だった。伯爵の嫡男である彼は家督を継ぐことが決まっており、近々婚約者との挙式が開かれる予定らしい。
「それで何の用だ? 言っておくが、例の法案のことで説得しに来たなら無駄だぞ。俺は賛成票を投じるつもりだからな」
「女が要職に就くことになるんだぞ」
婚約者への機嫌取りのつもりだろうか。困惑を露わにするダミアンだが、それは親友も同じことだった。
「お前……そんな理由で反対しているのか?」
「何が言いたいんだ」
「女の爵位継承が認められたからといって、女が優遇されるわけではない。男が家督を継ぐケースだって当然ある」
「それがあるべき形だからだろ?」
「その人間の能力次第ってことだよ。娘のほうが優秀なら、娘に家督を継がせる。それだけの話だ。……反対しているのはよほど頭が硬いか、女のせいで男たちの地位が下がると過剰に怯えている連中だろうな」
「~~~~っ!」
この男は自分の未来が確定しているから、他人事のように考えられるのだ。ダミアンは怒鳴りたくなるのを堪え、深呼吸をした。ここに来たのは、旧友と口論するためではない。
「そ、そんなことより……昔言っていたよな? ポーラとは縁を切ったほうがいいって」
ダミアンが話を切り出すと、親友の表情があからさまに険しくなった。
「ああ。だが、その忠告を無視して彼女と結婚したんだったな? おめでとう、花でも贈ってやるべきだったか?」
嫌みを言われる。ポーラと婚姻を結んで晴れて夫婦となった時、親友には何も知らせなかった。彼が侮辱した女性を幸せにしてみせると、意地を張っていたのだ。
「お前は……ポーラの悪評を散々聞いたと言っていたな? どんな内容だったのか、教えてくれ」
「ありきたりなものさ。あの女はとにかく男遊びが激しかったらしい。学園の生徒だけじゃなくて、その父親や教師。さらに街に出かけて庶民にまで手を出していたって話だ」
「そ、そんな……嘘だ。俺はそんな噂、聞いたことがなかった。それにあのポーラに限って、アリシアじゃあるまいし……」
「どうして、そこでアリシア夫人の名前が出てくるんだ。あの馬鹿げた噂話を信じているんじゃないだろうな? それとも、あれを流したのはお前か?」
「……違う。僕は何もしていない」
そう、ニコラとポーラが勝手にやったことだ。自分は関係ない。
「まあ、どちらでもいいさ。お前は聞いたことがないと言ったが、聞く気がなかっただけだ。学園を卒業してからも、遊び呆けていただろ?」
「遊んでばかりじゃない。それに、他の奴らだって……」
「お前とつるんでいたのは、跡継ぎ候補から外れている次男や三男坊ばかりだ。まともな奴は、その頃から家を継ぐための準備をしていたよ」
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「……アリシア夫人が聞いたらどう思うだろうな。まあいいか。今でもポーラ夫人を『あどけない美少女』だと思っているなら、彼女の跡をつけてみるんだな」
それと、と親友は言葉を付け加えた。
「悪いんだが、俺にはもう二度と会いに来ないでくれ」
「昔のことをまだ根に持っているのか? 心の狭い奴だな……」
「違うよ。母や婚約者がお前を毛嫌いしている。女の敵だってな」
「…………」
後日、茶会に行くと言って外出したポーラをこっそり尾行してみた。
妻を乗せた馬車が市街地の外れにある娼館に停まった瞬間、ダミアンは声にならない悲鳴を上げた。
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