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友人

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 帰宅したダミアンは、すぐにポーラを問いただした。

「ポーラ! 友人を使ってアリシアの噂を流したのか!?」
「ええ! だって誰が公爵様になるのかは、アリシア様次第なんでしょ? だったら、もっとアリシア様の評判を悪くすれば公爵様になれないと思いましたの!」
「…………」
「ふふっ。いい作戦ですわよね?」

 どうやら、先日の茶会で侯爵夫人に言われたことを覚えていたらしい。
 ダミアンはあの言葉を「公爵になるもならないも、アリシアの自由」と解釈していた。だが、こうもはっきり言い切られてしまうと、自分の考えが間違っていたのか? と疑いを持ってしまう。
 それにポーラに悪気はない。ただ、ダミアンの助けになりたいと思い、行動に移したのだろう。ニコラはポーラに対して立腹している様子だったが、愛する妻を責めることなどダミアンには出来ない。

 だが、彼女のせいで計画が狂ってしまったのは確かだ。

「ありがとう、ポーラ。後のことは僕に任せて、君は茶会を楽しむといい」

 余計なことをしないでくれ。本音をオブラートに包んで、ダミアンは妻を労った。

「ほんとに? それじゃあ、お言葉に甘えますわね! ダミアン様愛してますわ!」
「僕もだよ」

 無邪気に微笑むポーラは世界で一番愛らしい。妻に釣られるように笑みを浮かべるダミアンだが、一つだけ懸念があった。
 ニコラとの会話が脳裏に蘇る。

『こちらが噂を流した者たちです』

 ニコラが一枚の文書をダミアンに手渡す。そこには十を超える名前が書き連ねられていた。
 その半数は、ダミアンの知己でもあった。屋敷に招いて酒を飲み交わした友人もいる。
 しかし腑に落ちない点がある。

『これで全員なのか?』
『私が調べた限りでは』
『……男しかいないじゃないか』

 てっきり令嬢たちに頼んだとばかり思っていた。ところがリストに書かれているのは子爵家の息子、商人の息子、銀行員の息子……いずれも若い男だ。
 低位貴族の子息はまだ分かる。夜会や式典など、知り合う機会はいくらでもある。
 だが庶民の男たちとは、いつどこで知り合ったのだろう。

『ん? 花売りまでいるのか? 確かにポーラは花を飾るのが好きだが……』
『……花売りが何を意味するのか、ご存知ではないのですね』
『意味? 普通に生花を売っているんじゃないのか?』
『でしたら、花屋と書きます。花売りとは男娼の隠喩です』
『だん、しょう?』

 直後、ダミアンは顔を赤く染めて激昂した。

『き、貴様っ! 妻を侮辱しているのか!?』
『しておりませんし、これは事実です!』

 負けじとニコラが声を荒らげ、その迫力にダミアンは思わず押し黙った。

『よいですか、ダミアン様。ポーラ様の身辺を洗ってみるのをお勧めいたします』
『ふざけるなぁっ! 僕は……僕は妻を信じる!』

 荒々しく啖呵を切ってニコラの屋敷を飛び出してきたダミアンだが、その胸の内には不安が渦巻いていた。

(ポーラを信じていないわけではない。だが……だが、念のためだ)

 自分にそう言い聞かせ、ダミアンはポーラの身の回りを調べることにした。
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