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返り討ち
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「お、お守り? ですがアリシアがとんでもない男狂いなのは、本当のことで……」
自分が非難されるとは夢にも思わなかった。ダミアンは狼狽えながらも、どうにか弁解しようとする。
だか、別の夫人が追撃をかけてきた。
「男狂い? その証拠はありますの? あなたは実際に、その現場をご覧になりましたか?」
「いえ。信頼出来る者から聞いただけですので……」
「それだけで、奥様の不貞を信じていますの?」
「噂もよく耳にしますし……」
「あなたは奥様ではなく、くだらない噂話を信用なさるのね。アリシア様が可哀想だわ」
ついには何も言い返せなくなり、ダミアンは俯いた。
(こんな恥をかかせやがって……僕は公爵子息だぞ!?)
やはり女は女の味方ということだろう。裏切られたような気分だ。
(お前たちの妻が、無礼を働いているんだぞ! 何故止めようとしないんだ!)
夫である領主の面々は一箇所に集まり、談笑を交わしていた。窮地に陥っているダミアンには、目もくれようとしない。
「ど、どうしてアリシアをそこまで贔屓なさるのですか! たかが男爵家の娘……少し賢い程度の女です!」
「そうですわ! なのに皆様、アリシア様アリシア様って……酷すぎますわ!」
ポーラが両手で顔を覆って、わっと泣き出す。迫真の演技だなとダミアンは思ったが、ポーラは本当に泣いていた。
しかしその隣りにいた夫人は、顔色一つ変えずに言う。
「だって仕方がないでしょう?」
「何がですの!?」
「あなた方、本日はアリシア様の醜聞を広めるためにいらしたのでしょう?」
「えっ……」
図星を突かれ、ポーラの涙が止まった。
「そんな方々と親しくしろと仰られても困りますわ。それに、お二人のせいで自由にお話をすることも出来ませんし」
「ど、どういうことですか?」
何が言いたいのか分からない。ダミアンの声は動揺で震えていた。
「あなた方のことです。こちらで見聞きしたことを、考えもなしに流布なさる可能性もありますもの。経営や政治に関する発言を控えておりました」
確かに思い返してみれば、夫人たちは終始当たり障りのない世間話に興じていた。本来の目的とは別に情報収集に勤しむつもりだったダミアンにとっては、面白くない状況だった。
だが、彼女たちが意図的に喋らなかっただけとは……
そして、目的もとっくに見抜かれていた。それでも、ここで素直に認めるわけにはいかない。
「僕たちをここまで侮辱するとは……僕が公爵の座に就いた時のことをお考えではないのですか?」
「もちろん、考えてはいますわよ」
答えたのは侯爵夫人だった。苦し紛れの悪態に意外な答えが返ってきて、ダミアンは「え?」と目を丸くする。
「どなたが爵位を継がれるかは、アリシア様次第ですもの」
「…………?」
発言の意図が分からないまま、ダミアンはポーラを連れて逃げるように別荘を後にした。
(くそっ、最悪だ。……だが奴らが何を言おうと、法案は通らない)
そんなことより、気になることがもう一つある。
帰り際、ある夫人から告げられたのだ。
『そういえば、例の噂ですが……一部は当たっていますわよ』
『どういうことですか?』
『さあ。それはご自分でお考えください』
ひょっとしたら、あながち作り話でもないのだろうか。
(やはりアリシアは父上と……)
自分の妻が父と関係を持っていた。
想像するだけでゾッとする。
自分が非難されるとは夢にも思わなかった。ダミアンは狼狽えながらも、どうにか弁解しようとする。
だか、別の夫人が追撃をかけてきた。
「男狂い? その証拠はありますの? あなたは実際に、その現場をご覧になりましたか?」
「いえ。信頼出来る者から聞いただけですので……」
「それだけで、奥様の不貞を信じていますの?」
「噂もよく耳にしますし……」
「あなたは奥様ではなく、くだらない噂話を信用なさるのね。アリシア様が可哀想だわ」
ついには何も言い返せなくなり、ダミアンは俯いた。
(こんな恥をかかせやがって……僕は公爵子息だぞ!?)
やはり女は女の味方ということだろう。裏切られたような気分だ。
(お前たちの妻が、無礼を働いているんだぞ! 何故止めようとしないんだ!)
夫である領主の面々は一箇所に集まり、談笑を交わしていた。窮地に陥っているダミアンには、目もくれようとしない。
「ど、どうしてアリシアをそこまで贔屓なさるのですか! たかが男爵家の娘……少し賢い程度の女です!」
「そうですわ! なのに皆様、アリシア様アリシア様って……酷すぎますわ!」
ポーラが両手で顔を覆って、わっと泣き出す。迫真の演技だなとダミアンは思ったが、ポーラは本当に泣いていた。
しかしその隣りにいた夫人は、顔色一つ変えずに言う。
「だって仕方がないでしょう?」
「何がですの!?」
「あなた方、本日はアリシア様の醜聞を広めるためにいらしたのでしょう?」
「えっ……」
図星を突かれ、ポーラの涙が止まった。
「そんな方々と親しくしろと仰られても困りますわ。それに、お二人のせいで自由にお話をすることも出来ませんし」
「ど、どういうことですか?」
何が言いたいのか分からない。ダミアンの声は動揺で震えていた。
「あなた方のことです。こちらで見聞きしたことを、考えもなしに流布なさる可能性もありますもの。経営や政治に関する発言を控えておりました」
確かに思い返してみれば、夫人たちは終始当たり障りのない世間話に興じていた。本来の目的とは別に情報収集に勤しむつもりだったダミアンにとっては、面白くない状況だった。
だが、彼女たちが意図的に喋らなかっただけとは……
そして、目的もとっくに見抜かれていた。それでも、ここで素直に認めるわけにはいかない。
「僕たちをここまで侮辱するとは……僕が公爵の座に就いた時のことをお考えではないのですか?」
「もちろん、考えてはいますわよ」
答えたのは侯爵夫人だった。苦し紛れの悪態に意外な答えが返ってきて、ダミアンは「え?」と目を丸くする。
「どなたが爵位を継がれるかは、アリシア様次第ですもの」
「…………?」
発言の意図が分からないまま、ダミアンはポーラを連れて逃げるように別荘を後にした。
(くそっ、最悪だ。……だが奴らが何を言おうと、法案は通らない)
そんなことより、気になることがもう一つある。
帰り際、ある夫人から告げられたのだ。
『そういえば、例の噂ですが……一部は当たっていますわよ』
『どういうことですか?』
『さあ。それはご自分でお考えください』
ひょっとしたら、あながち作り話でもないのだろうか。
(やはりアリシアは父上と……)
自分の妻が父と関係を持っていた。
想像するだけでゾッとする。
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