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支持者

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 あの荒唐無稽な遺言書が開示されてから数日。ラクール公爵家は大いに荒れていた。
 というのも、毎日のように親族たちから抗議の手紙が送られてくるのである。抗議とは、もちろん後継者にアリシアが選ばれたことに対してだ。
 アリシアを排除して、自分が当主の座に就こうとしているのだろう。なんて烏滸がましい連中だと憤っていたダミアンだが、手紙の内容を知ると心境を一転させた。

 彼らの中には、後継者にダミアンを推薦する者たちも少なからずいた。

『爵位の継承は原則として、その家の嫡男と決められている』
『病気で耄碌もうろくしているところを、アリシア夫人につけ込まれたのではないか』
『先代が息子の嫁にたぶらかされたと知れ渡れば、一族の恥となります。遺言書の内容を無効にするべきだ』
『公爵家を継ぐに相応しいのは、ダミアンご子息のみでございます。再考なさることをおすすめします』

 あの遺言書に異を唱えているのは、自分だけではない。しかも真の後継者は、ダミアンであると主張しているではないか!

(分かる人間には分かるというわけだ。アリシア、お前の好きなようにはさせないぞ)

 自分が正しいと確信したダミアンは、それらの手紙を抱えて側室に直談判することを決めた。オデットは完全にあの女の味方だ、アテにならない。

 ところが、屋敷のどこにもアリシアがいない。居留守を使っているのだと思い、私室や執務室に入ろうとしたが施錠されている。
 スペアキーを渡すように執事に命じたが、首を横に振られた。

「申し訳ありませんが、ダミアン様を部屋に入れてはならないと、アリシア様から言いつかっております」
「僕よりあの女の言うことを優先するというのか」
「無礼は承知しております。ああ……ちなみにアリシア様は登城されました」
「登城?」
「はい。両陛下及び王太子殿下に謁見なさるとのことです」
「僕は何も聞いていない!」

 どうしてそんな大事なことを言わないのか。苛立ちで声を荒らげるダミアンだったが、執事は動じない。表情一つ変えずに、指摘する。

「以前、アリシア様に『行き先をいちいち僕に言うな』と仰ったことをお忘れですか?」
「い……いつの話だと思っているんだ」

 発言した覚えはある。アリシアと結婚して間もない頃だったろうか。
 こちらの気を引こうとしているように感じられて、鬱陶しかったのだ。

「それに婦人会や茶会に出席するのとは、わけが違う。王族との謁見だぞ? 僕にも報告する義務があるんじゃないのか?」
「何故でございますか?」

 何を分かり切ったことを。ダミアンは呆れたような口調で切り返した。

「僕はアリシアの夫だぞ。妻が粗相をしないように、見守らなければならない」
「左様ですか」

 執事がアルカイックスマイルで相槌を打つ。真剣に捉えていないのだろう。ダミアンは「もういい!」と踵を返し、部屋に戻る。
 ポーラは茶会に出席しており、話し相手になってくれる者は誰もいない。

(そうだ、手紙を書こう)

 アリシアが当主になることを反対している親族たち。彼らと協力して母の考えを改めさせ、アリシアをこの屋敷から追い出す。
 我ながら妙案だと、ダミアンは自画自賛した。


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