私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀

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君を守るために

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「どうしましたの、ダミアン様?」
「い、いや、何でもないよ」
「あ、もしかして私を焦らそうとしてますのね」
「焦らす?」

 言葉の意味が分からず、ダミアンは怪訝な顔をする。

「やっぱり次期当主になるのは、ダミアン様で決まりですのよね?」
「…………」
「ふふっ。とりあえず記念に新しいドレスと装飾品を買ってくださらない? 実は王都の宝石店で、新作のネックレスを予約してましたの」
「よ、予約?」
「だって早くキープしておかないと、他の方に取られてしまいますもの。普段は緑色だけど、蝋燭ろうそくやランプの光を当てると、赤い色に変わる珍しい宝石が使われていますのよ」

 ダミアンが跡目を継ぐと信じて疑わず、ポーラは嬉々として語る。
 いつまでも隠し通せるわけではないだろう。ダミアンは逡巡した後、正直に白状することにした。

「……僕は当主じゃない」
「え?」

 ポーラの顔から笑みが消える。

「父上が次期当主に指名したのは……アリシアだ」
「アリシア様が!? な、何で!? どうしてあの女が!?」
「僕にもよく分からない……」
「分からないって……あ、そうですわ。きっとお義父様はお年を召されて、少しボケていましたのね! だから、そんなおかしな遺言書をお書きになったのかもしれませんわ」

 ダミアンもその可能性を考えていた。しかし……

「母上もアリシアが当主になることを賛成している」
「そ、そんな……」

 ポーラは愕然とした表情で、床に座り込んだ。そして顔をくしゃりと歪めて子供のように泣き叫び始めた。

「今よりもっと贅沢が出来ると思ったのにっ! 毎日ドレスを買ってもらえると思ってたのにっ!」
「ポーラ……」
「私、ダミアン様が当主になってくださらないなら、死にますわ!」
「そ……そんなことを言わないでくれ! 君を失ったら僕は……」

 何とか宥めようとするが、ポーラは聞く耳を持たない。すっくと立ち上がり、真っ赤な顔で地団駄を踏む。

「だって、アリシアが当主になったら、私はどうなってしまいますの!? あの女……正妻の私をこの屋敷から追い出すかもしれませんのよ!」
「……っ!」

 ポーラにそう言われて初めて気付いた。アリシアなら、今までの恨みを返すためにやりかねない。

「ダミアン様、お願い! 私を守って!」
「ああ……もちろんだ、ポーラ」

 たかがアリシアの好きにはさせない。ダミアンは拳を握り締め、決意を新たにした。
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