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「何だこの点数は!? 私を愚弄しているのか!?」
職員室内に王太子の怒号が響き渡る。
他の教師や生徒がこちらに注目していることなど構わず、リュカは渾身の力で込めて案用紙を教師の机に叩きつけた。
白い紙がくしゃくしゃの皺だらけになっているのは、衝動的に握り潰してしまったせいだ。
こんなことは有り得ない。
試験前の小テストであったとしても、この点数は決して許されない。
何せリュカは常に満点、或いはそれに近い結果を出してきたのだ。
「言え! 誰の差し金でテストの点数を改竄した!?」
「い、いえ、そのようなことはしておりません!」
「だったらこれは何だ! 二割も不正解などと……しかも翻訳の問題は全て外れとは納得がいかない! 訳し方は間違っていないはずだぞ!」
「確かに間違ってはいませんが……」
答案用紙の作成、採点を行った教師は逡巡の後に、小声で釈明を始めた。
「翻訳で一番重要なのは、第三者にしっかりと意味が伝わるかどうかです。その観点から見ると、王太子殿下の回答というのは……」
「はっきり言ってみろ!」
「では失礼ながら……殿下の翻訳文では違う意味に捉えられてしまう可能性が高いのです。……これでは正解にするわけにはいきません!」
二人の口論を聞いていた数人の教師が、答案用紙を覗き込む。
そして教師に味方するように、全員硬い口調で首を縦に振った。
(この連中……結託して俺を陥れるつもりか)
自分たちよりも若い身であり、王太子であるリュカに妬んでこんなくだらない真似をしているのだ。
それに彼らの中には、ブリュエットの講習を毎回受講している教師もいる。
エーヴの評判がよくなってきたとはいえ、いまだブリュエットを側妃に追いやったリュカをよく思わない人物は少なくない。
(だが、これ以上ここで騒いでも、埒が明かない)
正式に抗議文をしたためて学園長に送りつける。
それが得策だろうと、リュカは職員室を後にした。
「あらぁ~、いかがされましたリュカ様? 随分とご機嫌斜めのようですけれど」
リュカをずっと待っていたのだろう。
厚化粧の女生徒が、職員室から出てきたリュカの腕に自身の細腕を絡みつける。
ブリュエットより、エーヴよりも豊満な胸部を押しつけられ、その柔らかさにリュカは怒りを解いた。
「気にするな。ただ教師たちの陰湿さに腹を立てていただけだ」
「先生たちに何されちゃったんですか~? リュカ様が辛い目に遭うと、私も辛いですぅ」
この女は子爵家の娘だ。
胸に全て栄養を持っていかれたのか、顔も頭も大したことがない。
以前のリュカであれば、こんな小蝿などすぐに追い払っていただろう。
だが今のリュカにまともに話しかけてくるのは、この女くらいだった。
無視をされているわけではない。
リュカが声をかければ笑顔で返事をするのだが、どうも事務的な匂いを感じるのだ。
「ねぇリュカ様ぁ、授業サボって街に出かけましょうよ」
「そうだな。クズどもと同じ空気など吸いたくない」
「ですよぉ。リュカ様を馬鹿にする奴らはみ~んなクズですっ」
女と笑い合って、廊下を歩く。
その後ろ姿をエーヴが目撃していたことなど、気づきもせず。
職員室内に王太子の怒号が響き渡る。
他の教師や生徒がこちらに注目していることなど構わず、リュカは渾身の力で込めて案用紙を教師の机に叩きつけた。
白い紙がくしゃくしゃの皺だらけになっているのは、衝動的に握り潰してしまったせいだ。
こんなことは有り得ない。
試験前の小テストであったとしても、この点数は決して許されない。
何せリュカは常に満点、或いはそれに近い結果を出してきたのだ。
「言え! 誰の差し金でテストの点数を改竄した!?」
「い、いえ、そのようなことはしておりません!」
「だったらこれは何だ! 二割も不正解などと……しかも翻訳の問題は全て外れとは納得がいかない! 訳し方は間違っていないはずだぞ!」
「確かに間違ってはいませんが……」
答案用紙の作成、採点を行った教師は逡巡の後に、小声で釈明を始めた。
「翻訳で一番重要なのは、第三者にしっかりと意味が伝わるかどうかです。その観点から見ると、王太子殿下の回答というのは……」
「はっきり言ってみろ!」
「では失礼ながら……殿下の翻訳文では違う意味に捉えられてしまう可能性が高いのです。……これでは正解にするわけにはいきません!」
二人の口論を聞いていた数人の教師が、答案用紙を覗き込む。
そして教師に味方するように、全員硬い口調で首を縦に振った。
(この連中……結託して俺を陥れるつもりか)
自分たちよりも若い身であり、王太子であるリュカに妬んでこんなくだらない真似をしているのだ。
それに彼らの中には、ブリュエットの講習を毎回受講している教師もいる。
エーヴの評判がよくなってきたとはいえ、いまだブリュエットを側妃に追いやったリュカをよく思わない人物は少なくない。
(だが、これ以上ここで騒いでも、埒が明かない)
正式に抗議文をしたためて学園長に送りつける。
それが得策だろうと、リュカは職員室を後にした。
「あらぁ~、いかがされましたリュカ様? 随分とご機嫌斜めのようですけれど」
リュカをずっと待っていたのだろう。
厚化粧の女生徒が、職員室から出てきたリュカの腕に自身の細腕を絡みつける。
ブリュエットより、エーヴよりも豊満な胸部を押しつけられ、その柔らかさにリュカは怒りを解いた。
「気にするな。ただ教師たちの陰湿さに腹を立てていただけだ」
「先生たちに何されちゃったんですか~? リュカ様が辛い目に遭うと、私も辛いですぅ」
この女は子爵家の娘だ。
胸に全て栄養を持っていかれたのか、顔も頭も大したことがない。
以前のリュカであれば、こんな小蝿などすぐに追い払っていただろう。
だが今のリュカにまともに話しかけてくるのは、この女くらいだった。
無視をされているわけではない。
リュカが声をかければ笑顔で返事をするのだが、どうも事務的な匂いを感じるのだ。
「ねぇリュカ様ぁ、授業サボって街に出かけましょうよ」
「そうだな。クズどもと同じ空気など吸いたくない」
「ですよぉ。リュカ様を馬鹿にする奴らはみ~んなクズですっ」
女と笑い合って、廊下を歩く。
その後ろ姿をエーヴが目撃していたことなど、気づきもせず。
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