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「お話を詳しくお聞かせ願えないでしょうか……?」
「詳しく? お前とエーヴの違いを話せ、ということか?」
「ええ、まあ……そういうことになります」
脱力感に襲われながらも頷くと、リュカはふんと鼻を鳴らして、エーヴとの出会いを話し始めた。
エーヴとは半年前に行われた舞踏会で初めて対面して、そこで彼女に心を奪われてしまったとのこと。
それからは頻繁にロレント邸を訪問して、エーヴと会っていたらしい。
時折何も言わず、ふらっと城から抜け出していたのはそのせいだったようだ。ブリュエットがここ最近抱いていた謎が解けた瞬間である。
「エーヴはとても可愛らしく、愛想もいい。国民も明るい性格で、常に可憐な笑顔を見せている妃の方がいいに決まっているではないか」
「や、やめてください、リュカ様! そんなに褒められちゃうと恥ずかしくなってしまいます……!」
赤らめた頬を両手で隠そうとする姿を見て、庇護欲を掻き立てられない男はいないだろう。
その例に漏れず、リュカもだらしのない笑みを一瞬浮かべた後に、エーヴの細い腰を自分へと抱き寄せた。
「お前は本当に素直で可愛いよ、エーヴ。それに比べて、どこかの正妃気取りな女ときたら……」
「それは私のことでしょうか?」
怒りも悲しみもない。平坦な声で尋ねると、リュカは「そういうところだぞ」と言いたげにブリュエットを睨みつけた。
「お前はいつもいつも口うるさいだろう。私のやることなすこと全てに口を出す。そこが王宮であっても、貴族学園内であってもだ。これでは私がお前なしでは、何もできない無能に思われてしまうと分からないのか? ああ、分からないだろうな。こうして抗議するたびに、お前は『殿下のためです』とふざけたことを言っていた」
「私は本当のことを申し上げていただけです。あくまで殿下の将来を思って……」
「やかましい。私を支配下に置き、いずれ王妃になった時に、国を好き勝手動かす企みがバレていないとでも思ったか」
被害妄想もいいところだ。
ブリュエットは嘆息する。これでも婚約当初は良好な関係を築けていたのだ。なのに、ある時を境にブリュエットに強く当たるようになった。
その原因は何となく見当がついており、それに関しては自分にも多少非があると思っている。
だがまさか、こんな形で報復されるとは。
「えっ、ブリュエット様ってそんな人だったんですかぁ? そんな人、側妃にもしちゃいけませんよ!」
「そう言うな、エーヴ。この女は有力な公爵家の娘なんだ。王宮から追い出すと後々面倒になる」
「ふーん……」
ブリュエットは真顔で二人の会話を聞いていた。が、大きく溜め息をつくと表情を変えることなく、冷ややかな声で告げた。
「どうぞ、お好きになさってください」
「……何だと?」
リュカが訝しげな表情を見せるが、ブリュエットはそのまま続けた。
「エーヴ様を正妃になさってください。私は側妃でも構いません」
「ふんっ、自分が男爵家の娘に劣ると宣言しているようなものだな。それを理解しての言葉か?」
「勿論」
リュカが僅かに目を泳がせたのが分かったが、ブリュエットの考えが変わることはなかった。
「その代わり、私も好き勝手にやらせていただきますので」
「詳しく? お前とエーヴの違いを話せ、ということか?」
「ええ、まあ……そういうことになります」
脱力感に襲われながらも頷くと、リュカはふんと鼻を鳴らして、エーヴとの出会いを話し始めた。
エーヴとは半年前に行われた舞踏会で初めて対面して、そこで彼女に心を奪われてしまったとのこと。
それからは頻繁にロレント邸を訪問して、エーヴと会っていたらしい。
時折何も言わず、ふらっと城から抜け出していたのはそのせいだったようだ。ブリュエットがここ最近抱いていた謎が解けた瞬間である。
「エーヴはとても可愛らしく、愛想もいい。国民も明るい性格で、常に可憐な笑顔を見せている妃の方がいいに決まっているではないか」
「や、やめてください、リュカ様! そんなに褒められちゃうと恥ずかしくなってしまいます……!」
赤らめた頬を両手で隠そうとする姿を見て、庇護欲を掻き立てられない男はいないだろう。
その例に漏れず、リュカもだらしのない笑みを一瞬浮かべた後に、エーヴの細い腰を自分へと抱き寄せた。
「お前は本当に素直で可愛いよ、エーヴ。それに比べて、どこかの正妃気取りな女ときたら……」
「それは私のことでしょうか?」
怒りも悲しみもない。平坦な声で尋ねると、リュカは「そういうところだぞ」と言いたげにブリュエットを睨みつけた。
「お前はいつもいつも口うるさいだろう。私のやることなすこと全てに口を出す。そこが王宮であっても、貴族学園内であってもだ。これでは私がお前なしでは、何もできない無能に思われてしまうと分からないのか? ああ、分からないだろうな。こうして抗議するたびに、お前は『殿下のためです』とふざけたことを言っていた」
「私は本当のことを申し上げていただけです。あくまで殿下の将来を思って……」
「やかましい。私を支配下に置き、いずれ王妃になった時に、国を好き勝手動かす企みがバレていないとでも思ったか」
被害妄想もいいところだ。
ブリュエットは嘆息する。これでも婚約当初は良好な関係を築けていたのだ。なのに、ある時を境にブリュエットに強く当たるようになった。
その原因は何となく見当がついており、それに関しては自分にも多少非があると思っている。
だがまさか、こんな形で報復されるとは。
「えっ、ブリュエット様ってそんな人だったんですかぁ? そんな人、側妃にもしちゃいけませんよ!」
「そう言うな、エーヴ。この女は有力な公爵家の娘なんだ。王宮から追い出すと後々面倒になる」
「ふーん……」
ブリュエットは真顔で二人の会話を聞いていた。が、大きく溜め息をつくと表情を変えることなく、冷ややかな声で告げた。
「どうぞ、お好きになさってください」
「……何だと?」
リュカが訝しげな表情を見せるが、ブリュエットはそのまま続けた。
「エーヴ様を正妃になさってください。私は側妃でも構いません」
「ふんっ、自分が男爵家の娘に劣ると宣言しているようなものだな。それを理解しての言葉か?」
「勿論」
リュカが僅かに目を泳がせたのが分かったが、ブリュエットの考えが変わることはなかった。
「その代わり、私も好き勝手にやらせていただきますので」
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