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終.おわり2(ライネック視点)
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近頃、父上は若い女を部屋に連れ込んでいるらしい。
夜中になると、父上の私室から女の喘ぎ声が聞こえてくる。
父上は母上を本命にしつつ、それだけで飽きてしまうからと愛人も数人持っている。
ちなみに母上にそんな者はおらず、父上だけ。愛人を持つのは貴族の男に生まれた特権のようなものだ。
女の嬌声を聞いていると俺も肉欲が湧き上がるが、それを発散させる術はない。メイドに相手をさせようと思ったが、うちにいるのは母上と、母上に近い年頃の女だけだ。
若いメイドは皆、父上に触られたと文句を言って辞めている。別に孕まされたわけでもないのに、忍耐力のない連中だった。
それに比べてカスタネアは……。会えない時間が続けば続くほどカスタネアへの想いも膨らんでいく。
溜め息をつき、途中まで読んでいた新聞に視線を向けた。
現在、リスター国ではとんでもないことが起こっている。リリィ王女が国賊として指名手配されているのだ。
俺に婚約破棄されてからすぐに、とある貴族と恋仲になったらしい。これがまたタチの悪い男だったようで、リリィ王女はそいつに完全に骨抜きにされた後、国家機密の情報を持ち出すように命じられた。
半ば洗脳を受けていた状態となったリリィ王女はそれに従い、国の重要な情報を弱小貴族に提供してしまった。
国王陛下は怒り狂った。今までリリィ王女の男漁りには苦労させられていたようだが、今回の件で親としての情を完全に失った。
リリィ王女は王族から追放され、貴族になることすら許されず平民となった。
そして裁判にかけられていたが、刑が確定する間際に逃亡したのだ。
自業自得とはこういうことを言うのだろう。俺は鼻を鳴らし、カスタネアとの甘い思い出に浸ろうとして──。
「あの女を匿う愚か者どもめ! 貴様らも同罪だ!!」
廊下から怒号と無数の足音が聞こえた。
俺が混乱しているとドアが蹴破られ、大勢の兵士が室内に雪崩れ込んでくる。
「なっ、何だ貴様らは!? ここが誰の屋敷か分かっているのか!」
「ああ、理解している。ルビス侯爵の屋敷だな」
先頭の兵士は平然とした表情で答えた。
全く理解していないではないか。それに反逆者を匿う? 何を言っているのやら。
呆れる俺だったが、廊下から聞こえる女が抵抗するような声に息を呑む。
あれは父上の愛人の声だ。いいや、それだけではない。あの声は……。
俺は慌てて部屋を飛び出した。
「やめっ、やめなさい! こんなことをして、父上が黙っていませんよ!」
そこには下着姿で兵士に押さえ付けられているリリィの姿があった。その奥には青ざめた顔の父上もいる。
父上の愛人はリリィだったのか? いや、ただの愛人などではなくて……。
「まさか元王女を性奴隷にするのと引き換えに、匿っていたのがルビス家だったとは……まあ、納得だな」
兵士の一人が発した言葉に、俺は無意識に首を横に振った。違う、俺は知らない。何も何も……!
そう否定しようとした時、大きなどよめきが起こった。
床に蹲る父上に母上が寄り添っている。
キッチンから持ち出したナイフで母上が父上の腹を刺したらしい。
苦悶の表情を浮かべる父上の口から赤黒い血が流れ出す。
「ぐはっ、ぁ……おま、ど、して……!?」
「わ、私は言ったわ。あの女がうちに助けを求めてきた時、すぐに城に突き出してしまえばいいって。だけど、それをあなたが……!」
「ふ、ふざけるな……こんなことをして、どうなるか……」
「うるさいクソ男! 私を散々この家に縛り付けたくせに、自分は浮気するなんて!! 私の人生を返しなさいよ!!」
兵士が止める間もなく、母上は再び父上の腹を刺した。刃が肉に沈む音が父上の断末魔で掻き消される。
床に広がる赤い水溜まり。あれではもう父上は助からない。
呆然とする俺に、母上が振り向いて言う。
「ねえ、ライネックくん。早くカスタネアを連れてきてちょうだい!」
「は、母上、何を言って……」
「カスタネアを虐めてストレス発散したいのよ! あの子で遊ぶの大好きなのよ……うふふ……」
「は……」
「ふふ……あははは…………!」
父上は動かなくなり、母上は壊れた。
不気味な笑い声が響き渡る中、俺は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
父上が独断でリリィを匿った罪を背負わなければならない。
リスター国では犯罪者が裁判前に死亡した場合、他の家族が代わりに償うという法律がある。母上はこの通りなので、その役割は必然的に俺となる。
「い、嫌だ……俺は……俺は……っ」
間違いなく爵位は剥奪。俺は平民に落とされる。
国家を脅かす行動をしたリリィは重罪となる。この国には死刑制度はないものの、終身刑を言い渡される可能性が高い。そしてそれを匿った父上……の代理で裁かれる俺も恐らくは同罪。
この先一生、薄暗くて臭い牢屋生活。カスタネアにも二度と会えない。
絶望が俺を支配する。その場に座り込みそうになる俺を兵士たちが無理矢理立たせる。
「い、嫌だ……殺せ……カスタネアに会わせてくれないなら殺してくれよぉ……」
「安心しろ。お前が死ねば罪を償う奴がいなくなる。大事に大事に生かしてやる」
そう言って兵士は布を俺の口に突っ込んだ。これでは舌を噛み切って自死出来ない。
カスタネア、と愛しい名前を呼ぶことも出来ない。
(美女ならどんな女でもルビス家で匿ってくれるという噂を聞いてリリィ王女はルビス家に逃げ込みましたが、その噂を流していたのはファリス公だったりします)
夜中になると、父上の私室から女の喘ぎ声が聞こえてくる。
父上は母上を本命にしつつ、それだけで飽きてしまうからと愛人も数人持っている。
ちなみに母上にそんな者はおらず、父上だけ。愛人を持つのは貴族の男に生まれた特権のようなものだ。
女の嬌声を聞いていると俺も肉欲が湧き上がるが、それを発散させる術はない。メイドに相手をさせようと思ったが、うちにいるのは母上と、母上に近い年頃の女だけだ。
若いメイドは皆、父上に触られたと文句を言って辞めている。別に孕まされたわけでもないのに、忍耐力のない連中だった。
それに比べてカスタネアは……。会えない時間が続けば続くほどカスタネアへの想いも膨らんでいく。
溜め息をつき、途中まで読んでいた新聞に視線を向けた。
現在、リスター国ではとんでもないことが起こっている。リリィ王女が国賊として指名手配されているのだ。
俺に婚約破棄されてからすぐに、とある貴族と恋仲になったらしい。これがまたタチの悪い男だったようで、リリィ王女はそいつに完全に骨抜きにされた後、国家機密の情報を持ち出すように命じられた。
半ば洗脳を受けていた状態となったリリィ王女はそれに従い、国の重要な情報を弱小貴族に提供してしまった。
国王陛下は怒り狂った。今までリリィ王女の男漁りには苦労させられていたようだが、今回の件で親としての情を完全に失った。
リリィ王女は王族から追放され、貴族になることすら許されず平民となった。
そして裁判にかけられていたが、刑が確定する間際に逃亡したのだ。
自業自得とはこういうことを言うのだろう。俺は鼻を鳴らし、カスタネアとの甘い思い出に浸ろうとして──。
「あの女を匿う愚か者どもめ! 貴様らも同罪だ!!」
廊下から怒号と無数の足音が聞こえた。
俺が混乱しているとドアが蹴破られ、大勢の兵士が室内に雪崩れ込んでくる。
「なっ、何だ貴様らは!? ここが誰の屋敷か分かっているのか!」
「ああ、理解している。ルビス侯爵の屋敷だな」
先頭の兵士は平然とした表情で答えた。
全く理解していないではないか。それに反逆者を匿う? 何を言っているのやら。
呆れる俺だったが、廊下から聞こえる女が抵抗するような声に息を呑む。
あれは父上の愛人の声だ。いいや、それだけではない。あの声は……。
俺は慌てて部屋を飛び出した。
「やめっ、やめなさい! こんなことをして、父上が黙っていませんよ!」
そこには下着姿で兵士に押さえ付けられているリリィの姿があった。その奥には青ざめた顔の父上もいる。
父上の愛人はリリィだったのか? いや、ただの愛人などではなくて……。
「まさか元王女を性奴隷にするのと引き換えに、匿っていたのがルビス家だったとは……まあ、納得だな」
兵士の一人が発した言葉に、俺は無意識に首を横に振った。違う、俺は知らない。何も何も……!
そう否定しようとした時、大きなどよめきが起こった。
床に蹲る父上に母上が寄り添っている。
キッチンから持ち出したナイフで母上が父上の腹を刺したらしい。
苦悶の表情を浮かべる父上の口から赤黒い血が流れ出す。
「ぐはっ、ぁ……おま、ど、して……!?」
「わ、私は言ったわ。あの女がうちに助けを求めてきた時、すぐに城に突き出してしまえばいいって。だけど、それをあなたが……!」
「ふ、ふざけるな……こんなことをして、どうなるか……」
「うるさいクソ男! 私を散々この家に縛り付けたくせに、自分は浮気するなんて!! 私の人生を返しなさいよ!!」
兵士が止める間もなく、母上は再び父上の腹を刺した。刃が肉に沈む音が父上の断末魔で掻き消される。
床に広がる赤い水溜まり。あれではもう父上は助からない。
呆然とする俺に、母上が振り向いて言う。
「ねえ、ライネックくん。早くカスタネアを連れてきてちょうだい!」
「は、母上、何を言って……」
「カスタネアを虐めてストレス発散したいのよ! あの子で遊ぶの大好きなのよ……うふふ……」
「は……」
「ふふ……あははは…………!」
父上は動かなくなり、母上は壊れた。
不気味な笑い声が響き渡る中、俺は目の前が真っ暗になっていくのを感じた。
父上が独断でリリィを匿った罪を背負わなければならない。
リスター国では犯罪者が裁判前に死亡した場合、他の家族が代わりに償うという法律がある。母上はこの通りなので、その役割は必然的に俺となる。
「い、嫌だ……俺は……俺は……っ」
間違いなく爵位は剥奪。俺は平民に落とされる。
国家を脅かす行動をしたリリィは重罪となる。この国には死刑制度はないものの、終身刑を言い渡される可能性が高い。そしてそれを匿った父上……の代理で裁かれる俺も恐らくは同罪。
この先一生、薄暗くて臭い牢屋生活。カスタネアにも二度と会えない。
絶望が俺を支配する。その場に座り込みそうになる俺を兵士たちが無理矢理立たせる。
「い、嫌だ……殺せ……カスタネアに会わせてくれないなら殺してくれよぉ……」
「安心しろ。お前が死ねば罪を償う奴がいなくなる。大事に大事に生かしてやる」
そう言って兵士は布を俺の口に突っ込んだ。これでは舌を噛み切って自死出来ない。
カスタネア、と愛しい名前を呼ぶことも出来ない。
(美女ならどんな女でもルビス家で匿ってくれるという噂を聞いてリリィ王女はルビス家に逃げ込みましたが、その噂を流していたのはファリス公だったりします)
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