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13.俺のカスタネア(ライネック視点)
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美味しくて優しい味の菓子を作る少女がいるらしい。
その噂を聞いて俺は少女がいるという菓子店に自ら足を運んだ。
近頃の王族は陛下を除く全員が甘味にハマっているようで、上質なものを献上出来ればいい点数稼ぎになると考えた。
まだまだ歴史の浅いルビス家。
侯爵の爵位があるとはいえ、他の貴族に蹴落とされる可能性はいつも存在している。少しでも後ろ盾は多く、頑丈なものの方がいい。
そうして出会ったカスタネアという少女は……俺好みだった。
菓子作りで邪魔にならないようにするためか金髪を短く切り揃えているが、女としての魅力を半減させるどころか愛らしさを引き立てている。
そのつぶらな栗色の瞳も大粒の宝石、いや飴玉のようで舐めて味を確かめたいという衝動に駆られた。
何よりも、その菓子作りの腕が本物であったことに俺は驚きを隠せなかった。
ただ甘いだけだけではない。香ばしいだけではない。口にするとホッとするような不思議な味わい。もっと食べたいと手を伸ばしてしまうのを止められない。
「カスタネアがいれば俺の人生は素晴らしいものとなる」
平民との婚姻が認められている国でよかったと、この時ほど思ったことはない。俺は早速カスタネアに求婚した。
男性経験がほぼ皆無に近いのだろう。鈍いところのあるカスタネアに辟易もしたが、同時に庇護欲もそそられた。
この無知で無垢な生き物を俺が守らなければならない。
他の男の手垢がついて穢れてしまわないように。
カスタネアを婚約者にして屋敷に住まわせることになり、まずは菓子を三種類作るように命じた。
理由は言わないでおく。王族やルビス家よりも権力の強い貴族への献上品を作っていると知ったら、調子に乗らせてしまうかもしれない。
それは駄目だ。カスタネアは物腰柔らかで純粋な心の持ち主で居続けてもらいたい。
それに夫がそんな上の人間に媚びを売る男だと分かれば、愛情が薄れてしまう恐れもあった。
カスタネアは俺の言うことを聞いて、毎日美味い菓子を作り続けてくれる。
そのおかげでまずはリリィ王女に気に入られ、あの甘味嫌いの陛下からは菓子を褒める書状をいただけた。
父上も母上も大いに喜んでくれた。やはりカスタネアを婚約者にしたのは間違いではなかった。
……しかし、ここで問題が出てくる。
カスタネアは貴族ではなく、ただの平民。陛下のお気に入りとなった俺の伴侶としては不安要素が大きい。
ここは早急にカスタネアに教育をさせなければ。俺は彼女に貴族社会についてやマナーを学ぶように命じた。
菓子作りの合間にやらせるのは大変かもしれないと思い、母上に相談していたが、「そのくらい愛する夫のためなら我慢出来るわよ」と返って来たので安心した。
そうだ。愛があればどんな試練だって乗り越えられる。
俺がカスタネアを愛してくれるように、カスタネアも俺を愛してくれる。俺の命令にも健気に従ってくれている。
だから俺もその思いに応えて奮闘していた。
俺のために頑張って欲しい。俺のことだけを考えて欲しい。
そう思い、家族への手紙を書くことを禁じた。愛する者を持つ男なら誰だってこうするはずだ。
父上もそうだった。母上が好きで好きで、必死に縛り付けて口説き続けた結果、母上も父上を愛するようになったと聞く。
以前よりもリリィ王女から茶会に誘われる頻度が多くなった。
最初は菓子目当てのようだったが、今は俺自身を狙っているのだと何となく感じた。
温厚そうで儚げなイメージのあるリリィ王女だが、その実相手のいる男ばかりを好む悪癖がある。
チャンスだと父上と母上は鼻息を荒くして言った。このままリリィ王女を落とすことが出来れば、ルビス家は強大な力を手に入れられる。
「あの女との婚約を破棄してリリィ様と結婚しなさい。その方があなたのためにもなるのよ」
「そ、それは出来ない。俺が愛しているのはカスタネアだ。彼女を突き放すことなんて……」
「落ち着け、ライネック。カスタネアを縛り付けるだけなら、いくらでも方法はあるだろう」
「父上?」
「お前はリリィ王女との仲を深めておけ。いいな?」
爵位を俺に譲った身とはいえ、父上は頼もしい。俺は父上の言う通りにした。
そうなると仕事をする時間が少なくなるので、カスタネアにも手伝わせることにした。菓子店で働いていたこともあってか、そこらの貴族の女よりも知識や経験が備わっていて助かる。
この頃になるとカスタネアは疲れた表情を見せ始めていたが、俺は見て見ぬ振りをした。
俺も辛いんだ、カスタネア……。
その噂を聞いて俺は少女がいるという菓子店に自ら足を運んだ。
近頃の王族は陛下を除く全員が甘味にハマっているようで、上質なものを献上出来ればいい点数稼ぎになると考えた。
まだまだ歴史の浅いルビス家。
侯爵の爵位があるとはいえ、他の貴族に蹴落とされる可能性はいつも存在している。少しでも後ろ盾は多く、頑丈なものの方がいい。
そうして出会ったカスタネアという少女は……俺好みだった。
菓子作りで邪魔にならないようにするためか金髪を短く切り揃えているが、女としての魅力を半減させるどころか愛らしさを引き立てている。
そのつぶらな栗色の瞳も大粒の宝石、いや飴玉のようで舐めて味を確かめたいという衝動に駆られた。
何よりも、その菓子作りの腕が本物であったことに俺は驚きを隠せなかった。
ただ甘いだけだけではない。香ばしいだけではない。口にするとホッとするような不思議な味わい。もっと食べたいと手を伸ばしてしまうのを止められない。
「カスタネアがいれば俺の人生は素晴らしいものとなる」
平民との婚姻が認められている国でよかったと、この時ほど思ったことはない。俺は早速カスタネアに求婚した。
男性経験がほぼ皆無に近いのだろう。鈍いところのあるカスタネアに辟易もしたが、同時に庇護欲もそそられた。
この無知で無垢な生き物を俺が守らなければならない。
他の男の手垢がついて穢れてしまわないように。
カスタネアを婚約者にして屋敷に住まわせることになり、まずは菓子を三種類作るように命じた。
理由は言わないでおく。王族やルビス家よりも権力の強い貴族への献上品を作っていると知ったら、調子に乗らせてしまうかもしれない。
それは駄目だ。カスタネアは物腰柔らかで純粋な心の持ち主で居続けてもらいたい。
それに夫がそんな上の人間に媚びを売る男だと分かれば、愛情が薄れてしまう恐れもあった。
カスタネアは俺の言うことを聞いて、毎日美味い菓子を作り続けてくれる。
そのおかげでまずはリリィ王女に気に入られ、あの甘味嫌いの陛下からは菓子を褒める書状をいただけた。
父上も母上も大いに喜んでくれた。やはりカスタネアを婚約者にしたのは間違いではなかった。
……しかし、ここで問題が出てくる。
カスタネアは貴族ではなく、ただの平民。陛下のお気に入りとなった俺の伴侶としては不安要素が大きい。
ここは早急にカスタネアに教育をさせなければ。俺は彼女に貴族社会についてやマナーを学ぶように命じた。
菓子作りの合間にやらせるのは大変かもしれないと思い、母上に相談していたが、「そのくらい愛する夫のためなら我慢出来るわよ」と返って来たので安心した。
そうだ。愛があればどんな試練だって乗り越えられる。
俺がカスタネアを愛してくれるように、カスタネアも俺を愛してくれる。俺の命令にも健気に従ってくれている。
だから俺もその思いに応えて奮闘していた。
俺のために頑張って欲しい。俺のことだけを考えて欲しい。
そう思い、家族への手紙を書くことを禁じた。愛する者を持つ男なら誰だってこうするはずだ。
父上もそうだった。母上が好きで好きで、必死に縛り付けて口説き続けた結果、母上も父上を愛するようになったと聞く。
以前よりもリリィ王女から茶会に誘われる頻度が多くなった。
最初は菓子目当てのようだったが、今は俺自身を狙っているのだと何となく感じた。
温厚そうで儚げなイメージのあるリリィ王女だが、その実相手のいる男ばかりを好む悪癖がある。
チャンスだと父上と母上は鼻息を荒くして言った。このままリリィ王女を落とすことが出来れば、ルビス家は強大な力を手に入れられる。
「あの女との婚約を破棄してリリィ様と結婚しなさい。その方があなたのためにもなるのよ」
「そ、それは出来ない。俺が愛しているのはカスタネアだ。彼女を突き放すことなんて……」
「落ち着け、ライネック。カスタネアを縛り付けるだけなら、いくらでも方法はあるだろう」
「父上?」
「お前はリリィ王女との仲を深めておけ。いいな?」
爵位を俺に譲った身とはいえ、父上は頼もしい。俺は父上の言う通りにした。
そうなると仕事をする時間が少なくなるので、カスタネアにも手伝わせることにした。菓子店で働いていたこともあってか、そこらの貴族の女よりも知識や経験が備わっていて助かる。
この頃になるとカスタネアは疲れた表情を見せ始めていたが、俺は見て見ぬ振りをした。
俺も辛いんだ、カスタネア……。
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