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10.少し前の話2(シリル視点)

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 面白いことがたくさん分かった。

 まずカスタネアが自由気ままに生活している現場を、実際に目にした者はいないこと。
 カスタネアに関する噂の発言者は、ルビス侯爵の実母であること。
 カスタネアの作る菓子を気に入った貴族から、その代金をルビス侯爵がこっそり受け取っていること。
 カスタネアの菓子をきっかけに友好関係を築いたリリィ王女が、ルビス卿の新たな婚約者となること。
 その報告を舞踏会の最中に行うこと。
 カスタネアにはそれについて何一つ知らされていないらしいこと。

 悪辣にも程があると、報告書に目を通しながら僕は思わず笑ってしまった。
 これが侯爵にまで上り詰めた男がすることか。
 婚約者を利用するだけで利用して、王族との繋がりを強固なものにしてから捨てるなんてろくでもない人間性だ。
 ミリティリアにもそれなりにヤバい人物はちらほらいるけど、ここまで酷いのはそうそういない。

「どうしようかな」

 独り言を漏らす。
 皇帝陛下に報告したら、かなり面白いことになりそう。
 あの人は大の愛妻家で、女性の人権問題っていうお偉いさんたちが触れたがらない部分にもビシバシ踏み込んできた。そんな人がルビス侯爵の行いを看過するとは思えない。
 でも国際問題に発展するのはまずいかも。元々の目的である菓子職人集めにも影響が出かねない。
 だから報告は一旦保留。それにカスタネアが誰のものでもなくなるなら都合がいい。スカウトしやすいし。

 そして僕は、リスター国の貴族から舞踏会の招待状をこっそり譲ってもらって出席してみた。
 そこで出会ったカスタネアはとても可愛い女の子だった。
 短く切り揃えた金髪と大きな栗色の瞳が小動物を彷彿とさせる。

 そして、そのカスタネアを虐げている様子のルビス侯爵に軽く殺意を覚えた。
 一見優しい婚約者のように振舞っているが、周囲の人間に悟られないようカスタネアに何かを耳打ちしている。その瞬間、彼女は怯えた表情を浮かべた。

 うん、最悪。
 婚約破棄されたカスタネアはルビス侯爵の屋敷で働くことになっているらしいけど、そうなったら彼女の立場はもっと悪いものとなる。
 だから僕がカスタネアを貰う。ほら、カスタネアも僕の下で働きたいって言ってくれたし、リリィ王女も納得してくれた。
 ルビス侯爵だけが拒絶しているけど知らないよ。色々事情があったとしても、婚約者になる前は元気な女の子だったらしいカスタネアをここまで内気な性格にしてしまったのは彼。

 もしカスタネアを一旦屋敷に帰らせたら、ルビス侯爵に何をされるか分かったものじゃない。
 部下にはパーティーの最中に屋敷へ向かわせ、カスタネアの私物を持ち出すように指示を出している。

 君はリリィ王女と仲良くしていればいいよ、ルビス侯ライネック。
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