4 / 21
4.ダンス
しおりを挟む
いよいよダンスを踊る時間になった。
私のお相手は勿論ライネック様。いつかこういう日が来るのに備えてダンスの特訓はしていた。
だけどライネック様は急に私から離れようとした。何も言わず、私に一声かけることすらなく。
困惑しつつ、私はライネック様を呼び止めた。
「ライネック様? あ、あの踊りの時間では……」
「ああ、そうだな。俺には相手がいるから、お前は壁の方に立って眺めていろ」
「え、あの……」
どういうこと?
混乱していると、青色のドレスを着た綺麗な女の人がライネック様に手を振っていた。ライネック様も柔らかく笑いながら手を振り返す。
「お前は初めて見るかもしれないが、あの御方はこの国の王女であるリリィ様だ。俺をダンスの相手に指名してくださった」
「で、ですが、婚約者がいる方は婚約者と踊ることになっているのでは……」
「お前と無駄話をしている暇はない。それと、お前は誰かを誘ったりするんじゃないぞ。俺以外の男に触らせるな」
淡々とした口調で告げ、ライネック様はリリィ様の下に行ってしまった。
呼び止めることは出来なかった。だってリリィ様がライネック様を指名したのだ。
もしここで私がライネック様を引き留めれば、ライネック様にもリリィ様にも迷惑がかかるもの。私が我慢すれば平和に終わる。
ホール内に流れる曲に合わせて、男女が踊り始める。
みんな綺麗でかっこよくて素敵。
一番目立ってるのはライネック様とリリィ様だった。他の人たちよりも踊りも上手で、称賛の声が飛び交う。
……これでよかったと思う。もし私がライネック様と踊っていたら、こんな風に褒められることもなかった。
「あら、あそこにいるのって平民のくせにルビス卿の屋敷に居候している小娘じゃない?」
「ほんとだわ。何であんなところにいるのかしらねぇ」
「いいじゃない。あんなダサいドレスを着た女と踊るなんて、ルビス卿が可哀想だし!」
「何あのドレス。古臭いわねぇ……センスがないわ」
どこからか聞こえてくる会話に、私は聞こえない振りをした。
このドレスはお母様が若い頃に着ていたもの。「ライネックくんのお相手に着せたいって思っていたの」と用意してくれた。ダサいなんて……そんな風に言わないで。
ダンスの時間が終わる。ライネック様が戻って来るのを待っていたのだけれど、何故かリリィ様と一緒に反対方向に歩き始める。
その先には黄金色に輝く演壇。二人が楽しそうに笑い合いながら、そこへ向かう。
心臓が痛い。
何だかとても嫌な予感がする。
行かないで。お願い。
がくがくと足が震え始める私を置き去りにし、二人は演壇に上がった。
そして、
「今夜は皆様にお伝えしたい報せがあります。リスター王国第一王女であるリリィ様と、この私ルビス侯ライネックとの婚約に関してです」
リリィ様の腰に手を回しながら、ライネック様は笑顔でそう宣言した。
私のお相手は勿論ライネック様。いつかこういう日が来るのに備えてダンスの特訓はしていた。
だけどライネック様は急に私から離れようとした。何も言わず、私に一声かけることすらなく。
困惑しつつ、私はライネック様を呼び止めた。
「ライネック様? あ、あの踊りの時間では……」
「ああ、そうだな。俺には相手がいるから、お前は壁の方に立って眺めていろ」
「え、あの……」
どういうこと?
混乱していると、青色のドレスを着た綺麗な女の人がライネック様に手を振っていた。ライネック様も柔らかく笑いながら手を振り返す。
「お前は初めて見るかもしれないが、あの御方はこの国の王女であるリリィ様だ。俺をダンスの相手に指名してくださった」
「で、ですが、婚約者がいる方は婚約者と踊ることになっているのでは……」
「お前と無駄話をしている暇はない。それと、お前は誰かを誘ったりするんじゃないぞ。俺以外の男に触らせるな」
淡々とした口調で告げ、ライネック様はリリィ様の下に行ってしまった。
呼び止めることは出来なかった。だってリリィ様がライネック様を指名したのだ。
もしここで私がライネック様を引き留めれば、ライネック様にもリリィ様にも迷惑がかかるもの。私が我慢すれば平和に終わる。
ホール内に流れる曲に合わせて、男女が踊り始める。
みんな綺麗でかっこよくて素敵。
一番目立ってるのはライネック様とリリィ様だった。他の人たちよりも踊りも上手で、称賛の声が飛び交う。
……これでよかったと思う。もし私がライネック様と踊っていたら、こんな風に褒められることもなかった。
「あら、あそこにいるのって平民のくせにルビス卿の屋敷に居候している小娘じゃない?」
「ほんとだわ。何であんなところにいるのかしらねぇ」
「いいじゃない。あんなダサいドレスを着た女と踊るなんて、ルビス卿が可哀想だし!」
「何あのドレス。古臭いわねぇ……センスがないわ」
どこからか聞こえてくる会話に、私は聞こえない振りをした。
このドレスはお母様が若い頃に着ていたもの。「ライネックくんのお相手に着せたいって思っていたの」と用意してくれた。ダサいなんて……そんな風に言わないで。
ダンスの時間が終わる。ライネック様が戻って来るのを待っていたのだけれど、何故かリリィ様と一緒に反対方向に歩き始める。
その先には黄金色に輝く演壇。二人が楽しそうに笑い合いながら、そこへ向かう。
心臓が痛い。
何だかとても嫌な予感がする。
行かないで。お願い。
がくがくと足が震え始める私を置き去りにし、二人は演壇に上がった。
そして、
「今夜は皆様にお伝えしたい報せがあります。リスター王国第一王女であるリリィ様と、この私ルビス侯ライネックとの婚約に関してです」
リリィ様の腰に手を回しながら、ライネック様は笑顔でそう宣言した。
57
お気に入りに追加
3,665
あなたにおすすめの小説
ヒロインではないので婚約解消を求めたら、逆に追われ監禁されました。
曼珠沙華
恋愛
「運命の人?そんなの君以外に誰がいるというの?」
きっかけは幼い頃の出来事だった。
ある豪雨の夜、窓の外を眺めていると目の前に雷が落ちた。
その光と音の刺激のせいなのか、ふと前世の記憶が蘇った。
あ、ここは前世の私がはまっていた乙女ゲームの世界。
そしてローズという自分の名前。
よりにもよって悪役令嬢に転生していた。
攻略対象たちと恋をできないのは残念だけど仕方がない。
婚約者であるウィリアムに婚約破棄される前に、自ら婚約解消を願い出た。
するとウィリアムだけでなく、護衛騎士ライリー、義弟ニコルまで様子がおかしくなり……?
両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました
ボタニカルseven
恋愛
HOT1位ありがとうございます!!!!!!
「どうしたら愛してくれましたか」
リュシエンヌ・フロラインが最後に聞いた問いかけ。それの答えは「一生愛すつもりなどなかった。お前がお前である限り」だった。両親に愛されようと必死に頑張ってきたリュシエンヌは愛された妹を嫉妬し、憎み、恨んだ。その果てには妹を殺しかけ、自分が死刑にされた。
そんな令嬢が時を戻り、両親からの愛をもう求めないと誓う物語。
婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。
和泉鷹央
恋愛
アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。
自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。
だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。
しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。
結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。
炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥
2021年9月2日。
完結しました。
応援、ありがとうございます。
他の投稿サイトにも掲載しています。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?
なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」
顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される
大きな傷跡は残るだろう
キズモノのとなった私はもう要らないようだ
そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ
そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった
このキズの謎を知ったとき
アルベルト王子は永遠に後悔する事となる
永遠の後悔と
永遠の愛が生まれた日の物語
溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~
弓はあと
恋愛
「センティア、君との婚約は破棄させてもらう。病弱な妹を苛めるような酷い女とは結婚できない」
……病弱な妹?
はて……誰の事でしょう??
今目の前で私に婚約破棄を告げたジラーニ様は、男ふたり兄弟の次男ですし。
私に妹は、元気な義妹がひとりしかいないけれど。
そう、貴方の腕に胸を押しつけるようにして腕を絡ませているアムエッタ、ただひとりです。
※現実世界とは違う異世界のお話です。
※全体的に浮気がテーマの話なので、念のためR15にしています。詳細な性描写はありません。
※設定ゆるめ、ご都合主義です。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。
【本編完結】はい、かしこまりました。婚約破棄了承いたします。
はゆりか
恋愛
「お前との婚約は破棄させもらう」
「破棄…ですか?マルク様が望んだ婚約だったと思いますが?」
「お前のその人形の様な態度は懲り懲りだ。俺は真実の愛に目覚めたのだ。だからこの婚約は無かったことにする」
「ああ…なるほど。わかりました」
皆が賑わう昼食時の学食。
私、カロリーナ・ミスドナはこの国の第2王子で婚約者のマルク様から婚約破棄を言い渡された。
マルク様は自分のやっている事に酔っているみたいですが、貴方がこれから経験する未来は地獄ですよ。
全くこの人は…
全て仕組まれた事だと知らずに幸せものですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる