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4.ダンス

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 いよいよダンスを踊る時間になった。
 私のお相手は勿論ライネック様。いつかこういう日が来るのに備えてダンスの特訓はしていた。
 だけどライネック様は急に私から離れようとした。何も言わず、私に一声かけることすらなく。
 困惑しつつ、私はライネック様を呼び止めた。

「ライネック様? あ、あの踊りの時間では……」
「ああ、そうだな。俺には相手がいるから、お前は壁の方に立って眺めていろ」
「え、あの……」

 どういうこと?
 混乱していると、青色のドレスを着た綺麗な女の人がライネック様に手を振っていた。ライネック様も柔らかく笑いながら手を振り返す。

「お前は初めて見るかもしれないが、あの御方はこの国の王女であるリリィ様だ。俺をダンスの相手に指名してくださった」
「で、ですが、婚約者がいる方は婚約者と踊ることになっているのでは……」
「お前と無駄話をしている暇はない。それと、お前は誰かを誘ったりするんじゃないぞ。俺以外の男に触らせるな」

 淡々とした口調で告げ、ライネック様はリリィ様の下に行ってしまった。
 呼び止めることは出来なかった。だってリリィ様がライネック様を指名したのだ。
 もしここで私がライネック様を引き留めれば、ライネック様にもリリィ様にも迷惑がかかるもの。私が我慢すれば平和に終わる。

 ホール内に流れる曲に合わせて、男女が踊り始める。
 みんな綺麗でかっこよくて素敵。
 一番目立ってるのはライネック様とリリィ様だった。他の人たちよりも踊りも上手で、称賛の声が飛び交う。
 ……これでよかったと思う。もし私がライネック様と踊っていたら、こんな風に褒められることもなかった。

「あら、あそこにいるのって平民のくせにルビス卿の屋敷に居候している小娘じゃない?」
「ほんとだわ。何であんなところにいるのかしらねぇ」
「いいじゃない。あんなダサいドレスを着た女と踊るなんて、ルビス卿が可哀想だし!」
「何あのドレス。古臭いわねぇ……センスがないわ」

 どこからか聞こえてくる会話に、私は聞こえない振りをした。
 このドレスはお母様が若い頃に着ていたもの。「ライネックくんのお相手に着せたいって思っていたの」と用意してくれた。ダサいなんて……そんな風に言わないで。
 ダンスの時間が終わる。ライネック様が戻って来るのを待っていたのだけれど、何故かリリィ様と一緒に反対方向に歩き始める。
 その先には黄金色に輝く演壇。二人が楽しそうに笑い合いながら、そこへ向かう。

 心臓が痛い。
 何だかとても嫌な予感がする。
 行かないで。お願い。
 がくがくと足が震え始める私を置き去りにし、二人は演壇に上がった。
 そして、

「今夜は皆様にお伝えしたい報せがあります。リスター王国第一王女であるリリィ様と、この私ルビス侯ライネックとの婚約に関してです」

 リリィ様の腰に手を回しながら、ライネック様は笑顔でそう宣言した。
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