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1.カスタネア
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少し酸味の強い林檎もたっぷりの砂糖でことこと煮込めば、とろりと柔らかくて甘い砂糖煮に生まれ変わる。
それをバターをたっぷり練り込んだパイ生地に閉じ込めて焼いたら、美味しいアップルパイの出来上がり。
香ばしいパイの香りと林檎の芳香が、今日も大成功したのだと私に教えてくれる。
ちゃんと作ることが出来てよかった。嬉しくて思わず笑みが零れた。
だってそうじゃないと、
「ふむ。素晴らしいアップルパイだ。これなら喜んでくれるだろうな。お前は優秀な女だ、カスタネア」
私はこの方との婚約を破棄されてしまうから。
ルビス侯爵の現当主、ライネック様が私を将来の結婚相手に選んだことに一番驚いたのは私だった。
だって私は貴族ではない。それだけじゃない。身寄りだって誰もいない。
娼婦だった母は私を産んですぐに死んでしまって、父は顔も名前も分からない。客の一人だったのだと思う。
そんな私が母と同じ職に就かず、どうにか生きてこれたのは、赤ん坊だった私を引き取ってくれた人たちがいたから。
お菓子店の、子供を産めない体質だった奥さんが私を自分たちで育てようって言ってくれた。
店長さんもすぐに頷いて私を温かく迎えてくれた。
だから私は二人への恩返しのために、店のお手伝いをしたし、お菓子作りも練習した。
初めて作ったクッキーはぼそぼそしていて所々焦げていたけど、美味しかったのを覚えている。
いつからか、私が作ったお菓子が店に並ぶようになった。みんなが美味しいって笑ってくれるのを見て涙が零れた。
私のクッキーを食べて、会って話をしてみたいと言ったのがライネック様。
こんなに美味い菓子を食べたことはない。毎日作って欲しいと言われ、嬉しくて「お店で毎日待っています」と答えて笑われてしまった。
男性とのお付き合いがなかったから、毎日云々というのがプロポーズの言葉だと私は気付けなかった。
この国は婚姻制度が他国に比べて緩くて、貴族と平民の結婚も認められている。
でも私には家族もいないし、貴族社会のルールも詳しくない。体も貧相で、顔だって可愛くない。
最初は私も断ったけれど、「お前がいい。お前でなければ駄目だ」とライネック様も引いてくれず、結局婚約した。
長年お世話になったお菓子が店を離れ、私は豪邸で暮らすことに。
店長さんと奥さん……ううん、お父さんとお母さんは寂しがっていたけど、週に一度手紙を送ると約束した。
そして、このあと私には幸せな毎日が待っている──はずだった。
それをバターをたっぷり練り込んだパイ生地に閉じ込めて焼いたら、美味しいアップルパイの出来上がり。
香ばしいパイの香りと林檎の芳香が、今日も大成功したのだと私に教えてくれる。
ちゃんと作ることが出来てよかった。嬉しくて思わず笑みが零れた。
だってそうじゃないと、
「ふむ。素晴らしいアップルパイだ。これなら喜んでくれるだろうな。お前は優秀な女だ、カスタネア」
私はこの方との婚約を破棄されてしまうから。
ルビス侯爵の現当主、ライネック様が私を将来の結婚相手に選んだことに一番驚いたのは私だった。
だって私は貴族ではない。それだけじゃない。身寄りだって誰もいない。
娼婦だった母は私を産んですぐに死んでしまって、父は顔も名前も分からない。客の一人だったのだと思う。
そんな私が母と同じ職に就かず、どうにか生きてこれたのは、赤ん坊だった私を引き取ってくれた人たちがいたから。
お菓子店の、子供を産めない体質だった奥さんが私を自分たちで育てようって言ってくれた。
店長さんもすぐに頷いて私を温かく迎えてくれた。
だから私は二人への恩返しのために、店のお手伝いをしたし、お菓子作りも練習した。
初めて作ったクッキーはぼそぼそしていて所々焦げていたけど、美味しかったのを覚えている。
いつからか、私が作ったお菓子が店に並ぶようになった。みんなが美味しいって笑ってくれるのを見て涙が零れた。
私のクッキーを食べて、会って話をしてみたいと言ったのがライネック様。
こんなに美味い菓子を食べたことはない。毎日作って欲しいと言われ、嬉しくて「お店で毎日待っています」と答えて笑われてしまった。
男性とのお付き合いがなかったから、毎日云々というのがプロポーズの言葉だと私は気付けなかった。
この国は婚姻制度が他国に比べて緩くて、貴族と平民の結婚も認められている。
でも私には家族もいないし、貴族社会のルールも詳しくない。体も貧相で、顔だって可愛くない。
最初は私も断ったけれど、「お前がいい。お前でなければ駄目だ」とライネック様も引いてくれず、結局婚約した。
長年お世話になったお菓子が店を離れ、私は豪邸で暮らすことに。
店長さんと奥さん……ううん、お父さんとお母さんは寂しがっていたけど、週に一度手紙を送ると約束した。
そして、このあと私には幸せな毎日が待っている──はずだった。
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